第628話 魔法戦
白炎に対するは3枚の石壁と、2枚の氷壁。
通常ならば、この魔法防壁で充分だろう。
ただ今回の白炎には、これだけでは安心できない。
ファイアでさえ3枚の壁を要するほどの火力だったんだ。
フレイムの白炎を防ぐために何枚の壁が必要になることか?
と考えている間に。
ガッシャーーン!
ジュウゥゥゥ……。
俺の石壁が崩壊し、シャリエルンの氷壁も溶解蒸発。
「……」
石壁でも20秒ももたないのか。
恐ろしい白炎の威力だ。
が、それでも。
「氷壁!」
「ストーンウォール!」
破られれば新たに作るだけ。
何度でも作ってやる。
ゴゴオオォォォ!!
「氷壁!」
「ストーンウォール!」
ジュウゥゥゥ……。
ガッシャーーン!
「氷壁!」
「ストーンウォール!」
何枚作り出したのか忘れてしまう程の魔法壁構築。
シャリエルンも俺も結構な魔力を消費してしまった。
ただ、ここにきてようやく白炎の勢いが弱まりつつある。
「そろそろか?」
「もう少しですね」
火勢は弱まったものの、攻めに回るにはまだ早い。
魔法壁の上からは熱風が降りかかってくるし、壁の外から伝わる高熱も相当なものだからな。
しかし、炎を吹き出すだけの単純な術式なのに、ここまで防戦一方になるなんて。威力も持続力もとんでもない火魔法だよ。壁で防ぎ、魔力で全身を保護していなければどうなっていたことか、考えるだけで恐ろしい。
「……」
信じがたいほどの術者の腕前。
やはり、見かけ通りの少女とは思えないな。
「このままでは後手に回るばかり。埒が明かない」
「ええ」
「ならば、やることは1つ。炎が消えたら撃つぞ」
「了解です」
シャリエルンの考え通り。
炎が消えたところで魔法を撃ち込むべき。
この少女がいかに腕利きとはいえ、俺とシャリエルンの同時発動に対応するのは簡単ではないはず。仮に対応できたとしても、隙は生まれるだろう。そこに剣を叩き込めば何とかなる。
「今だ」
白炎消失と同時にシャリエルンが声を上げ。
「アイスアロー!」
もちろん、俺も。
「雷撃!」
魔法壁の後ろから2撃を発射。
氷矢と紫電が少女に襲い掛かる。着弾する。
はずが。
「フレイム」
さっきと同じフレイムという発声。
その一声で白炎が少女の前に吹き上がり。
「ぬっ!?」
飛来する氷矢と紫電を白炎が包み込み。
そのまま霧散してしまった。
「……」
氷矢を溶かし消すのはまだ理解できる。が、雷撃まで消し去れるのか?
あのフレイムは単なる攻撃魔法ではなく、白炎を操る汎用魔法なのか?
「まだだ!」
シャリエルン?
「続けるぞ! アイスアロー!」
そうだな。
魔法壁同様、何度でもやり直せばいい。
「雷撃!」
「雷撃!」
今回は二連撃だ。
「フレイム」
が、またしてもフレイムの白炎が……。
なんて惚けている場合じゃない。
「アイスアロー!」
次は石弾の三連撃。
「ストーンボール!」
「ストーンボール!」
「ストーンボール!」
紫電が駄目なら石。
いかに白炎の威力が凄かろうと、石弾を炎で消し去るのは難しいはず。
「フレイム」
なのに。
ジュウゥゥゥ……。
アイスアローと共に石の塊までもが、溶けるように消されてしまった。
「……」
「……」
本当に恐ろしくなるほどの火力だ。
「悪くない連撃だが、それでは足りぬ」
少女の言葉通り。
防御壁も構築していない敵に対して、魔法攻撃を通すことができない。
それどころか、少女の身近くに魔法を届かせることすら叶わない。
「こちらは、まだ炎しか使ってないのだがな」
これもその通り。
少女はただ炎を発動するだけ。その場から一歩も動かず、攻撃も防御も淡々とこなしているだけ。
今もこちらの仕掛けを待っているかのような余裕の表情。
「それで、まさかこの程度とは言わぬよな?」
「……」
「仮にも一流冒険者と呼ばれる者なのだ。しっかり実力を出してもらわぬと困るぞ」
少女の発言は俺に向けた挑発だろう。
隣に立つシャリエルンもそれは理解しているはず。
「さあ」
「っ! アリマ!」
分かってはいても顔が歪むのを抑えきれていない。
「剣だ」
それでも、彼女の瞳に宿る闘志は不変。
まだまだ戦える。
魔法が通用しないなら、剣で戦うと。
「了解」
もちろん、俺にも否やはない。
「ふふ、次は剣か」
剣を抜き放つこちらに対峙する少女は不敵な笑みを浮かべるのみ。
やはり、攻撃を待っているんだな。
「舐められたものだ。が、その油断が命取りになるぞ」
「面白い。見せてもらおう」
「ぬっ!」
さらなる挑発を受け、シャリエルンが駆ける。
数歩の距離を一瞬で消し去り、真正面から剣を叩き込んだ。
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<エリシティア視点>
「多くの気配です」
「リリニュス、魔物なのか? ドラゴンなのか?」
ギリオンが苦しんでいる状態であのドラゴンと戦闘になるのはまずい。
それが多数ともなれば……。
「いえ、ドラゴンではありません」
「……そうか」
良かった。
もちろん、まだ油断はできないが、ドラゴン以外なら何とかなるはず。
「で、どのような魔物だ?」
「それが……魔物ではないようです」
魔物以外の多数の生物が近づいて来る?
「おそらくは、人の気配かと」
何?
このような山中に多くの人影が?
「リリニュス殿、アイスタージウス軍では?」
「まさか! ここまで追って来たのか?」
そんなわけない。我らの場所を特定できるはずがない。
「リリニュス、どうなのだ?」
「申し訳ありません、相手の特定までは。ただ、数は30ほどです」
「ふむ……」
30人程度ならば、アイスタージウス軍とは思えないか。
それに、仮に敵軍であったとしても対処するのに手を焼く数ではない。
とはいえ、態勢を整える必要はある。
「ウォーライル、陣をひけ」
「はっ!」
「ギリオンは、後ろで休むように」
「なっ! オレも戦えんぞ!」
「今は必要ない」
「……」
「いずれギリオンの力が必要になる時が来る。それまでは回復に努めてほしい」
「……そういうことなら、しょうがねえな」
「ああ、ヴァルターもギリオンの傍で待機だ」
「承知しました」
そんな言葉を交わしている間にも、ウォーライルが布陣を終え。
あとは、接近する者たちを待つばかり。
「エリシティア様、もうすぐです。その坂下です」
リリニュスの指さす方向に視線を向けていると……。
感知通りの数の人影が目に入ってきた。





