第556話 骨董品店
<ヴァーンベック視点>
あの検問所と黒都カーンゴルムで出会った大男。
夕連亭の店員、そしてコーキと共に旅をしていた男だ。
「おまえ、いや、君はカーンゴルムで会った?」
「ええ、そうですが……」
なぜこいつがキュベルリアにいる?
しかも、この骨董品店に?
コーキの敵、なわけないよな。
だとすると……。
偶然?
骨董品収集が趣味で、たまたまこの店に姿を現したとか?
この店に似合わない筋肉隆々の大男とはいえ、年齢は40歳前後。
骨董品好きの可能性もある?
「……」
それはねえか。
どう見ても、骨董品に興味ある挙動じゃないからな。
「君がどうしてこの店に?」
ああ、そっちも同じこと考えて……。
「もちろん、骨董品を買うためです」
「君が骨董品を?」
俺の身なりも、骨董品店には合ってねえ。
不審に思うのも当然だ。
とはいえ、ここには店員の目もある。
押し切るしかねえな。
「骨董品が目当てでなければ来ませんよ。そう言うあなたも?」
「……そうだ」
「……」
「……」
お互いの思惑を読むように、視線が絡んじまう。
まずいな。
俺たちふたりのこのやり取り。
どうみても不自然だ。
ただでさえ、店に相応しくない男ふたりだというのに。
このままだと、店員も怪しく思うはず。
いや、もう思ってるだろうな?
まっ、とりあえず。
「一度外に出ましょうか」
「……ああ」
店を出る俺の背中に、店員からの重い視線を感じるぜ。
「で、どういうことなんです?」
相手は明らかな凄腕。
それでいて、敵である可能性も薄い。
なら、ある程度は穏便に話を進めた方がいいだろう。
「……どういうこととは?」
「ここに来た理由ですよ」
「……」
「どう考えても、骨董品なんて興味ないでしょ」
「君も同じだろ」
「その通り。ここに来たのは他の理由があるからですね」
「それは?」
「あなたと同じかもしれませんよ」
「……」
その表情。
やっぱり、そうなんじゃねえか。
「人探しです」
「まさか、君もギリオンを?」
ギリオンだって?
こいつ、コーキを探してたんじゃねえのか?
って、ギリオンのことも知ってんのかよ。
「君はコーキ殿の知り合いではなかったのか?」
「コーキもギリオンも友人なんです」
「ギリオンとも友人……」
「やっぱり、あなたもふたりを探しに来たんですね」
「ふたり? オレはギリオンを探しに来ただけだぞ」
「ギリオンと共にコーキも捕えられてるんですよ」
「なっ! コーキ殿が?」
こいつ、それも知らないでここに。
「もうひとりの勾留者がコーキ殿。コーキ殿も捕まって……。君とコーキ殿、ギリオンが友人……」
「ええ、そうです。ところで、あなたもギリオンと面識があったんですね」
「……ああ。最近知り合ったばかりだが」
ほんと、どうなってんだ。
世の中、狭すぎだぜ。
「この骨董品店の中に、ギリオンとコーキ殿がいるのだな?」
「まだ分かりません。が、こうして共に辿り着いたってことは、可能性は高いでしょうよ」
「……」
「これも何かの縁です。一緒に店を探りませんか?」
「そう、だな」
この凄腕と共闘できるのは心強い。
ただ、その前に。
「俺はヴァーンといいます。あなたは?」
「まだ名乗っていなかったか」
「聞いてませんね」
「……ヴァルターだ。今は冒険者ギルドの教官をしている」
教官ヴァルター?
おい!
ちょっと待ってくれ。
それって、幻影ヴァルターだろ!
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あと5分。
3分……2分……1分。
よし!
12時間が経過したぞ。
これであっちに戻れる。
ギリオンのもとへ。
あちらでは4時間後の世界。
石牢を出て4時間しか経っていない。
ギリオン、今行くからな。
無事でいてくれよ。
「……」
こっちは何も問題ない。
忘れていることもない。
準備は万端だ。
さあ、いくぞ。
「……異世界間移動!」
もう数えきれないくらい経験したこの感覚。
それを感じる僅かな時間すら、もどかしく思ってしまう。
が……。
到着。
石牢前の空間に到着だ!
俺の目に入って来たのは扉が破壊されたままの石牢。
そして……。





