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第620話  同行



「……」


「……」


「アリマ」


 サイラスさんと俺が思考に入り込んでいるところに聞こえてきたのは剣姫の声。


「今、複数の騎士から話を聞いたのだが」


「……ええ」


「異界が崩壊する際、大きな歪みが2つ現れたらしい」


 歪みが1つではなく2つ?


「ここにいる騎士はその内の1つに飲まれた者ばかりだ」


 ということは。


「もう1つの歪みにエリシティア様やギリオンたちが?」


「であろうな」


 2つの歪みのうち1つはこの平原に通じ、もう1つは他の地に通じている。

 そういうことなのか?

 なら、エリシティア様、ギリオン、ヴァルターが解放された場所は……。



「おまえたちの言葉通り、半数の騎士は帰還した。が、残りは戻っていない。何より肝心のエリシティア様の姿が見えない」


 白金髪シャリエルンと金髪魔法使いが近づいて来る。


「どういうことか説明できるのだろうな?」


 返答次第では剣を抜く、顔に浮かんでいるのはそんな色だ。


「ええ」


「……話してもらおうか」


 本来なら断定できることじゃない。

 あくまで推測にすぎない。

 それでも、これが正しいとなぜか確信できる。

 だから、迷いなく言葉が出てしまう。


「エリシティア様は他の地で解放されているはずです」


「他の地とは?」


 それは……。


「エビルズピーク」


「エビルズピーク、だと?」


 言葉にすると確信がさらに強くなっていく。


「ここから遠く離れた深山に、なぜだ?」


「エビルズピークがあのドラゴンの住処だからです」


 この平原以外にあいつの異界に紐づく場所があるとすれば、それはもう……。

 エビルズピーク以外考えられない。


「「……」」


 疑うような目をしながらも黙り込むシャリエルンと金髪魔法使い。


「……」


 サイラスさんも口を閉ざしてしまった。

 微妙な空気が漂う中、剣姫だけがひとり後方に目を向けている。


「アリマ、ゆっくりしている時間はなさそうだぞ」


 剣姫の眺める先は、先程突破したばかりのアイスタージウス軍営。

 これまで沈黙していた兵たちが動き始めようとしている。


「エリシティア様の騎士隊に気づいたようですね」


「うむ」


 やはり、狙いはエリシティア様か。


「ここにはいないというのにな」


 そこまでは見抜けていないのだろう。


「面倒なことだ」


「ええ」








「それで、これからどうするつもりかな?」


「そちらこそ、どうするんです?」


「おい、団長が聞いてんだぞ!」


 冒険者パーティー憂鬱な薔薇の団長シャリエルンの横で大声を上げるのは赤髪のティアルダ。剣姫にはあしらわれたものの相当な腕を持つ剣士だ。


「先に答えやがれ」


 憂鬱な薔薇とはアイスタージウス軍に対する際に共闘し、その後も休戦状態を続けているにもかかわらず、彼女の敵対するような態度に変化は見えない。


「そうですよ、答えてください」


 青髪魔法使いセルフィアナも同じ。

 おかげで、戦闘前と同様のやりとりになってしまう。


 まあ、2人の敵意も理解できるが……。


「ティアルダ、セル、他の皆も、そういきり立つな。今は休戦中なのだぞ」


「けどよぉ……」

「でも……」

「「「……」」」


「反論があると?」


「ちぇっ」

「「「「……」」」」


 シャリエルンの言葉に黙り込む5人。

 憂鬱な薔薇の団長権限は絶大のようだ。


「では、話の続きをしようか」


 団員を制し、一歩前に出るシャリエルン。


「我々、憂鬱な薔薇はエビルズピークに向かう」


「……」


 当然、そうなるか。


「アリマとイリサヴィアは?」


「私たちもエビルズピークに向かいます」


「ふむ……」


「……」


「……」



 平原に姿を現したエリシティア様の親衛隊を目にし、攻撃を仕掛けてきたアイスタージウス軍。彼ら相手に魔法を連発し退けることに成功したのは四半刻前のこと。そのあまりにも淡白な退却には驚いたものの、こちらとしては無駄な戦闘を避けることができて幸いだった。


 その後、敵軍の撤退について憂鬱な薔薇から話を聞いたところ、アイスタージウス軍の狙いはエリシティア様1人であり、先の攻防中に彼女の不在に気付いたからだろうとのことだった。


 確かに、それなら早期撤退にも納得できるというもの。


 そんなわけで今は薔薇の面々、王女護衛騎士隊とともに平原の南の森を街道に向かって歩いている最中になる。



「君たちは徒歩で行くのか?」


 剣姫と俺なら強化した脚を使える。

 強化脚なら同時間で通常の3~5倍の距離を踏破できるだろう。


 ただし、魔力がもたない。

 だから。


「馬や馬車も使うつもりです」


「馬に乗っても数日はかかる。到着する頃には、エリシティア様がエビルズピークにいない可能性も高いが?」


 まさに、その通りだ。

 ただ、分かっていても行くしかない。

 これは剣姫の仕事でもあるし、何よりギリオンたちが心配だからな。


「……」


 ギリオンたちの命に別条はない。

 異界崩壊直前の状況から、そう推測できると騎士たちは話していた。

 その言葉に間違いはないだろう。が、彼らが負傷していることもまた事実。

 負傷した状態で再びエビルズマリスが復活し、あの地で遭遇したら……。


 もうひとつ。

 ギリオンの鱗化も気になってしまう。



「会えない可能性が高くとも、エビルズピークに向かうと?」


 可能性は、そっちも同じ。

 それでも行くだろ。


「ええ、何日かかってもエビルズピークに向かいます」


「そうか……ならば、ともに行くか?」


「……」


 憂鬱な薔薇が向かうなら、同行するのもおかしいことじゃない。

 とはいえ、居心地のよくない空気の中でわざわざ同行する必要も……。


「ああ、勘違いしないでくれ」


「?」


「馬や馬車を使わず、最速でエビルズピークに向かうのだよ」


「どういうことです?」


「ラルス、あれを」


「はい」


 シャリエルンに促された低級冒険者ラルスが取り出したのは、藍色に輝く宝玉?


「これを使う」


「宝具……ですか?」


「ああ、エルンベルンの移宝だ」


「エルンベルン? 移宝?」


「この移宝を使えば、指定の地に一瞬にして到着できる」


 遠距離テレポートを可能にする宝具?

 そんなものが存在すると?


「……」


 鑑定で調べたところ、シャリエルンの言葉に嘘はなかった。



 エルンベルンの移宝:あらかじめ指定済みの地点に一度だけ移動可能。使用後は新たな目的地設定が必要になる。適用上限は10名。



 制限付きとはいえ、恐ろしい性能を持つことに変わりはない。

 が、今問題となるのは移動先がどこに設定されているかだ。


「ただし、移動先は任意ではなく前もって設定した場所になる」


「設定地点はどこです?」


「ワディナート」






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