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第592話  緊急案件



「君がアリマ君か」


 椅子に腰を掛けたまま穏やかに問いかけてくる若い男性。


「……はい」


 その口調とは裏腹に、好奇が翠緑の瞳に溢れている。

 彼がキュベリッツの王太子。


「やっと会うことができた」


 輝くような黄金の髪に、端正な顔立ち。

 それでいて、気どることのない親しみのある様子。

 なのに、その所作には気品を感じてしまう。

 これが王者の風格。


「アリマ君のことは、サヴィアリーナ嬢から色々と聞いているが」


「……」


「何から話したら良いものか?」


 王太子が俺に興味を?

 剣姫が話をしたからといって、一介の冒険者に関心を持つなんて。


 何というか……。

 居心地が良くない。


「たくさんあり過ぎて困ってしまうな」


「……」


「殿下、まずは急ぎの案件についてお話しいただけますか?」


「ああ、そうだった」


 王太子が筆頭秘書官である剣姫を急いで呼んだ理由。

 俺やリーナ、オズとは関係ないことだろうが……。


「あれをサヴィアリーナ嬢に」


「はっ」


 王太子の傍らに控えていた青年が1枚の文を手に持ち、剣姫の前へ。


「どうぞ」


 この青年がオズかもしれない。

 ただ、どこか違うような気も……。


「これは!?」


「想定外だろ」


「……はい」


「とはいえ、まあ、そういうことだ」


「……」


 公爵令嬢サヴィアリーナの姿をした剣姫が俯き目を瞑っている。


「頼めるかな?」


「……無論です」


 目を開いた剣姫からは、迷いのない一言。


「助かるよ」


「いえ」


 瞳は強い光を帯び、体からは決然とした空気を発している。

 この気配は公爵令嬢サヴィアリーナのものではなく、剣姫のものだ。


「ただ、アリマ殿の件は? どのようにすれば?」


「残念ながら後にするしかない、だろ」


「……」


 俺の件とは、リーナとオズのことか?


「殿下だけでも?」


「それはできないなぁ」


 リーナとオズのことはもちろん気になる。

 今日は2人のために剣姫についてきたのだから、当然だ。

 が、今はこの緊急の案件にも引っかかってしまう。


「アレについては、君がいないと始まらないからね」


「……」


「そもそも、急いで片付けるものでもない。今回の件が解決した後に、またゆっくりと時間を取るとしようか」


「……承知しました」


「そういうことだから、アリマ君、申し訳ないが後日また訪ねてくれるかい?」


 宮城を再訪なんて、まったく望んでいない。

 とはいえ、ここは。


「……はい」


 と答えるしかないよな。


「良い返事が聞けて嬉しいよ」


「……」


「では、話を詰めよう。ルイナス、アリシャ、外に出ていてくれ」


「「はっ」」


 室内にいた2人が廊下に出ていく。

 俺も……。


「アリマ君も外してもらえるかな?」


 もちろん。





 廊下で待つこと数分。

 剣姫はまだ出てこない。

 緊急の案件は、かなり複雑なんだろうか?


「……」


「……」


 廊下で待機している間。

 王太子からルイナス、アリシャと呼ばれていた2人と話はしたものの、それもわずかな時間だけ。ほとんどが、こうして無言で立っている状態だ。


「……」


「……」


 ルイナス青年は文字通りオズという名を持っていない。俺の記憶の中にあるオズに似た容貌をしているが……。

 それでもオズじゃない、か。


 アリシャさんの容姿もリーナとは異なっている。やはり、彼女もリーナとは別人なんだろう。


 そうすると、剣姫が俺を宮城にまで連れてきた理由は?

 ここにリーナとオズがいるから、ではない?


 いや、それはおかしいだろ。

 わざわざ白亜宮まで足を運んでるんだぞ。


 なら、2人はどこに?


 そうか。

 この部屋以外のどこかに、リーナとオズがいる可能性もあるな。

 うん?

 だとしたら、王太子の言葉に齟齬が生じる。


 いったい、どういうことなんだ?


「……」


 まさか!?


 いや、いや、さすがにそれはないよな。

 突拍子もなさすぎる。


 けど、それなら……。



 思索の渦の中に沈んでいた俺の傍らで扉が開き。


「アリマさん、お待たせしました」


 室内から、剣姫が急ぎ足で出て来た。


「話は終わったのですね?」


「ええ……」


 言葉を濁す剣姫。

 王太子との会談で何かあったのか?


「サヴィアリーナ様?」


「その、申し訳ありませんが、私はいますぐ白亜宮を出ねばなりません」


「はい」


「アリマさんのことは殿下にお願いしていますので、しばらくは宮で過ごしていただければと」


 ああ、それで気を遣ってるんだな。


「サヴィアリーナ様が退出されるなら、私もご一緒させてください」


「白亜宮に来たばかりですのに?」


「構いませんよ」


「……」


「今日はリ-ナとオズには会えないんですよね?」


「……すみません」


「でしたら、ここに留まる理由もありませんので」


 リーナとオズに会えないのなら、むしろ早く外に出たいくらいだ。


「アリマさん……」


「今日のことは、急なお役目ですから。仕方ないですよ。ただし、次回はお願いしますね」


「それは、はい、もちろん」


「では、急ぎましょうか」





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