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第580話  宗主 5


 ベリニュモナの護宝で2度も蘇り、ロシュノワの瞬宝で距離を取り、そして次は。


「エリルエイル、ベアサマ」


 マリスダリスの刻宝。

 いったい、いくつの宝具を隠し持っているんだ?


「メニケアイニシャ」


 と、発動が完了してしまう。

 どうする?

 ここは……。


「リゼンタリネムソウ」


 っ!

 レンヌ家宗主が文言を唱え終わった!

 その瞬間。


 俺の身体に、あの得体のしれない感覚が襲いかかってくる。


「……」


 マリスダリスの刻宝を受けるのは3度目。

 その効果はよく分かっている。

 ただ、分かっていても身体の自由を奪われるこの感覚は、慣れるもんじゃない。


「アリマさん!」


 両手、両膝を床につけた俺に声を掛けてくる剣姫。


 大丈夫、心配は無用。

 そう答えたいが、今は口にできない。

 だから、察してくれ。


「大宝具マリスダリスの刻宝の味はどうかな?」


「……」


「ああ、喋れないか」


 喋れるさ。

 あえて喋らないだけだ。


「刻宝の前では、剣の達人だろうが、大魔法使いだろう無力なもの。君も例外じゃない」


「……」


「ここでとどめを刺したら、さすがの君も終わり」


「……」


「無論、そんなことはしないがな。その代わり、負けを認めて大人しく牢に入ってもらうぞ」


 これまでの苦戦を忘れたように余裕の笑みを浮かべ近づいてくる宗主。


「宗主殿!」


「心配要りませんよ、サヴィアリーナ様」


 以前の俺なら、これで終わりだっただろう。

 ただ、今は違う。

 魔落で精神修練を積み、多くの戦闘を経た今は。


「動けぬ者を相手に手荒な真似などしませんので」


「……」


 さあ、やって来た。


 俺の前で宗主が立ち止まり。

 床にひざまずく俺の肩に手を……ここだ!


 宗主の手が肩に届く寸前、その手首を左手でおさえ。

 右手で上腕を掴む。


「!?」


 そのまま上半身を捻ると同時に、今できる渾身の力で床に向かって投げつけてやる。

 一本背負いの要領だ。


 ダーーン!


 決まった。


「うぐっ!」


 油断した状態から背中を強く打ちつけ呼吸困難におちいった宗主。

 まだ終わりじゃないぞ。


 その胸に駄目押しの掌底を!


「うぅ……」


 これも決まっただろ。


「……」


 宗主は完全に沈黙している。

 ベリニュモナの護宝も。


「……」


 発動する様子がない。

 他の宝具も……。


 よし!

 上手くいった。



「「「宗主様!」」」


 ベリニュモナの護宝は致命傷に近いものに対して効果を発揮する宝具。

 軽傷には効果などない。


 が、今回の一撃は掌底で宗主の意識を刈り取っただけ。

 護宝持ちを倒すには最適の一手。


 まっ、ベリニュモナの護宝を3つも持っている可能性は低いだろうけれど……。


 ということで。

 意識を失っている宗主の身を調べ、隠し持った宝具を探してやる。



 すると……6つも見つかった。


 効力を失ったベリニュモナの護宝が2つに、マリスダリスの刻宝、ロシュノワの瞬宝、そしてまだ使っていない2つの宝具。


「……」


 6つも持っていたと考えるべきか、6つしか持っていないと考えるべきか……。


 それはともかく。

 これで宗主の危険度は大きく下がったはず。



「宗主様!」


「宗主様!」


 俺が宗主から離れると、屋敷の者たちが宗主の周りに集まってきた。


「お気を確かに!」


「目を覚まして下さい」


 皆が縋りついている。

 涙を流す者まで。

 人望のある当主なんだな。


「宗主様ぁ!」


「……意識を失っているだけです。しばらくすれば目を覚ましますよ」


「「「「「……」」」」」


 俺の言葉に反応して、視線を投げかけてくるレンヌ家の人々。

 敵意と畏怖の入り混じった視線だ。

 当然、か。


「安心してください。もう手を出しませんので」


「「「「「……」」」」」


 視線が痛い。


 そんな彼らを避けるように歩いてきたのは。


「アリマさん、マリスダリスの刻宝の影響は? 平気なのですか?」


 サヴィアリーナ様だ。


「少し体は重いですが、まあ」


 精神攻撃への耐性を身につけたとはいえ、何も感じないわけじゃない。

 あと数分はこの状態が続くだろう。


「さっきの動きといい、さすがです」


「いえ、あれが精一杯の動きですから」


 宗主に対する投げと掌底は、十全に動けない体で最高の結果を狙っただけ。

 相手が油断してくれたから、上手くいっただけだ。


「相変わらず謙虚ですね。マリスダリスの刻宝を受けて動けるだけでも信じられないことですのに」


「……」


「その上、宗主殿の意識まで奪うなんて。本当に想像を絶することなのですよ」


「今回はたまたま動けただけです。次も同じことができるとは限りません」


「ふふ、そういうことにしておきましょ」


 サヴィアリーナ様。

 あなたもその気になれば、同じことができるのでは?

 公爵令嬢の仮面を被った剣姫なのですから。


「ふふ、ふふふ」


 宗主を心配し、今も縋り付いているレンヌ家の人々。

 俺を見つめて笑っているサヴィアリーナ様。


 どうにも、居心地が悪い。

 けどまあ、これでギリオンを探すこともできる。


 ただ、その前に。


「この始末はどうしましょう?」


「任せてください。この屋敷を出さえすれば、何とでもなりますので」


 自信満々に答えるサヴィアリーナ様。

 剣姫の時もそうだったが、本当に頼りになる人だよ。




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― 新着の感想 ―
[良い点]  まだ二つも持っていたとは……流石ですな(汗)
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