第555話 脱出 2
多忙と疲労のあまり、誤って前話を更新してしまいました。
申し訳ありません。
とりあえず少しだけ修正して、このまま続けたいと思ます。
異世界間移動を使っていいのか?
俺だけ日本に戻っていいのか?
ギリオンをひとり放置して、俺だけ安全圏に……。
異世界間移動を使える状況になり、窮地に陥った場合どうすべき?
ずっと俺の頭の中にあった葛藤。
けれど、実際にその状況になったら……。
使ってしまった。
ほとんど無意識のうちに。
躊躇することもなく。
「……」
あの時、あの瞬間。
頭は朦朧としていたし、何を考えていたかも、はっきりとは覚えていない。
ただ、窮地を脱しようと。
その思いだけで異世界間移動を……。
策としては悪いものじゃないんだ。
あのまま、石牢の前でギリオンと共に倒れた状態でまた拘束されたら、今度はどうなるか分からないのだから。
俺ひとりで脱しても、その後にギリオンを助け出せばいい。
冷静に考えると、最善とすら思える。
それでも……。
もしギリオンに何かあったら?
もう、やり直しはできないこの状況で?
「はぁぁ」
今こんな思いを抱けるのも、俺に時間と余裕があるから。
だから既にやってしまったことを考えてしまう。
考えても意味などないというのに……。
「……」
今さら。
今さら後悔しても仕方ないだろ。
なら、先のことを考えるべき。
あの石牢の外で異世界間移動を発動した俺。
日本に戻り、そのまま自室で意識を失い、目覚めたのは約5時間後だった。
つまり、あと7時間。
日本時間で7時間経過すれば、また異世界間移動を使うことができる。
石牢に戻ることができる。
戻ってギリオンを助け、今度こそオルセーに引導を……。
「……」
俺のレベルアップに伴い変化した2世界間の時間経過。
現在の時間差は1/3だ。
ということは、こちらの世界で12時間、あっちで4時間待てばいい。
たったの4時間。
4時間後のギリオンは……。
おそらく、目覚めていないだろう。
それなら大丈夫。
問題などない。
オルセーも手を出していないはずだ。
「……」
頼む。
ギリオン、無事でいてくれよ。
時間が来たら、すぐに戻るからな。
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<ヴァーンベック視点>
俺の目の前には、くすんだ白壁の建造物。
貴族の邸宅や大商家と比べるとかなり見劣りするものの、それなりの規模ではある。
建物の正面には若干古びた扉と小さな看板。
そこには骨董品店と記されている。
骨董品店……。
ここで間違いないのか?
衛兵詰所から移送されたギリオンとコーキが、この建物の中に?
「……」
白都キュベルリアの中央大通りから西に入った通り沿いに、ひっそりと佇む地味な骨董品店。
周囲に溶け込むような色合いの壁に特徴のない造り。
意識しなれば、前を通っても骨董品店が存在するとは気づかないほどだ。
商店としては没個性にすぎる。
ただし、注意して眺めてみると……。
建物から滲み出る冷え冷えとした奇妙な何かを感じちまう。
あやしいぜ。
「……」
とりあえず、店に入ってみるか。
扉をくぐり中に入ると……。
店の中は外観からすると少し狭い空間だが、思ったよりは普通の店内だ。
壁際や中央の空間に余裕を持って設置された棚には、骨董品らしき物が陳列されている。
骨董品店なんだから、当たり前か。
そんな店内には、俺以外の客が1人。
店員は2人。
「……」
さて、どうしたものか?
ここは衛兵詰所でもなければ、監獄でもねえ。
実際はどうあれ、骨董品を売る店内だ。
冒険者が監禁されてるだろ、なんていきなり言える雰囲気じゃないな。
もう少しあやしけりゃ、やりやすかったんだが。
まいった……。
「お客様」
ん?
あっちから話しかけてきたぞ。
「何かお探しものでも?」
「いや……」
40台に見える中肉中背の男性。
いかにも骨董品を扱っているという風体の店員だ。
「それでは、こちらなんていかがでしょう? この壺は……」
壺なんか、どうでもいい。
「この茶器も200年前のキュベリッツ王国で……」
茶器にも興味はねえ。
「お客様?」
おっと。
店員がこっちを見つめてる。
怪しまれているのか?
まあ、そうだよな。
こっちは、骨董品に全く興味を示してないんだ。
疑われてもおかしくねえって。
とはいえ、こんなものに興味あるようなフリも……。
「いらっしゃいませ!」
新しい客が入って来た?
言っちゃ悪いが、こんな地味な店に客が続けて入ってくるとは!
ちょっと信じがたいな。
ひょっとして、ここは骨董品店として名のある店なのか?
そう考えれば……。
って、待てよ。
そもそも、この建物であってんのか?
ホントにギリオンとコーキがいるんだろうな?
まさか、間違った情報を掴んだんじゃ……。
ちっと不安になってきたぜ。
「……」
今入って来た客がこっちに近寄って来る。
俺は目立たねえように、視線を壁に向けて大人しく立ってんのによ。
「うん?」
何だ?
「おまえ……」
その声につられ、客の方に目を向けると。
「……」
こいつ、見覚えがある。
どこで会った?
確か……。
そうか!
検問所とカーンゴルムで会った大男だ。





