表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
587/701

第583話  紙一重


<ヴァーンベック視点>




 二足歩行の正体不明の怪物。

 かなりの攻撃を身に受けているにもかかわらず倒れる様子が見えない。

 身体は無数の切り傷で血に染まっているというのに。


「$#@オォォ!!」


 迸る咆哮も開戦当初から変わりはなく、戦意も全く衰えていない。


「ダブルヘッドと同じくらい頑丈じゃねえか」


「それ以上だろ」


 ダブルヘッドは赤黒く濡れた体毛で攻撃の威力を減退させていたが、こいつは剣も魔法もまともに体表に喰らっている。それでいて、今の状態なんだ。

 体の頑丈さならダブルヘッドを越えているはず。


「その上、膂力も体力も凄まじい」


 ヴァルターの言う通り。

 知性を除き、大部分でダブルヘッドを凌駕しているぞ。


 これまでの戦いは、あいつの目から光が消え動きが止まることが数度あったから、戦いを有利に運ぶことができているが、そうじゃなかったら相当苦戦していただろう。


 いや、今も苦戦はしてるか。


「ふたりとも気を抜くなよ」


 それを理解しているからこそのヴァルターの言葉。

 やはり頼りになる男だ。


「ったりめえだ。ヴァルターこそしっかり戦えっての」


「……」


 ギリオン……。


 冒険者稼業の先輩で、三大剣士の1人と言われるヴァルターにそんな口をきけるのは、ギリオンくらいだぞ。


 って、感心してる場合じゃねえ。


「オオ$〇ォォ!」


 次の攻撃がくる!






「はあ、はあ」


「息切れしてんのかよ。だらしねえなぁ、ヴァーン」


「はあ……おまえも、汗だくじゃねえか」


「動きゃあ汗も出る。まったく問題ねえ」


 強がりやがって。

 怪物相手に戦って、平気なわけねえだろ。


 けど、気持ちは分かるぜ。

 こんなところで負けてらんねえからな。


「俺もだよ」


「けっ、よく言うぜ」


 ともに疲労困憊しているものの、現時点の戦況は悪くはない。

 無数の攻撃を受けている敵に比べ、こっちの3人は大きな傷を負っていないのだから。


 ただ、それも紙一重。

 一歩間違えば、致命傷を受けていたかもしれない戦闘だった。


 この身体で続戦となると、これまで以上に際どい戦いになるのは確実。

 ある程度の負傷も考えざるを得ない。


 と覚悟したところに。


「おまえら、少し下がってろ」


 全てを見透かしたようなヴァルターの声。


「今は回復に専念した方がいい」 


「ヴァルターさん?」


「大丈夫だ。少しなら1人で持たせることもできる」


「……」


 1人で怪物の相手ができるというヴァルターの言葉に嘘はないのだろう。

 ここまでの剣の冴えは、とんでもないものがあったからな。


 実際のところ、ヴァルターがいなけりゃ俺もギリオンもやられていた可能性が高い。

 冒険者を引退して数年経つと言うが、幻影の異名は伊達じゃないってことだ。


 とはいえ……。


「ちっ! オレは問題ねえって言ってんだろ」


「おまえにはこの後も頑張ってもらわねばならん。今は休んでおけ」


「……」


「ギリオン!」


「……」


「下がるぞ、ギリオン」


「しゃあねえ。少しだけだぞ」


「ああ」


 俺たちと入れ替わるように前に出たヴァルター。

 対する怪物は、後退する俺たちから視線を外しヴァルターに目を向けている、と。


「オオ$〇ォォ!」


 叫声と共に突進してきた!


 硬質化した腕を振り回す動きは、技術を無視した力任せの乱暴なもの。

 ただし、恐ろしいほどの力を秘めている。

 衰えるどころか、勢いを増している。


 体に受けた傷など気にもならないってことかよ。

 こんな攻撃、正面から剣で受けたら数合も持たねえ。


 ヴァルターは?


 ガン!


 上手い!

 剛力の右腕を逸らすように剣で弾いた。

 が、続けて左腕を振り下ろしてくる怪物。


 ガン!


 ヴァルターは慌てることなく、これも巧みに剣で弾き軌道を逸らす。

 そこに、また右腕。

 計算も何もない本能のままの連続攻撃だ。


 キン!


 今度は一歩後退しながら剣をいなした。

 すると。


「オア&△!」


 怪物は勢い余ってバランスを崩している。


「ヴァルター、ここだぁ!」


 ギリオンの声を聞くまでもない。

 既に剣を返したヴァルターの剣先が怪物の喉元へ。

 どうだ?


 ザシュッ!


 決まった!

 怪物の首を斬り裂いた!


 開戦当初から急所攻撃だけは防いできた怪物が、ついに首に一撃を受けたぞ。


 ただ……。


「ルオ△◎#オォォ!!」


 そのまま追撃の剣を放つヴァルターに対して怪物は怯んでいない。

 剣撃を無視して体当たりを仕掛けてくる。

 効いてないのか?


「!?」


 向かって来る怪物の胴を剣でとらえたが、止まらない。

 予想外の突進に対処は!

 危ない!


「ぐっ!」


 半身を入れ替えたところに、怪物の体当たり!

 強烈な一撃が避けきれないヴァルターの右肩に激突!

 さらに、腕を振るってくる!


「ヴァルター!」


 助勢に入ろうとするギリオン。

 その前に。


「ファイヤーボール!」


 俺の魔法だ!


「オオォォ!」


 狙い通り怪物の胸に炸裂。

 倒せるような一撃じゃないが、時間を稼ぐことはできるはず。


「態勢を整えんぞ」


 よし。

 ギリオンがヴァルターと共に、怪物の前から離脱した。


 怪物は?

 動かない?

 魔法が効いたと?


 いや、首に受けたさっきの剣撃が効いてるんだ。


「ォォォ……」


 よく見れば、首から大量に出血している。

 これで効いてないわけないよな。

 やっと倒せる目処がたったぞ。


 とはいえ……。

 こっちも、無事じゃない。

 俺とギリオンは消耗が激しいし、ヴァルターの右肩も十全には動かないだろう。


「……」


 やはり、紙一重の戦いになりそうだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ここをクリックして、異世界に行こう!! 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ