第557話 感知
異世界間移動で戻って来た俺の目に映ったのは、移動前と変わらぬ石牢。
俺が破壊した後、修理もされず放置された石牢と……。
無人の回廊。
無人の地下空間。
「ギリオン?」
ギリオンはどこだ?
どこにいった?
日本に戻る直前、この床の上にギリオンは俺と共に倒れていた。
石牢を出てすぐの場で、ギリオンは意識を失っていた。
あの時の朦朧としていた頭でも、それだけはしっかりと覚えている。
あれから4時間。
廊下にも石牢にもギリオンの姿は見えない。
気配も感じられない。
ただ、いくつかの扉が視界の中に。
「……」
この地下には回廊に沿って複数の石牢が存在しているようだ。
なら、どこかの石牢にギリオンが?
「……ギリオン?」
声を落として問いかけながら、1つずつ扉を調べていく。
「ギリオン、いないのか?」
返事は返ってこない。
格子の間から石牢の中を覗いても、ギリオンの姿は確認できない。
それどころか、人の姿なんてまったく。
「……」
簡単に気配を探っただけで、この階が無人だとは分かっていた。
それでも、感知ミスということもある。
これだけ石牢があるんだ。
虜囚がいてもおかしくないだろ。
ギリオンがいても!
そう期待したのに……。
残る石牢はあと1つ。
ここにいなければ、ギリオンは階上に連れ去られたことになる。
最後の扉に手をかけ。
「ギリオ……っ!?」
石牢の中には、ひとつの姿。
ただし……。
生きてはいない。
死体!
白骨化した死体だ!
「……」
ギリオンじゃないよな。
4時間で白骨化なんて、するわけないよな。
なら……。
オルセーに連れ去られた?
「っ!」
ギリオンは無事なのか?
俺が去ったせいで、責められて?
まさか、嬲られて?
命は?
くっ!
すぐにギリオンを見つけ出さないと!
一刻も早く階上に。
いや……ちょっと待て。
その前に気配探知だ。
階上の様子と、ギリオンの気配を探るべきだ。
しっかりしろよ。
こんな時こそ冷静にだろ。
「……」
正確に探知、感知するためにも、気を整え、魔力を整え。
ゆっくりと深呼吸。
「ふうぅぅぅ……」
「ふぅぅ……」
「……」
「……」
よし、もう大丈夫。
始めるぞ。
まずは、1つ上の階から……。
意識を上方に進め、拡散。
気配を探っていく。
……。
……。
以前の感知で把握しているのは、ここがかなり広い建物だということ。
構造としては地上に3階、地下1階だと思われる。
この石牢は当然地階だ。
1階には……かなりの人の気配。
多くの人が広範囲に分布している。
この中にギリオンの気配は?
「……」
感じられない。
1階には、いないようだ。
それなら、次は2階を。
意識をさらに階上に押し上げて……。
……。
1階ほどではないが、ここにも結構な人がいるな。
ただ、ギリオンの気配は……。
やはり、感じられない。
ここにもいないのか。
1、2階にいないのなら、残っているのは3階だけ。
3階にはいてくれよ!
これまで以上に集中して、意識を3階へ。
……。
……。
階下とは異なり、3階に存在するのは僅かな数の気配のみ。
その中にギリオンの気配は……。
ない!
見つからない!
ギリオンがいない!
ギリオン……。
もう、この建物にいないのか?
また別の場所へ運ばれたのか?
それとも……。
不吉な予感が湧きあがり、渦を巻き始める。
「……」
いや、違う!
ギリオンに、そんなことするはずない。
まだ、そういう状況じゃないだろ!
相手は、あの狡猾なオルセーなんだ!
そんな軽挙、考えられない!
が、ギリオンがオルセーを逆上させてしまったら……。
「っ!」
最悪の想像が心を刺してくる!
考えたくないが、消すことができない。
否定できない。
「……」
やり直しだ。
もう一度、感知だ。
次こそ、感知できるはず!
再度、心を整え。
1階から、慎重に感知を……。
……。
……。
……。
いない。
ギリオンが見つからない。
だが……。
この気配はオルセー?
オルセーがいるなら、その近くにギリオンは?
オルセーの周囲を、今できる最高の精度で探っていく。
ギリオンの生命力に満ちた力強い気配。
間違えることなど、まずありえない。
あの際立つ気配を。
「……」
感じ取ることができない。
「……」
何度探しても……。





