第562話 不自然な事実
<ヴァーンベック視点>
「何をしても起きない!」
ギリオンは、意識を失ってるだけじゃないのか?
「ヴァルターさん、どういうことなんだ?」
「一定時間が経過するまでは目覚めることはないのかもしれん」
「……」
そういう類の薬があるのは知ってる。
けどよ、牢屋から出たところで倒れてたんだぞ。
その上、牢の扉も破壊されている。
どう考えても。
「これは普通じゃないでしょ」
「そうだな」
「牢屋からの脱出を試みたのは間違いない。そこで倒れたんだ、ギリオンは!」
「……」
「脱出しようとして、眠らされて、牢を出たところで倒れて、そのまま放置」
この状況で放置なんて、おかしいだろ。
「放置されているのではなく、今倒れたばかりという可能性もある」
「だとしても、コーキがいない」
「……」
「コーキだけが消えて、ギリオンは倒れたままなんだ。意味が分からない。そうでしょ、ヴァルターさん」
「……確かなのか?」
「何がです?」
「コーキ殿のことだ。本当に捕らえられていたのか?」
「俺が調べたところでは、そうですよ」
「……」
「仮にコーキじゃないとしても、捕らえられていたのは2人」
ギリオンしかいない時点でおかしいんだよ。
「不自然なのは間違いないな」
不自然どころじゃねえ。
「とはいえだ。ここで考えていても何も変わらない」
「……」
「ここに留まるわけにもいかない」
「なら?」
「ギリオンを連れて脱出する」
「コーキはどうするんです?」
「どうもしない。いや、今はどうすることもできないだけだ」
助けに来たってのに、何もできないのか。
「もちろん、可能なら助けるがな」
可能ならってことは?
「何か考えが?」
「考えという程じゃない。ただ、コーキ殿がギリオンを置いて逃げるとは思えないだろ」
「つまり、コーキもこの建物の中にいると?」
「ああ、その可能性が高いな」
「なら」
助けられるんじゃ?
「ただし、この地下牢にいないとなると、どこにいるかが分からない」
ヴァルターは、骨董品店の奥に地下牢があることを知っていたのか?
奇妙な通路も、ここまでの道も?
「ここで無暗に動くより、外に出てギリオンの証言と共に正式に抗議する方がいい」
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壁を破壊して、人の気配を感じる方向に進み続け。
次の壁を通過すれば。
ドガン!
残す壁は1枚。
目の前にある壁のすぐ先に、はっきりと人の気配を感じ取れる。
ここで最後の壁を破壊すると。
また同じことを繰り返すだけ。
「……」
これまで何度か試した気配への接近。
最後の壁を破壊したところで、例外なく気配は消え、移動してしまった。
毎回同じように正反対の壁の向こうへ。俺の後ろへ。
だから、もう同じことを試す意味はない。
何か違うことを試さないと駄目だ。
「……」
おそらくは、ここが外に最も近い場所。
外界との境になっている壁。
この地点こそが迷路空間からの脱出口のはず。
脱出の鍵はここにあるはず。
ただ、最後の1歩が分からない。
決定的な何かが掴めない。
これ以上、時間を浪費なんてできないのに……。





