第612話 攻防 1
「ふふ……」
言うまでもないことだが、剣姫とは何度も共に戦った仲。
エビルズピーク、テポレン山、レンヌ家の屋敷、そしてあの異界で危地も死地も切り抜けてきた仲だ。
戦いの場で簡単な意思を伝えるのに、言葉など必要ない。
当然、今回も伝わっている。
「なに笑ってやがる!」
「笑う理由があるからだ」
「こんの野郎、なめやがって!」
「なめてはいない」
「ちっ! 喰らいやがれ!」
ガギン!
キン、ガギン!
さらに勢いを増した赤髪と剣を交わす剣姫。
心なしか、楽しんでいるようにさえ見えてしまう。
「……」
こうなるともう、赤髪の方は剣姫に任すしかないな。
なら、俺は……。
「おまえの相手はあたしだぁ!」
茶髪剣士がこっちに向かって来る。
そうか、赤髪だけじゃないのか。
「りゃああ!」
仕方ない。
相手するとしよう。
キン!
おっと!
カキン!
思った以上に伸びてくる。
鋭くキレのある剣撃だ。
キン、キン!
気配感知通りの実力を持っているということか。
やはり、赤髪同様の実力者と考えた方がいい。
ガキン!
数合剣を交わしたところで手が止まった茶髪。
顔色が好くないな。
「ここまでの使い手とは……何者?」
「まずは自分たちから名乗るべきだろ」
「……冒険者だ」
まさに外見通り。
となると、問題は。
「冒険者6人が街道を外れた平原で何をしている?」
「答える義理はない」
冒険者なら当然の回答。
パーティーの行動理由を簡単に喋るわけないか。
「それより、おまえも名乗れ。こっちは名乗ったんだぞ」
いや、冒険者と答えただけで名乗ってはいないだろ。
「答えられないってことは、つまり、そういうことだな」
茶髪の殺気が増していく。
「……我々も冒険者だ」
「冒険者だと! だったら、どうしてアイスタージウス軍の中から出て来た? あの外套はどこで手に入れた?」
「こちらも、答える義理はないな」
と言ったものの、6人の狙いが分からない状況で、どう対応したらいいものか?
どこまで戦えばいいのか?
程度が難しいぞ。
「そうかよ。なら、体に聞いてやらぁ」
一気に膨らんだ殺気と共に止まっていた剣が走り出す。
さっきの攻防以上の動きだ。
キン!
腕だけは間違いなく一流のもの。
が、超一流には及ばないな。何より、剣が単純に過ぎる。
先の手を考えるまでもない。
真っ向から打ち下ろされる剣を二度三度といなし、横薙ぎに振るわれた剣を叩き落す。
ガキン。
「っ!」
かなりの衝撃を手に感じているだろうに、それでも剣を放さないのはさすが。
ただし、剣身は地面に向き垂れ下がっている。当然、上半身は隙しかない。
対して、こちらの剣は茶髪の胴の前。このまま横に振るえば避けようもない状況。
つまり。
「ぐあぁ!!」
その腹に炸裂するってことだ。
「ぐぅぅ」
苦悶の表情を浮かべながらも、膝を折ることなくこちらに向き合っている茶髪剣士。
「ぅぅぅ……」
剣腹で払っただけとはいえ、かなりの痛みを感じているはず。骨を数本やられていてもおかしくない。それなのに、闘志が衰えないとは……。
やむを得ないな。
茶髪には眠ってもらうか。
剣を左手に持ち替え、空いた右手のひらで意識を刈り取るべく掌底を……っ!?
「ファイヤーアロー!」
「「ドロテアさん!」」
少し離れた位置。
剣姫と赤髪の後ろにいた金髪魔法使いから魔法が飛んで来る。
シュン!
左に避けた俺の横を恐ろしい速度で飛び去る炎の矢。
通常の倍以上の速度は出ているだろう。
「ファイヤーアロー」
「ファイヤーアロー」
そんな高速の炎を三連発。
驚きだな。
「ドロテアさん、傷は?」
炎を回避している隙に、茶髪を助けにやって来たのは3人の冒険者。
金髪魔法使いと青髪、もう1人は低級の冒険者か。
「大丈夫だ。骨は持ってかれたが、大したことじゃねえ」
「それ大丈夫じゃないです。こっちに来てください」
「問題ねえ。まだまだ戦えるからよぉ」
「そんなわけないです」
「いいから、ラルスは下がってろって」
「……」
「ということで、副長、セル頼む! 準備はできてんだろ?」
「しょうがないわね」
「はい、まずは倒しましょうか」
ファイヤーアローを放った金髪ともう1人、青髪がこちらに手のひらを向けた。
「……ファイヤーバレット!」
金髪から放たれたのは炎の小球。ただし、数が並じゃない。100は下らないぞ。
上下左右に広げられた網のように小球が飛んで来る!
避けられるか?
ギリギリだが……。
大きく右に跳躍。
着地と同時に地面を転がると。
シュッ、シュッ、シュッ!
シュッ、シュッ、シュッ!
炎の小球がこちらを掠めて遠ざかっていく。
よし、何とかなったな。
と、立ち上がったところに。
「ファイヤーバレット!」
まだ小球を?
しかも数が増えている。
「ファイヤーストーム!」
そこに、青髪の炎の嵐!
「おりゃあ!!」
さらに、魔法の後ろから茶髪剣士!?





