第588話 人外 2
手に残るのは、抜群の感触。
「アアァァァ……」
皮膚を斬り裂き、肉を断ち切ることに成功したんだ。
が、斬ったのは腕。
首には届いていない
「コーキ殿!」
「やろう、切断しやがった」
「ああ、さすがコーキだぜ」
喜ぶのはまだ早い。
右腕を斬っただけだからな。
当然、人外オルセーは健在だ。
とはいえ。
「アア#@*ァァァ!!」
右の肘から上を斬り落とされたオルセーが、これまでにない痛みに悲鳴を上げている。
目を充血させ腕を振り回す様子は、まさに混乱状態。
「@&□ァァァ!!」
この隙を見逃す手はないだろ。
ただ、振り回す腕が邪魔で首は狙いづらい。
ならば、胴への一撃だ。
今の強化剣なら、どこでも斬り裂けるはず。
即座に剣を左脇に引き、居合に近い体勢を整える。
「◇@*ァァァ!!」
混乱状態のオルセーはその場で暴れるだけ。
逃げようともしない。
間合いは完璧。
強化した剣にも問題はない。
よし!
気合と共に剣を前へ!
水平の薙ぎ払い、妙絶の一閃だ!
ザン!!
剣身が踊り。
オルセーの胴を通った!
「ァァァ……」
手のひらにはさっき以上の感触。
確信の手応え。
「アァ、アアァァ!!」
その感覚通りに、異形化した胴体からは真っ青な鮮血が溢れ出し。
「%〇△ァァァ……」
上体が傾ぎ。
「アア◇&*ァァ……」
ドッスーーン!
異形が床に崩れ落ちた。
「……」
「……」
人外と化したオルセーが完全に沈黙。
ピクリとも動かない。
「やったのか! やったんだな!」
「ちっ! ひとりで倒しやがったぜ!」
「ああ、恐ろしいほどの剣の冴えだ」
「アリマさん……」
ヴァーン、ギリオン、ヴァルターは勝利を確信している。
が、剣姫は違う。
竜の兇神が創り出した異空間内で嫌というほど戦ったのだから、疑うのも当然か。
「……」
エビルズピークで手に掛けた分身、特に兇神本体は簡単に倒れてはくれなかった。
倒したと思っても、倒しきれていないことばかりだった。
だから、こいつも?
まだ、先がある?
それとも、杞憂?
だといいんだが。
「どうした、コーキ?」
「おめえ、何してんだ?」
こっちに近づこうとするヴァーンとギリオン。
「来るな!」
「はあ?」
「ちょっと待っててくれ」
おそらく、問題はないと思う。
それでも、安全を期した方がいい。
「……」
「……」
「……」
異形が倒れている廊下に、微妙な沈黙だけが流れていく。
「……」
依然、オルセーだった物体に反応は見られない。
問題はない、か。
なら……。
「っ!?」
あれは?
「アリマさん!」
いち早く異変に気づいたのは剣姫。
「コーキ殿!」
続いて、ヴァルター、ギリオン、ヴァーンも。
「ありゃあ、いったい?」
皆の視線の先にあるのは、言うまでもなくオルセー。
いや、オルセーだった物体だ。
それが光を放ち始めている。
「どうやって? 光って?」
ヴァルターの疑問はもっとも。
異形と化しているとはいえ、遺骸が光るなんて普通はあり得ないのだから。
ただ、兇神の眷属ということなら。
「なっ!」
兇神と同じってことだろう。
そう……。
「変形してんぞ!」
「信じらんねえ」
俺たちの目の前で、淡い光に覆われた異形が縮んでいく。
全てが丸みを帯びていく。
手足が消え、頭が消え、異形から球形に!
「……」
「……」
「……」
目が釘付けになる3人。
「アリマさん?」
っと、そうだ。
俺まで眺めている場合じゃない。
エビルズピークでは、兇神の球化に気づけなかった。
けど、今回は違う。
だったら、試すしかないよな。
「……」
まだ魔力を内包したままの剣を右手に持ち、球化途中のオルセーの前に。
「おい、斬んのか?」
「ああ」
巨大だった異形が縮小し、今は直径30センチ程度の球形になっている。
しかも、まだ小さくなるようだ。
「斬れんのかよ?」
が、それを待つ義理はない。
縮小球化が完了する前に。
上段から一気に!
剣を振り下ろす!
ガンッ!
「ぐっ!」
硬い!
叩き斬れない!
さっきまでとは全く違う。
隔絶した硬さを持っている。
巨体を小さな球に変化させたのだから、必然的に密度が高くなっているのだろう。
硬いのも当然だな。
それでも、表面に傷をつけることはできた。
このまま何度も斬りつければ破壊も可能かもしれない。
なら、もう一撃だ。
再び上段から一閃。
ガリッ!
さらに深い傷をつけることができたぞ。
ならば、3度目。
ガガッ!
まだ破壊とまではいかないが。
手応えが違う。
続いて、4撃目。
そして、5撃目、6撃目だ。
ガガガッ!!
球の中まで剣が届いた!
ここまで来れば!
大きく上段に振りかぶり、渾身の一撃を……。
「なっ!」
「消えた!」
「消えたぞ」





