第564話 知らない?
ここはオルセーの家門、レンヌ家の屋敷。
今は、当主不在だという。
「当主様不在時の責任者はどなたになりますか?」
「オルセー様ですけど……そんなことも知らずに作業を?」
「そもそも、作業とは何なのです?」
不審に思い始めたか?
「あなた、本当に下で作業を?」
「どこの業者のどんな業務なんです?」
まずいな。
混乱状態から立ち直ってきたようだ。
「……」
もう少し情報を引き出したいところだが……。
眠ってもらった方がいいか。
「っ! 侵入者の一味!?」
うん?
侵入者かと言われれば、その通りではある。
ただ、この様子は?
俺以外の誰かがこの屋敷に侵入を?
まさか、ギリオン?
「私は作業していただけです。この屋敷に、誰かが侵入したのですか?」
「あなた、侵入者ではないの?」
「もちろんです」
「……曲者が2人、店舗の方から入ってきたと聞いたのだけれど」
「店舗?」
ここは、ただの屋敷じゃない?
それに2人の曲者とは?
ギリオンじゃないよな。
なら、強盗?
「店も知らないのね!」
「いえ……」
知らない。
知るわけがない。
「店も責任者も知らない。それで作業を?」
「あなた、いったい?」
これ以上はだめだ。
悪いが、眠ってもらうとしよう。
「私はこういうものです」
その言葉とともに、軽い雷撃を至近距離から発動。
「あっ!」
「うぅ!」
意識を失い床に倒れた2人を収納から取り出したロープで縛り。
猿ぐつわも噛ませて、拘束完了。
さて。
状況は何となく理解できた。
侵入者のことは気になるが、今はそれより。
3階のオルセーのもとへ急ぐとしよう。
「……」
部屋の外には通路。
もちろん、迷路じゃない。
普通の通路だ。
気配感知を頼りに人の姿を避けながら通路を進み、難なく階段に到着。
オルセーの気配は、依然階上に存在したまま。
もうすぐ、やつに会える。
ギリオンのことも、オルセーに聞けば何とかなるはず。
足音を消し慎重に3階へ。
オルセーの気配が漂う部屋の前へ。
「ここか」
間違いない。
この中にオルセーがいる。
室内に感じる気配は1つだけ。
オルセー以外には誰もいない。
「……」
さあ、どうする?
どう動くべき?
対話は、今さら必要ないだろう。
なら……。
時間もない。
実力行使だ。
いくぞ!
一息でドアを開け放ち、突入。
オルセーは背を向けている。
「雷撃!」
「!?」
狙い過たずオルセーに直撃。
「ううぅ!」
通常なら、この一撃で充分。
動きを止めることができるはずだが、念のため。
「雷撃!」
もう一撃放っておこう。
「ああぁぁ……」
よーし。
これで動けないだろう。
床に倒れ痙攣しているオルセーに近づき、体を探る。
何と言っても、こいつは宝具と魔道具ばかり使ってくるからな。
「うぅ、うぅぅぅ……」
オルセーはうめき声を漏らすだけ。
抵抗などできる状態じゃない。
「ぅぅぅ……」
見つけたのは、2つの小物。
オルセーにしては少ないな。
まっ、部屋で寛いでいるのなら、こんなものか。
鑑定で確認したところ、奪った2つの道具は宝具ではなく魔道具。
強力な道具でもなければ、この状況で使うようなものでもない。
「ぅぅ、ぅぅ……」
憂いも消えたことだし。
話を聞かせてもらうぞ。
「ギリオンはどこだ?」
「ぅぅ……」
ああ、そうだな。
まだ話せる状態じゃないよな。
痺れが消えるまで待つしかない。
が、その前にロープできつく拘束を。
「ギリオンはどこだ? 無事なんだろうな?」
「……地下牢にいる」
「いないから聞いてるんだ! 正直に答えろ!」
「知らない。私は何も知らない」
痺れが消え、喋れるようになったオルセーの口から出るのは、知らないという言葉ばかり。
「本当だ」
なす術のない拘束された現状で嘘を?
「さっき地下に行って以降、私はこの部屋から出てないんだぞ」
「……」
「嘘じゃない。信じてくれ」
オルセーの表情。
話しぶり。
嘘をついているようには見えないが……。
「ギリオンが消えたという事実も今初めて知ったんだ」
気が進まないことでも、するしかないか。
「オルセー、話さないというなら」
「なっ、やめろ!」
「アイスニードル!」
鋭利な氷の針がオルセーの頬をえぐり取る。
「うぐっ!」
「次はおまえの眼だな」
「ひっ! やめてくれ!」
「……」
「本当に知らないんだ。何も知らない。何もしてない!」
やはり、嘘じゃないのか?
「お願いだ、やめてくれ!」
しかし、オルセーが知らないとなると……。
ギリオンの身に何が起こった?
意識のないギリオンが自力で動けるはずもないのに?
「次に死んだら終わりなんだ。助けてくれ!」
ん?
次に死ぬ?
つまり、1回死んだと?
あの検問所で?
「おまえ、蘇生の宝具でも使って蘇ったのか?」





