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第572話  越権



「終わったかな?」


 オルセーに続き意識を失ったバシモス。

 それを確認した剣姫が歩み寄ってくる。


「ええ」


 眠らせたのはいいが、この後は?

 オルセーとバシモスをどうしたら?


「……」


 ふたりともにギリオンの行方は知らないようなので、今さら尋問する意味はない。

 拘束するにしても、公爵令嬢としての剣姫の見ている前でどこまでやっていいものか?


「早く縛った方がいいぞ」


「……よいのですか?」


「うむ」


 仕事を依頼した相手が拘束されても問題ない?


「……」


 そういうことなら、念入りに縛るとしよう。

 まずは、オルセーから。




「ここまで縛り上げれば、解かれることもなさそうだな」


「ええ。さっきは意識を取り戻したバシモスがオルセーの紐を解いただけだと思いますしね」


 そうでなければ、あの状態のオルセーが拘束から脱することなどできなかっただろう。


「イリサヴィアさん……本当に、良かったのですか?」


「レンヌ家は王命を受けて動く家門だが、色々と問題のある者たちでもあるからな。こういった事態に陥ることも珍しくはない。何より、私は君には借りがある」


 こういった事態が頻繁に起こる家門?

 相当な家だな、レンヌ家は。


「まあ、命だけは助けてやってくれ」


 命か……。


 バシモスはいいとして、オルセーは厄介だ。

 このまま見逃すと、また余計な手出しをしてくるはず。

 俺の命を狙ってくるはず。


 放置するのも……。


「実は、オルセーとは因縁がありまして」


「うむ?」


「以前……」


 ということで、これまでの経緯を手短に説明したところ。



「こやつ、そこまで勝手に動いていたのか」


「今話した通りです」


「……やり過ぎだ。越権も甚だしい」


 そうだよな。

 ここで、全てが王命だったなんて言われたら、たまったものじゃない。


「風根一族内でのやり取りに口出しするつもりはないが、検問所の件、今回の件は看過できるものではない。レンヌ家は相応の責任を取ることになるだろう」


「でしたら?」


「ふたりを拘束放置しても問題ないということだ。いや、むしろ、このまま裁きの場まで連行すべきか?」


 それも悪くないが。

 今はまだギリオンを見つけていない。

 ギリオンを放置するなんて論外だろ。


 なら。

 留まるだけ。

 ギリオンを探し出すまで、この屋敷を出るわけにはいかない。


「ギリオンを探す必要があるんです」


「うむ」


「……」


「この件の始末は私が何とかしよう。君の友人についても任せてもらえないかな?」


「……ギリオンを助けることが?」


 可能なのか?


「最善を尽くそう」


「……」


 この後。

 俺ひとりでギリオンを探し出すのは簡単じゃない。


 公爵令嬢でもある剣姫なら何とかできる?

 レンヌ家に引き渡しを求めることも?


 だったら。

 無駄に迷うことはない。

 手を貸してくれると言う剣姫の提案を受けるべき、か。


「……分かりました。お願いします」


「うむ。では、ふたりを連れてここを出るぞ」


「起こしましょうか?」


「いや、目を覚ますと厄介だ。このまま担いで行こう」


 確かに。

 眠らせたままの方がいい。


「ところで、さっきの戦闘」


 うん?


「アリマも剣の内部に魔力を込めることができるようになったのだな」


「ええ、まあ」


 エビルズピークの悪意が創り出した異空間で剣姫と共に励んだ魔力付与。

 今回ようやく身につけることができた。


「ふふ、心強いことだ」


 こちらこそだよ。





**********************


<ヴァーンベック視点>




「まだなんですか?」


 いまだ目覚めないギリオンを担いでの脱出行。

 かなり歩いているというのに、出口が見えてこねえ。


「……」


「行きは、もう少し早く地下牢に辿り着けましたよね」


 迷路のような通路を歩き続けるのは厄介極まりない。

 それでも、行きはギリオンのもとまで順調に到着できたんだ。


「……」


 俺ひとりなら、間違いなく迷っていただろう通路空間。

 ここを抜けられたのはヴァルターのおかげ。

 裏を知ってんのか、何らかの手段を持っているのか分からねえが、ヴァルターのおかげだ。


 なのに、帰りは?

 どうして?


「まさか、ヴァルターさん……」


 迷ってるんじゃねえだろうなぁ?


「……」


 錯綜とした通路空間には俺の声と足音しか響いていない。

 ヴァルターは、無言を貫いている。


「ヴァルターさん!」


「……」


 本当に迷って?


 だとすると、まずいぞ。

 ギリオンを助け出したはずが、俺まで囚われちまう。

 まだ、コーキも見つけてねえのに!


「……」


 もちろん、ヴァルターだけに責任があるわけじゃない。

 ここまで無事に進めたのは、こいつのおかげなんだ。


 ただ、だからといって……。


 そう。


 何とかするしか!

 ここからは、俺も力になってやる!


「ヴァルターさん、脱出口が分からないのですか?」


「……」


 無言のヴァルターの足は止まらない。


「答えてください」


「……今はこのまま進むしかない」


 やっと喋ったな。

 けど、どういう意味だ?


 進み続ければ脱出できるってのか?


「あなた、何を知ってるんです?」


「……」


 ここまでの行動を見ても、ヴァルターが何かを知っていることは間違いない。

 それが何か?

 口にできないことなのか?


 まっ、そんなこと、俺は知りたいわけじゃねえ。

 今は脱出さえできればいいんだ。


 ただし、迷ったというなら、話は違ってくるぞ。


「……黙って進むんだ」


「……」


 もう少しだけ。

 あと少しだけ、黙って歩いてやる。


 けど、それでも脱出できないなら、そん時は……。


「……」


「……」


「……」


「……」



「……うっ、んん……」


 この声。

 ヴァルターじゃない。

 ギリオンだ。


 どうやっても覚醒しなかったギリオンが目覚めんのか?





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― 新着の感想 ―
[良い点]  ギリオンが目覚めたのには理由が? 迷路にはまだ秘密があるんでしょうか?
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