第623話 休憩
「えっ? 休憩しないんですか?」
「ばかラルス、何言ってんだ!」
平原での戦闘後、休む間もなく宝具で移動したのだから休みたい気持ちは理解できる。
ただ。
「一刻も早くエリシティア様のもとに向かうべきだろ!」
「でも、少しは休まないと体がもちませんよ。ティアルダさんだって、ボロボロじゃないですか」
「なっ、ボロボロじゃねえわ。こっちは回復薬で治癒済みなんだよ」
「表面の傷は塞がっていても中は違います。それに疲労も残ってますよね」
「……」
「ドロテアさんもセルフィアナさんも」
「「……」」
確かに、ラルスの言葉にも一理ある。
赤髪の剣士ティアルダ、茶髪剣士ドロテア、青髪の魔法使いセルフィアナ、そして見習いのラルス。彼女たちには、剣姫と俺に倒されたダメージが残っているように見えるからな。
とはいえ、エリシティア様やギリオンたちのことを考えると、ゆっくり休んでいる気にはなれない。
「だから団長、副長、少し休みましょ、ねっ」
「……そう、だな」
団長シャリエルンがラルスの問いに肯定で答え、隣の副長エフェルベットも深く頷く。
「団長!」
「ワディナートからエビルズピークまでは近いと言っても、魔力強化した体で7、8刻はかかる。長時間の疾走のためにも少しは休んだ方がいいだろう」
「そりゃ、そうだけどよぉ」
「ただし、休憩は半刻だけだ。各自、短い間にしっかり休むように」
「「「……」」」
団長シャリエルンの決定に沈黙する3人。
その表情から、エリシティア様への心配が伝わってくる。
ここまでのやり取りで分かっていたとはいえ、彼女たちの思いは本物のようだな。
さて、憂鬱な薔薇の方針が定まったところで、こちらがどうするかだが……。
「アリマ?」
扉を開き外の様子を確認した剣姫が傍に戻って来た。
「休憩するのか?」
「いえ、必要ありません」
「だろうな」
そういう剣姫も休みは不要と顔に書いてある。
「ならば、2人で向かおう」
剣姫と俺だけなら6刻程度で目的地に着けるはず。
憂鬱な薔薇に付き合えば、8刻前後。
迷うこともない。
「ええ」
「アリマ、イリサヴィア、出るつもりか?」
意見が一致したところに、近づいて来るのはシャリエルン。
「今すぐに?」
「はい。私とイリサヴィア様はこれから出発します」
先にエビルズピークに向かいエリシティア様たちを探すから、憂鬱な薔薇とサイラスさんは後から来てくれればいい。
「……少し待ってもらえないだろうか?」
「「……」」
「君たちに先に出られると、行先が分からなくなる。エビルズピークは広いからな」
シャリエルンの考えも理解できるが、優先事項を間違えるわけにはいけない。
「我らだけでエリシティア様を探すのは容易ではないのだよ」
「団長の言う通り、ちっと待ってくれりゃいいだろ。おめえらがワディナートに来れたのは、こっちの宝具のおかげなんだぜ」
「……」
それについては反論もない。
ただ、半刻待った上で彼らの速度に合わせると……。
「では、2手に分けるのはどうだ?」
「分ける、ですか?」
「ああ。目的地を知るアリマとイリサヴィアのうち1人が先行し、1人が残り半刻後に後続組と共に出発する。これなら大きな問題もないはずだが?」
なるほど。
それなら、まあ。
「イリサヴィア様?」
「うむ、止むを得まい」
剣姫も賛成となれば、決定だな。
「分かりました。では、私が1人で先行しますので」
「いや、私もアリマと共に先行しよう」
シャリエルンが俺と一緒に?
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<エリシティア視点>
「どりゃ! だあぁぁ!」
ザン、ザン、ザン!
ギリオンの愛剣が縦横無尽に暴れ回る。
「ぬん!」
シュッ、ザシュッ!
ヴァルターの剣も的確に敵を削っていく。
「アイスアロー!」
さらにはリリニュスの魔法。
「ギャアァァ」
三位一体とも思える素晴らしい連係に翻弄され続けるドラゴン2体。
敵ドラゴンが本体ではないことを考慮しても、ここまで戦えるとは予想もしていなかった。
明らかに私の想像を超えた攻防だ。
ザン、ザン!
ザシュッ!
「アイスバレット!」
ヴァルターとリリニュスも見事なもの。
ただやはり、ギリオンの力が抜けている。
「グギャァァ」
「ギャァァァ」
以前とは別人のようなギリオンの戦いぶり。
これほどに差が出るのは、鱗だろうな。
鱗化の影響は、見ていて恐ろしくなるくらいだよ。
「ギリオン、弱ってるそっちを先に片付けるぞ」
「おう!」
今や両腕の肘まで鱗化が進んだ状態。
本当に。
副作用さえなければ、頼もしい限りなのだが……。
「とどめだ、おりゃあ!!」
「ギャァァァ……」
上段から叩き込まれたギリオンの剛剣で1体が地に沈んだ。
「残るは1体。油断するなよ」
「分かってらぁ」
「グルルゥゥ……」
「どうやら、あの3人だけで倒しきれそうですね」
「……」
「エリシティア様?」
「ん? ああ……」
鱗化に対する懸念はあるものの、とりあえずの危機は脱することができそうだ。
「今のギリオン殿にとっては、眷属1体なら恐れる必要もないのでしょう」
納得したように囁くウォーライル。
私を護る騎士たちも頷いている。
「相手が眷属2体であっても3人で充分だろうな」
実際、こうして話している間にも2体目は傷を増やしている。
「ギャアァァ!」
決着まであと数撃だろうか?
いずれにしろ、そう時間はかからないはず。
が……。
そう簡単には行かないか。
「えっ!?」
「歪んでる?」
「また新手が現れるのか?」
退避した我らとギリオンたちのちょうど中間地点。
その空間が歪んでいる。
しかも、最前より大きな歪み。
ということは……。
「ヴァルター殿、ギリオン殿、新たな歪みです!」
「ああ?」
「……」
「また眷属がやって来るかもしれません」
「……いいぜ、何頭でも相手してやらぁ。だよな、ヴァルター」
「……うむ」
「ってことで、こいつはさっさと倒しちまうぞ」





