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第596話  渦?



「……そういうわけで街は大変な状況になっているんです。ですから、冒険者様、どうかお助けください」


 国境に向けて急ぐ剣姫と俺の前に体を投げ出し、こちらの足を止めた少女。

 そんな彼女の話を聞いたところ。


「魔物たちを何とかしないと、この街は……」


 街から少し外れた辺りに広がる森。

 その奥から現れる魔物に街が脅かされているというのだ。


「ふむ……。悪いが我らも急いでいるのでな。魔物討伐ならば、領主に任せるがよい」


「……」


「どうした? 街にも兵が常駐しているであろ?」


「見ての通り街は困窮しております。ですから、領主様の私兵も……」


 魔物討伐には、数も腕も足りないってことか。


「冒険者ギルドはどうなのだ?」


「ギルドはありません。数年前に撤退してしまったので街にはもう」


「近隣の街のギルドは?」


「依頼はしたのですが、受けてくださる方がいなくて」


 本当にどうにもならない状況なんだな。

 確かに、この街の様子を見れば納得できる話ではある。


「何度も冒険者ギルドに足を運んでお願いしたのに……」


「……」


「……」


「冒険者様、お願いします!」


 地面に着こうかという勢いで頭を下げる少女。

 彼女の後ろに集まってきた人々も。


「「「「「お願いします!!」」」」」


 必死に頭を下げている。


「ふむ……」


 微かに困惑の表情を浮かべ、目を閉じる剣姫。

 話を聞くだけのはずが……。

 困ったことになったぞ。


「……」


 魔物の討伐くらいなら、俺と剣姫で片付けられる可能性は高いだろう。

 ただ、こちらも余裕のある状況ではない。

 宿で休息をとる時間も惜しんで先へ進もうとしているくらいなのだから。


 とはいえ、少女と街の人々の必死の様子を見ていると……。

 このまま去るのも忍びないと感じてしまう。


「……」


 剣姫も同じ思いのようだ。


「「「「「お願いします!!」」」」」


 はあぁぁ。

 これはもう……。

 仕方ない、か。


「私が森の様子を見に行きましょう。ですので、イリサヴィア様はこのままお急ぎください」


「アリマ……」


「大丈夫です。様子を見た上で可能なら片付けて、イリサヴィア様のあとを追いかけますから」


「……」


「受けてくださるのですね、冒険者様!!」


「ええ。ただし、今回は時間がありません。なので、今すぐ私にできる範囲内での対処になります」


「はい」


「対処後も街には戻らず、森からそのまま去らせてもらいますよ。それでもいいですか?」


「……」


 冒険者の常識としては、あり得ない受け方だ。


「対処って? 魔物を倒せなかったら?」

「倒せなくても、去ってしまうのか?」

「そんな……」

「けど、引き受けてくれるなら」


 少女も街人も当惑している。

 それでも。


「……承知しました」


「「「「「……」」」」」


「よろしくお願いします!」


 ここが妥協点だということを理解してくれたようだ。


「では、詳しい話を聞かせてもらっても?」


「はい。魔物たちがやって来るのは、街から街道を五千歩ほど東に進んだ先、その北に広がる森の奥からになります。ですので……」


 うん?

 そこは?


「我らの通り道ではないか?」


「そのようですね」


「ふむ……。ならば私も」





*************************


<レザンジュ王女エリシティア視点>




「あれは?」


 何なのだ?


「エリシティア様?」


 30歩ほど前方。

 さっきまで何もなかった空間に渦が巻いている。

 それも、見たことがないくらいの禍々しい気流を撒き散らしながら。


「いかがしました?」


 ウォーライルは気づいていない。


「ファイヤーボール!」

「ストーンボール!」


「「ギャワン!」」


 ザシュッ!


「ギャン!」


 ウルフとの戦闘に専心している騎士たちも感知できていない。


「何か気になることが?」


「……あそこだ。ウォーライル、見てみよ」


「……渦!?」


 ウォーライルが目をやった先。

 僅かな時間で渦がさらに大きくなっている。


「エリシティア様、あれはただの渦巻きとは思えません。距離を取りましょう」


 そうした方が良いだろうが。

 まだウルフたちの始末を終えていないぞ。


「アイスアロー!」

「ストーンアロー!」


「「キャン……」」


 いや、もう終わりそうか?


「一時後退だ! ウルフと対していない者は今すぐエリシティア様をお護りして西に戻るぞ!」


「「「「「……」」」」」

「「「「「??」」」」」


 渦巻きを認識できていない騎士たちが、ウォーライルの言葉を耳にして呆気に取られている。


「戦闘中の者はウルフを仕留め次第撤退。他の者は今すぐ退くんだ!」


「「「「「……はっ!」」」」」


 状況を理解せずとも賊座に動く騎士たち。

 頼もしい者たちだよ。


 が、渦巻きは……。


 より一層勢いを増している。

 禍々しい気流も、今や目に見えるほどの黒みを帯び始めている。

 不気味としか言えない眺め。


「……」


 こうなるともう、不穏どころではない。


 ゴオォォ!!

 ゴオォォ!!


 前方では気流が渦を巻いているだけ。

 他の何物でもないというのに、かなりの危険を感じてしまう。


「エリシティア様、こちらへ!」


「……うむ」


 ウォーライルの先導のもと、騎士たちに護られ西へと足を進める。

 20歩ほど後退したところで。


 ザン、ザン!

 ザシュッ!!


「ギャン……」


 戦闘中の騎士たちも最後の1頭を仕留め、撤退に入ったようだ。

 ただ……。


 ゴオォォォ!!

 ゴオォォォォ!!


 渦巻きは止む素振りを見せない。

 この距離でも聞こえる風切り音、禍々しい闇色の気流。


「……」


「「「「「「「……」」」」」」」

「「「「「「「……」」」」」」」


 ウォーライルも渦に気づいた騎士たちも、魅入られたように見入っている。


 っと!?


 バシィィィィィィン!!


 渦が弾けた。


「ォォォォ……」


 平原の上。

 綺麗に消し飛んだ渦のあと。

 そこに見えたのは……。


「蒼い魔物!?」


「まさか、ドラゴン!?」


「蒼竜!?」


 青黒い四足に太く強靭な首、長い尻尾。

 恐ろしいほどに重量感のある胴体に、2つの翼。

 禍々しく光る蒼鱗を纏った魔物。


「オオォォォ!!」


 そんなバケモノが恐るべき咆哮を上げていた。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらず展開が素晴らしい! [気になる点] もしかして書籍化が進んでいる 感じですか? [一言] とても面白いです! ありがとうございます。
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