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第585話  猛攻



「人が人でなくなる宝具、いや禁具か。そんな道具の存在、聞いたこともない」


 超一流の冒険者であり、要職に就く公爵令嬢でもある剣姫が耳にしたこともない禁具。

 そんなものが実在すると?


「アリマはどうなんだ?」


 剣姫が知らない道具を俺が知るわけないだろ。


「私も初めて知りました」


「そう、か」


「共に知らぬとはいえ、現実としてそこに存在している」


「……」


「ならば、滅するしかないな」


「……ええ」


 今のオルセーは兇神の眷属ともいえる存在。

 エビルズピークの悪意に近い存在を放置なんてできない。

 ここで倒すのみだ。


「サヴィアリーナ様は待機を」


「……やれるのか?」


 兇神相手に剣姫の力を借りずに戦うのは難しいだろう。

 ただ、あいつは本体ではなく分身みたいなもの。

 なら、俺ひとりでも倒せるはず。

 それに。


「サヴィアリーナ様の変身は避けた方がいいでしょ」


「……うむ」


「まずは私ひとりで戦いますよ。ですが、危ない場合は、お願いします」


「……分かった」





************************


<ヴァーンベック視点>




「ぐっ!」


「ヴァルター!」


 想定外の体当たり。

 怪物は弱っていたはずなのに、さらに勢いを増した突進をヴァルターが受けてしまった!


「……大丈夫だ」


 大丈夫なわけがない。

 真正面からの激突は何とか避けることができたものの、左下半身を負傷している。

 しかも、軽くない。

 左脚を引きずるくらいの負傷だぞ。


「ここは俺とギリオンに任せて、後ろに下がってください」


 さっきは俺たちが庇ってもらったんだ。

 今回はギリオンと2人でしのぐしだけ。


「疲労しているおまえたちに、任せることは……」


「そんな体じゃねえだろ」


「ギリオンの言う通りです。右肩だけならまだしも、左脚までそれでは戦えないでしょ。今は後ろで治療に専念した方がいい」


「……」


「ヴァルター!」


「……分かった。少しだけ、頼んだぞ」


「了解」


 治療と言っても、低級の魔法薬しかない現状では完治は期待できない。

 表面の傷を癒し、痛みを和らげるのが関の山だ。

 それでも、多少は動けるようになるはず。


「ヴァーン、やれんな!」


「もちろんだ」


「んで、魔力は残ってんのか?」


「まだ数発は撃てる」


「ちっ、数発だけかよ。相変わらずしけた野郎だぜ」


「魔法も使えねえ剣だけのおまえには、言われたかねえなぁ」


「オレ様は剣だけで充分。おまえの鈍ら剣とは違うからよぉ」


「……」


 この状況で、よく減らず口をたたけるもんだ。

 けど、悪くない。


「その余裕、最後まで失くすんじゃねえぞ」


「ったりめえだ」


「なら、ギリオン様の剛剣見せてくれ」


「おう! って、あいつまた休んでんな」


 ヴァルターに体当たりをした後、怪物は追撃してくる素振りがない。

 今は完全に動きを止めている状態だ。

 こっちとしては、態勢を整える時間ができて助かったが……。


「さすがに、バテやがったか」


「かもしれないな。ただ、気を抜くとまずいぞ」


 これまでも消耗したと思ったら、いきなり恐ろしい勢いで動き始めた怪物。

 油断できる相手ではない。


「分かってらぁ。今度こそ倒してやる!」


 にやりと深い笑みを頬に刻み、怪物に向け足を進めるギリオン。

 分かりやすい男だよ。


「……」


 怪物は己に近づく相手に気づいていないわけじゃない。

 目はギリオンを追っている。


 ただ、自らは動かず。

 さっきまでのような奇声を発することもない。

 体力を温存していると?


「どうした、怪物野郎」


「……」


 ギリオンはもう目の前。

 それでも、反応しない。


「ビビりやがったか!」


 おい、ここで挑発かよ?


「……」


 まったく。

 この期に及んで、ハラハラさせてくれる。

 けど、その単純すぎる豪胆さは、おまえだけの強みだよな。

 共闘するこっちの戦意も高揚させてくれるってもんだ。


「それとも、休んでるだけか!」


「……」


「休みたきゃなぁ、死ぬまで休んでろ!」


 いまだ動かない怪物に向けてギリオンが飛び込んだ。

 狙いは、やはり首。


「だあ!!」


 急所に決まる!

 いける!


 こっちも魔法発射の準備は万端。

 今回は高威力の火の玉だ。


 と!


「オオォ!」


 下方から伸びた剣が首に決まる寸前。

 怪物が動いた。


 ガン!


 強靭な左の拳で剣腹を叩き弾く!


「なにっ!」


 さらに、右拳をギリオンの胸に!

 速い!


「オオォォォ!!」


「だっ!」


 ガン!


 今度はギリオンの剣が右拳を弾いた。

 が、力は怪物が上。

 僅かに軌道が逸れただけの右拳が再び迫る!


「こんの野郎!」


 上手い!

 後方に胸を反らし紙一重で……いや、少しかすめたか。

 それでも、回避には成功している。


 なのに!


「オオォォォ!!」


 さらなる追撃の左拳。

 恐るべき猛攻だ。

 剣は間に合わない!

 まずい!


 なら。


「ファイヤーボール!」


 火の玉の進む先にはギリオンと怪物が並んだ状態。

 けど、おまえなら理解してるよな。


「ギリオン、横に飛べ!」


 よし!

 背中でこっちの声を聞いたギリオンが右に跳躍した。


 ファイヤーボールがその脇を翔け怪物へ。

 腹に炸裂!!


「オオォ……」


 高威力の火の玉を正面から喰らえば、さすがの怪物も動きを止めるというもの。

 とはいえ、大したダメージじゃないか。





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