第613話 攻防 2
「ファイヤーバレット!」
「ファイヤーストーム!」
初撃より増えた炎の小球、広範囲の炎の嵐。
ともに高位の魔法だろう。
その全てを避けることは、もはや不可能。
ならば。
「ストーンウォール!」
「ストーンウォール!」
「ストーンウォール!」
前方と左右に巨大な石壁を。
どうだ!
ダン、ダダン!
ダン、バシ、バシッ!
ゴオォォォ!
石壁に猛火が激突。
何とか間に合った。
が、上空からも炎が迫って来る。
後方に跳んでも避けきれない。
こうなるともう。
斬るしかない。
魔法切断はまだ完璧じゃないが……。
シュン、シュン、シュン!
ゴォォォォ!
降り注ぐファイヤーバレットとファイヤーストームに向け、剣を振り上げる。
バシュッ!
上空を一閃。
そのまま弧を描くように空を切り裂き、横薙ぎに剣を戻し斬る。
さらに弧を描き、斬り上げてやる。
シュッ、シュン、シュッ!
シュッ、ザシュッ!
瞬刻の間に数度繰り返すと。
上空から炎が消え去り。
そこに残るのは青空のみ。
「……」
前方と左右の石壁も崩壊寸前だが、持ちこたえている。
よし、上手くいったぞ。
で、石壁の向こうの敵は?
「倒せましたよね?」
「ああ、今の魔法を受けて無事だとは思えないな」
石壁から少し離れた位置にいる魔法使い2人は、こちらを目視できないためか油断しているようだ。
「ほんとに倒れてんのか?」
が、魔法の後ろを駆けていた茶髪剣士は違う。
走る勢いのまま石壁の上に飛び乗ってきた。
「やっぱりなぁ、頑丈な野郎だぜ」
「……」
「けど、無傷じゃねえだろ。とどめを刺してやるよ」
自分も負傷しているというのに不敵な笑みを浮かべる茶髪が石壁から跳躍。
真上から猛然と剣を振り下ろしてきた。
「だあぁ!」
剛剣を下から迎え撃つ。
剣と剣がぶつかり合う。
ガッ!
重い。
ガガッ!
それも当然か。
ただでさえ重い茶髪の剛剣に全体重が乗っているんだ。
軽く対処できるわけがない。
ガガ、ガガガッ!
その上、気合いも凄まじい。
「おおぉぉ!」
ただし、俺の剣もさっきとは違うぞ。
剣表も内部も魔力で強化されているんだ。
だから、今回は弾くだけじゃない。
ガッギーン!
こうして破壊することもできるんだよ。
「なっ!?」
信じられないものを見るように手元で目線が止まったままの茶髪。
「あたしの剣が……」
根元から折れた剣を片手に立ち尽くす姿は無防備そのもの。
明らかに隙だらけ。
なら、今度こそ眠ってもらおうか。
右の掌底を茶髪の胸に。
「うぐっ!」
まだ意識がある?
想像以上にタフだな。
けど、2撃目は耐えられないだろ。
「うぅ……」
狙い通り。
くぐもった声を漏らしながら茶髪剣士が地に崩れ落ちていく。
と、同時に。
ドゴン!
ドガン!
石壁が倒壊。
「なっ! 立ってる?」
「あれを耐えたんですか?」
青髪の魔法使いと金髪の低級冒険者が姿を現した。
金髪魔法使いは……剣姫と赤髪の方に向かっているようだ。
「あっ!」
「ドロテアさん!」
茶髪剣士に駆け寄る2人。
「よくも……」
倒れた仲間を介抱する青髪を尻目に金髪がこちらを睨みつけてくる。
「よくも、ドロテアさんを!」
「落ち着いて、ラルス。命に別条はなさそうだから」
「でも、あいつが!」
「でもじゃない。ラルスの剣では勝てないって分かってるでしょ」
「セルさん……」
「剣ではない自分の役目を果たしなさい」
「……分かりました」
後退する金髪に代わって青髪が一歩前へ。
こちらとの距離は一飛び程度。
「バレットとストームを同時に受けて立っているなんて、信じられない」
「……」
「けど、ダメージは相当なはず」
さっきの茶髪同様、俺が魔法を身に受けたと思い込んでいるのか?
すぐそこに倒された仲間がいるというのに、牽強付会も甚だしいな。
「覚悟しなさい!」
青髪が右手のひらを前方に差し出した。
「ファイヤーボール!」
「ファイヤーボール!」
「ファイヤーボール!」
ストームではなくファイヤーボール。
詠唱破棄による低位の火の玉3連発だ。
威力より早さってことだな。
「これで、おしまいよ!」
確かに早い。
その上、精度も威力も並の魔法使いを凌駕している。
とはいえ、所詮火の玉は火の玉だ。
避けられないことはない。ただ、ここは一気に消し去ってやろう。
シュン、シュン!
ザシュ!
半円を描くように剣を一閃。
3つの炎が一瞬で消失した。
「えっ! 斬った?」
「魔法を斬れるの??」
驚いている場合じゃないぞ。
次はこっちの攻撃だ。
茶髪の横が空いているからな。
仲良く眠ってもらおうか。
「っ! ラルス!」
「はい! エリルエイルベアサマ」
ん?
金髪低級が呪文を?
「メニケアイニシャ」
これは、まさか!?





