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第616話  奮闘


<エリシティア視点>




「いけるか、ギリオン?」


「当然だ。任せとけ!」


 ヴァルターの問いに自信を持って答えるギリオン。

 その両腕には蒼い鱗が輝いている。


「だあぁ!」


 気合いと共にドラゴンの前に躊躇なく踏み出し、剛剣を一閃した。


 ガギン!


 さらに二閃、三閃。


 ガッ!

 ガッキーン!


 金属が割れるような音と同時にドラゴンの胸から煙が立ち上っていく。

 ギリオンの剣と蒼鱗の衝突の凄まじさが一目で分かる攻防だ。


 ただ、ここまでの剣撃をもってしても鱗の破壊には至っていない。

 あの蒼鱗、どこまで硬いのか?


「グルゥゥ……」


 剣を身に受け唸り声を上げるドラゴン。


「グルオォォ!」


 と、唸り声が咆哮に一変。

 右腕を振り上げ襲い掛かってきた。


「おおぉ!」


 その動きについていくギリオン。


 ガン!

 ガキン!


 振るわれるドラゴンの恐腕。それを剣で防ぐギリオンの膂力。

 とんでもない力のぶつかり合いにも、ギリオンは退くことなく対等に打ち合っている。


 ガキッ!

 ガコン!


 いまだ蒼鱗を砕くのは困難だけれど、それでも速度とパワーは負けていない。


 ガッ!

 キン!


 それもこれも鱗化のおかげ。

 どうやら、皮膚の鱗化は肉体に劇的な強化をもたらすようなのだ。


「グルゥゥ!」


 この異界で、鱗化したギリオンに何度助けられたことか。

 彼がいればこそ、ここまで戦えているのであろう。

 とはいえ、全てをギリオンに任せているわけでもない。


「ファイヤーアロー!」


 リリニュスの魔法。


 ガシッ!

 ガリッ!


 攻防の邪魔にならぬよう左右から剣を繰り出すヴァルターとウォーライル。

 援護に徹するこの3人の働きも見事なもの。

 今も素晴らしい連係を保っている。



 おっ、ドラゴンに隙が。


「ギリオン!」


「分かってらぁ!」


 そこを見逃さず飛び込んだギリオンが大振りの一撃を上段に掲げ。


「どりゃあぁ!!」


 振り下ろした!


 ガッギャーン!


 会心の一撃がドラゴンの胸元に炸裂する。

 蒼鱗から火花も!


「やったか!」


 ヴァルターの喜声の先。

 そう!

 ついに蒼鱗を破壊したんだ!


「ギリオン殿!」


「だからよぉ、任せとけって言ったろ」


 剣先を天に向け勝ち誇るギリオン。

 気持ちは分かる。本当によく分かる。

 が、砕いたのは一枚だけ。

 まだ終わっていない。

 勝負はここからだぞ。


「リリニュス、剥き出しになった皮膚を狙い撃て」


「はい!」


「ギリオン、ウォーライル、ヴァルターもそこを狙うんだ」


 頷き返した3人がこれまで以上の攻勢に出る。


「ファイヤーアロー!」


 シュッ!

 ザンッ!


「ファイヤーボール!」


 ザシュッ!


「グギャアァァ!」


 一箇所を狙っての素晴らしい攻撃、見事な連係にドラゴンもたまらず悲鳴を上げ始めた。


「続けるぞ!」


「はっ!」


「おう!」


 4人の攻勢は勢いを増すばかり。

 このままいけば、勝利も見えてくる。

 そう感じたところで。


「グルルォォォ!」


 翼を広げたドラゴンが地を蹴り上空へ。

 遠ざかっていく。


「ちっ、逃げやがった」


 確かに、逃げたように見える。

 ただ、やつの発する殺気は衰えていない。

 ならば。


「気を緩めず、上空からの攻撃に備えよ!」


 私の言葉に頷く4人。

 こちらも続戦の意欲に陰りは見えない。


「リリニュス、上空のドラゴンを狙い撃てるか?」


 この距離で鱗の剥がれた局所を狙うのは困難だろうが、翼ならどうだ?


「どの部位でも良いのでしたら」


 翼でも難しいか。

 それでも、この状況で頼りになるのは魔法攻撃のみ。


「どこでもいいから機を見て撃ってくれ」


「承知しました」


「サイラス、負傷者の中に魔法を使える者は?」


 4人から離れて治療に専念している騎士たちの中に使える者がいるなら。


「軽症の2名なら可能です」


 いいぞ。

 低位魔法でも今は貴重な戦力だからな。


「うむ。その者どもをこちらへ」


「はい」


 明らかに傷を負ったままの2人が合流した直後。


「グゥルオォォ!」


 上空のドラゴンが高度を下げ始め。

 ゆっくりと近づいて来る。


「リリニュス!」


「はっ!」


 魔力を練り込み済みのリリニュス。


「ファイヤーランス!」


 その狙い定めた一撃。

 炎の大槍がドラゴンの体に……届いた!


「グギャ!」


 続けて。


「ファイヤーボール!」

「ファイヤーボール!」


 新戦力の2人の炎球。

 1つは大きく外れたものの、もう1つの炎は翼に着弾している。


「当たったぞ!」


「ああ、さすがだ」


 空を飛ぶ標的を狙い撃てる腕は見事なもの。

 ただし、滑空を止めたドラゴンに大きな負傷は見えない。

 低位の炎なら仕方ないが、リリニュスの中位魔法ですらこれとは……。


 やはり、鱗の剥がれた箇所を集中的に攻めるしかない、か。

 とはいえ、まずはドラゴンを地上に下ろす必要がある。


「3人とも次弾の準備を」


「「「はい!」」」


「ウォーライル、ヴァルター、ギリオン、投擲可能な距離まで近づいたら短剣を試してくれ」


 と指示を出した次の瞬間。


「グルゥゥ……」


「あいつ、また逃げんのかよ!」


 ドラゴンが再び上方に遠ざかっていく。


「魔法が、効いてる?」


「ええ」


 ヴァルター、ウォーライルの言葉に間違いはないだろう。

 蒼鱗を砕くことはできなかったが、敵の戦意を砕くことには成功したようだ。


 その証拠に、ドラゴンは遠空に留まったまま。

 降下する素振りも見せない。

 となると……。


「今回も終わりか」


「おいおい、何度も消えやがって。臆病ドラゴンじゃねえか」


 これもまた予想通り。

 滞空状態のドラゴンが一瞬にして姿を消してしまった。




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