第605話 変化
<ギリオン視点>
「グゥルォオオ!」
動き出したドラゴンが速度を上げやがった。
とんでもねえぞ。
「避けろ!」
言われるまでもねえ。
「ぐっ!」
突進してくるドラゴンの進路を避けるように、ヴァルターと共に跳躍。
左右に分かれるように離脱する。
成功だ!
「グルゥ」
余裕を持って飛んだはずが、ギリギリになっちまった。
想像以上じゃねえか。
けど、こっちも伊達に修羅場をくぐり抜けてきたわけじゃねえ。
嫌ほど経験を積んでんだ。
頭も体もいける!
次はこっちの攻撃を受けやがれ。
「首だ!」
後ろから狙うは眼じゃなく首。
「……」
それを理解しているヴァルターは既に走り出している。
剣を放とうとしている。
もちろん、オレもだ。
「だあぁぁ!」
ガキッ!
ガギン!
ドラゴンが振り向く直前、2剣が首に炸裂!
痺れるような手応え、じゃなく、実際痺れている?
何だ、この硬さは?
「オオォォ!」
っと、驚いてる場合じゃねえ。
ドラゴンの右腕が目の前に!
「こんの!」
屈むことで何とか薙ぎ払いを回避できたが、この間合いはマズい。
今にも左腕を振ってきそうだ。
なら、転がって離脱を。
「っ!」
右に飛んだオレの上をドラゴンの左腕が!
ブンッ!
空気を切り裂きながら通り過ぎていく。
あっぶねえ。
右も左も紙一重かよ。
けどまあ、これでちったぁ距離が取れた。
次の攻防に向けて態勢を整えられんぞ。
で、オレとは真逆に離脱したヴァルターは?
「平気か?」
ヘマしてねえか?
「問題ない。ドラゴンはギリオンを狙っていたようだからな」
「狙いはオレかよ。って、あの野郎、よく分かってんじゃねえか」
誰が強者かをな。
「グルルゥ……」
そのドラゴンはオレを凝視している。
と思ったら、また突進だ。
ヴァルターは無視して、俺の方に腕を振りながら向かって来る。
っとに、とんでもねえ迫力だぜ。
とはいえ、2回目だからよぉ。
タイミングは分かってるってな。
「オオォォ!」
大振りの腕を躱し、体当たりを避け、カウンター気味に剣を一閃。
ガギッ!
芯を食った!
最高の一撃!
のはずなのに、これまた弾かれるだけ。
「ちっ!」
どんだけ硬えんだよ。
ダブルヘッドの比じゃねえぞ。
って、おい!
今度は尻尾かよ。
オレの剣を受けた体勢で一回転、尻尾が円を描くように襲い掛かってきやがった。
「グロォォ!」
胴前に迫る腕より太く長い尻尾。
この長さじゃ、左右に飛んでも後ろへ跳躍しても避けきれねえ。
なら、また屈むしか。
「なっ!」
尻尾の軌道が変わった?
屈むオレの顔面に向かって来る!
これを喰らったら終わりだ!
「っ!」
屈んだ体勢から地面に身を投げ出しうつ伏せになれば、何とか!
「うがぁ!」
顔面への直撃は免れたが、左肩をやられちまった!
「つぅ……」
直撃じゃねえ。
擦るように表面をやられただけ。
だってぇのに、この痛み!
このドラゴン野郎……。
って、休んでられねえ。
次撃が来る!
尻尾の一撃後、さらに半回転したドラゴンの右腕が!
「ギリオン!?」
ガギッ!
ヴァルターによる援護の剣撃がドラゴンの背にぶち当たるも、腕は止まらない。
オレは……回避は間に合わねえ。
こうなりゃ、剣で受けるしか!
全力でも分が悪いってのに、負傷した肩で受けるんだ。
勝ち筋なんてこれっぽっちも見えてこねえ。
それでも!
無理でも何でもやるしかねえだろ!
真正面からドラゴンの右腕を受けてやらぁ!
ん?
ドクン?
剣を握る腕、肩が大きく脈を?
ドクン!
ドクン!
意味分かんねえが、脈なんざどうでもいい!
「どりゃぁあぁ!!」
ドガーーン!!
両腕、両肩に衝撃。
恐ろしい程の衝撃だ。
が……ホントかよ!?
腕は止まっている。
オレの剣の前でドラゴンの右腕が。
「……」
やったぞ。
剛腕を防いだんだ!
「ギリオン!?」
ああ、やってやったぜ。
自分でも信じがたいけどよぉ。
これが、火事場の馬鹿力ってやつか?
って。
「オレの心配より、眼を撃ってやれ!」
右腕と剣が拮抗している今が好機。
頼むぞ、ヴァルター。
「ああ、了解だ」
剣を右手にヴァルターが地を蹴った。
空中で反転、剣をドラゴンの眼に!
いける!
「……」
オレもヴァルターも確信した一撃。
そいつを避けやがった。
いや、それどころか空を飛んで大きく距離を取ってる。
「グルゥ……」
そのまま動きを止めたドラゴン。
「……」
「……」
どうして追撃しねえ。
ほんと、わけ分かんねえぞ。
けど、まあ。
ちっと休憩できるのは助かるな。
「ギリオン、怪我は?」
痛ってえに決まってんだろ。
それでも、なぜか動けるな。
いや、痛いのにスッキリしてるくらいだ。
「問題ねえ」
「本当か……っ、おまえ!?」
「何だ? オレ様の強靭さに驚いたのか?」
「……その肩に腕!?」
ああ?
服は破れてるし出血もしてっけど、そんなの当たりめえだ。
ドラゴンの一撃を喰らったんだからよ。
「よく見てみろ!」
ちっ。
しゃあねえな。
「……」
「……」
「ギリオン?」
「はあぁぁぁ???」
なんだ、何だ?
どうなってる?
「肩と腕が歪に隆起してんぞ!」
筋肉の盛り上がりどころじゃねえ。
つうか、筋肉と呼ぶのもおぞましいわ。
気っ持ちわりい!
あれか?
ドラゴンにやられて腫れ上がってんのか?
「隆起だけじゃない、その青いのは……」
うん?
青い?
何がだ?
「左の上腕の裏だ」
腕の裏かよ。
「……なっ!?」
光ってる?
「……」
間違いねぇ。
青く光ってやがる!
しかも、こいつぁ皮膚じゃねえ。
「鱗……」





