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第618話  圧倒


「片翼と鱗を2枚。もう充分だな。ここからはとどめに移るか」


「そうですね」


 今のエビルズマリスなら、剥がれた鱗の下を狙うのも難しくはない。そこに剣姫か俺の強化剣が入れば。


「手伝いますよ」


 2枚の鱗下に同時に入った剣は致命傷に足りるはず。


「うむ」


 剣姫とともに正眼に剣を揃え。

 一歩前へ。


 もはや合図も確認も不要。

 お互いに何をすべきか完全に理解しているのだから、楽なものだ。


「グルルゥゥゥ……」


 足を止めた先では、エビルズマリスが怯えたような声を漏らしている。

 彼我の距離、この体勢。まさに一撃必殺の理合い。


「終わりだな」


 呟く剣姫の魔剣が舞う。

 はずが、その直前。


「っ!?」


 エビルズマリスの周囲が歪み始めて?

 ここで消えるつもりか?


「アリマ!」


 前回と同じなら、消えるまで約30秒。

 透化状態による攻撃無効化までは、その半分程度だ。


「やれるか?」


「……ギリギリかと」


 そう答えたものの、実際は厳しいかもしれない。

 なら。

 やつを確実に仕留めるには。


「イリサヴィア様はそのまま攻撃をお願いします」


「アリマ……宝具はまだ使えぬのでは?」


 その通り。俺の宝具はまだ使える状態じゃない。

 が。


「何とかします」


「……うむ」


 頷く剣姫に背を向け、駆ける。

 空を飛ぶように駆ける。


「なっ?」


「何を?」


 向かう先はシャリエルンと金髪魔法使いの後方。

 意識朦朧としたまま地に伏している金髪低級冒険者ラルスのもとだ。


 寸刻とかからず到着、と同時に奪い取った宝具を手に持ち確認を。


 よし、魔力は十分。

 問題なく発動できる。

 あとは戻るだけ。


 大地を穿つほどの力で地を蹴り、限界超えの速度で逆走。


「……エリルエイルベアサマ」


「それは、マリスダリスの!」


「メニケアイニシャ」


「なぜ呪言を知ってる?」


 シャリエルンと金髪魔法使いの横を通り、射程距離内に!


「リゼンタリネムソウ」


 発動だ!


 キイィィーーン!


 刻宝特有の凍えるような冷気がエビルズマリスに降りかかる。

 と同時に。


「グギ?」


 四肢の動きが止まり。

 空間を侵食していた歪みも、ゆっくりと通常の状態に戻っていく。


「グルゥゥ」


 成功だ。

 逃亡を防げたんだ。


「……」


 状況を理解したであろうエビルズマリスから動揺が伝わってくる。


「ゥゥゥ……」


 もうどうしようもないだろ。


「上手くいったんだな?」


「ええ、これでしばらくは動けないでしょう」


 今の戦況は前回の戦いと同じ。

 ただし、ここからが違う。


「今度こそ倒し切りましょう」


「うむ」


 再び剣姫の魔剣が動き出す。


 ザン、ザシュッ!


 静止した標的を狙う魔剣ドゥエリンガーに失敗など考えられない。


 ズッ!

 ズブッ!


 蒼鱗の下の皮膚を穿つ。

 もちろん、俺の剣も。


 ズブブッ!

 ズズズズッ!


 異なる鱗下に進入した2つの剣身がともに中程まで入り込んだ。


「ギャアァ!」


 余裕のなかった前回と違い、今回は冷静に剣を送り込むことができている。

 これならエビルズマリスの臓器を確実に破壊することもできるはず。


「剣先に最大の魔力を込めるぞ」


「了解」


 表面と内部が魔力で強化された剣の剣先に魔力を集め。

 さらに深く。

 エビルズマリスの体の奥まで押し込んでやる。


 ズズ、ズズズズッ!!


 剣先に感じる確かな手応え。

 やったか?


 と思った瞬間。


「グギャアァァァァ!」


 エビルズマリスの絶叫とともに迸る白光。

 真白の光が平原を覆い尽くしていく。


「えっ?」


「何だ?」


 溢れる白光の中、戸惑いの声を上げるシャリエルンと金髪魔法使い。


「アリマ」


 一方、剣姫の声音に戸惑いはない。


「前と同じですね」


「うむ」


 それでも、この状況だ。

 前回同様の球化が頭に浮かんでしまう。


 今回はかなりの手ごたえだったし、剣も手放していないが……。


「……」


「……」


 数秒の放光後。

 俺たちの眼前に残されたのは……。


 直径50センチほどの球体。


「……同じだな」


「……ええ」


 俺たちの前に現れた青黒い球体。

 こちらの願いを嘲笑うように静かに佇んでいる。


「ドラゴンはどこに行った?」


「その球体は?」


 白光のあとに残されたのが青黒い球体とあっては、シャリエルンと金髪魔法使いが驚くのも無理はない。

 とはいえ、詳しく説明している場合でもない。


「どうする、アリマ?」


「……」


「抜くか?」


「待ってください」


 以前は剣を抜いた途端、球が消失してしまった。

 今回も同じことが起これば、またエビルズマリスを逃してしまう。

 ただ、このまま放置もできない。


 仕方ないか。


「一度凍結させてから抜きましょう」


 球全体を凍らせれば、消失を防げるかもしれない。


「……うむ」


 ということで、球体を氷漬けした後に剣を引き抜いたところ。


「……」


「……」


 球体は消えることなく平原に留まっている。


「消えないな」


「ええ」


 ひとまずは安心していいだろう。


「ただ……これで倒したといえるのか?」


 そう。

 消失は防いだが、目の前の青黒い球体は今なお普通じゃない気配を放ち続けたまま。


「……」


 この状態でエビルズマリスを倒したと?

 仮死状態のようなものではないのか?


 分からない。

 どうすべきなんだ?


 などと迷っていると。


 ピシッ!


 球体を覆う氷に無数のひびが入り。

 ひびの間からまた白い光が!




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