第624話 想定外
本業多忙のため更新が遅れています。
申し訳ございません。
整然と区画された街並みを左右に見ながら駆ける。ひたすら駆け続ける。
隣には白金の髪をなびかせながら疾走するシャリエルン。黒都で最高の冒険者パーティーと評される憂鬱な薔薇の団長であり、魔法剣士でもある一流の冒険者だ。
「アリマ、君の強化脚は素晴らしいな」
「シャリエルンさんこそ、まだ余裕じゃないですか」
憂鬱な薔薇の拠点を出てから八半刻。
共に魔力で強化した脚で駆けているのだが、表情に疲れなど全く現れていない。
正直、彼女がここまで走れるとは思っていなかった。
その戦闘能力といい魔力の運用といい、彼女だけは憂鬱な薔薇の中でも別格なのかもしれないな。
しかし、この速度なら6刻もかからずエビルズピークに着けるはず。
嬉しい誤算だよ。
「余裕でもないぞ。長距離を走るのに、これ以上の速度は厳しいからな」
「距離が短ければ、もっと加速できるってことですよね?」
「それは、君も同じだろ」
「まあ……」
確かに、短距離でいいなら倍以上の速度でも走行は可能だ。
とはいえ、そのペースで息が持つのは僅かなもの。6刻という時間を駆け続けるには、この程度が最適だろう。
「馬を選ばなかったのは正解だな」
「ええ」
通常、馬が1日で走破できる距離は並歩で約50キロ。駆歩で30キロ程度。今の俺たちが劣ることはない。
「ところで、そろそろ大門だが」
「問題は門兵ですね?」
「ああ、我らはエルンベルンの移宝を使ってワディナートに入ったからな」
正規のルートで入街していないため、説明やら手続きやらが面倒になるのは当然。
その上、俺は王軍と何度も戦っている身だ。ここで面が割れる可能性も否定できない。
「黒都一の冒険者パーティーでも難しいですか?」
「平時ならまだしも、この時局ではな」
「やはり、ワディナートにもアイスタージウス王子の手先が?」
「そう考えた方がいい」
「では、どうします?」
「外壁を越える」
「……」
「まさか、できぬとは言わぬだろ?」
「まあ……」
魔法を使えば、そう難しいことでもない。
「なら、こっちだ」
シャリエルンが大門へと続く大通りを外れ、遠回りしながら外壁に近づいていく。
すると。
「ここから壁を越えよう」
大門周辺より2メートルほど低い外壁が目に飛び込んで来た。
「助けは必要かな?」
「いえ、必要ありません。シャリエルンさんは?」
「こちらも問題ない」
「でしたら、見つからぬうちに」
「ああ……ストーンウォール、ストーンウォール、ストーンウォール!」
高さの違うストーンウォールを複数形成していくシャリエルン。
どうやら階段として使うようだ。
こっちはというと。
「サンド!」
大量の砂を足下に創出し地面自体を高めていく。
時間にして数秒。あっという間に壁の高さまで到達した。
とほぼ同時にシャリエルンも壁の上に。
「さすがだ」
「いえ、シャリエルンさんには敵いませんよ」
「ふふ……君は褒めてばかりだな」
確かに、さっきから同じようなことばかり言っている気がする。
とはいえ、彼女の腕が素晴らしいのは事実なのだから仕方ない。
「ん? 誰か来るな」
「おそらく、門兵かと」
大門方向から近づく数人の気配。
門兵で間違いないはず。
ただ、その中には侮れない者も。
若干気にはなるが……。
「時間を使いたくありませんので、ここは戦わず先を急ぎましょう」
「ああ、それがいい」
2人ともに壁から飛び降り、強化脚で無事に着地。そのままワディナートの外壁をあとにする。
ここからエビルズピークまで距離はそれなりにあるものの、行く手を遮る難所は存在しない。駆け続ければ問題なく到着できるだろう。
「……」
「……」
夕暮れが迫る街道を駆ける。
シャリエルンと共に無言で足を動かし続ける。
「気づいているか?」
「……ええ」
「我らについて来れる者がいるとはな」
「信じがたいですね」
この速度に遅れないどころか、迫ろうとする気配が1つ。
「外壁で感じた気配の持ち主だろうな」
「私もそう思います」
「我らのように強化できる者がワディナートにいたと?」
自らの足で駆けているなら、そういうことになる。
ただ、シャリエルンや剣姫と同等の者が何人も存在するとは思えないのだが……。
「どうする?」
「……」
追いつかれるまで放置するか?
あるいは、足を止めて迎え撃つか?
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<エリシティア視点>
「だりゃあぁ!」
ザッザン!
ギリオンの上段からの一撃がまたしても炸裂。
「グギャァァ……」
断末魔の悲鳴をあげて、7頭目のドラゴンの眷属が崩れ落ちた。
「やったな!」
「ギリオン殿!」
「おう、どんなもんよ」
地に伏したドラゴンに片足をのせ得意満面のギリオン。
それも当然。
次から次へとこの地に現れた7頭もの眷属を討ち果たせたのはギリオンの力が大きいのだから。
「見事なものだ、ギリオン」
「だろ、姫さん」
「ああ、感謝している」
「へへ、それ程でも……あるな」
その通り。
誇る価値は十分。
おまえの活躍に異を唱える者など、この場にはいないぞ。
だが。
「鱗は平気なのか?」
「ん?」
戦い始めた時には腕の一部だけだった鱗化が、今は両腕全体に広がっている。
それどころか、服で隠れている部分まで鱗化しているかもしれない。
「まあ、こんなもん……っ!?」
「どうした?」
「ちっ! 戦いが終わった途端これかよ」
やはり痛みが!
「ギリオン、ちりょ……」
いや、だめだ。
あの鱗、今の我らに処置できるものではないんだ。
とはいえ、このままにすることも……。
「ああ、心配いらねえって」
「しかし」
「あっちの世界でも時間が経てば治まったしよ」
「……」
「うっ!」
「ギリオン殿!」
「痛むのか?」
「だ、いじょ……ううっ!」
どう考えても大丈夫じゃないだろ。
「ウォーライル、リリニュス!」
あの鱗には魔法薬も治癒魔法も効果はなかったが。
「何か手はないのか?」
「……とりあえず、鱗化した部分を確認してみましょう」
「うむ」





