第551話 局所攻撃
「……」
初めて受けたオルセーのファイヤーボール。
「どうです? ちょうど好い痛みでしょ?」
当然のことながら、火傷の痛みだ。
「さあ、まだまだ続けますよ。ファイヤーボール、ファイヤーボール!」
また2連発。
連続で太腿に。
「てめえ、コーキばかりに撃つんじゃねえ!」
「あなた、何を言ってるんです?」
「だから、コーキの腿ばかり狙うなってんだ」
「はっ、愚かなことを」
「何だと!」
「相手の弱みを突くのは当然でしょ。戦闘でも、今のような状況でもね」
「ちっ! コーキ、大丈夫か?」
「……何とかな」
太腿にこれだけファイヤーボールを受けたんだ。
しっかりと痛みは感じている。
ただ、思っていたほどじゃない。
普通に耐えられる程度だ。
これは、オルセーの手加減に加え、魔力で皮膚の内部を強化しているからか?
そうは言っても、数を受けるとまずい。
何とかしないと!
「どうも、軽すぎたようですね?」
「……」
「これならどうでしょ。……アイスアロー!」
氷の矢が、またしても太腿に!
完全には避けられないまでも、少しなら。
足枷で壁にほぼ密着した脚を僅かにずらして。
よし、直撃は回避できたぞ。
そのアイスアローは俺の太腿側面を抉り、そのまま石壁に当たって雲散。
ファイヤーボール同様、壁に当たると綺麗に消え失せてしまう。
発動した魔法のこの消え方。
壁には強力な魔法阻害効果があるってことか。
「その状態で、この距離で避けますか?」
いや、避けきれてはいない。
アイスアローが太腿に刺さることだけは防いだが、それでも裂傷は負っているんだ。
「これはもう、手加減は不要みたいですね。……ファイヤーボール!」
「!?」
今までとは勢いが違う!
烈火の玉が太腿に!
「っ!」
熱い!
「ファイヤーボール、ファイヤーボール!」
避けられない!
痛ぅ!
「少しは効いているようですね」
効いてるどころじゃない。
こんな魔法攻撃を何度も受けたら……。
「ふふ、あなたも人間でしたか。安心しましたよ」
「……」
「さあ、プレゼントを続けましょうか」
「てめえ、やめろ!」
「ふふ、やめませんよ」
どうする?
どうすべきなんだ?
考えている時間もない!
「ファイヤーボール! アイスアロー!」
ファイヤーボールが太腿に。
勢いを増したアイスアローが胸に。
駄目だ!
もう使うしか。
ギン!
収納から剣を取り出し、高速で一閃。
「何っ!」
アイスアローを粉砕してやる。
が、ファイヤーボールは防げなかった。
「ぐっ!」
太腿に鈍痛が!
火傷が酷いことになっている。
「その剣は、何なのです? いったい、どこから取り出したんです?」
「……」
「まさか、収納の宝具を? それとも、希少なスキル?」
切り札を知られてしまった。
「そんなものまで隠し持っていたとは……」
知られたのならもう、収納をフルに使わせてもらうぞ。
「ほんと、あなたには驚かされますよ」
「……」
今の俺は魔法が使えない。
魔力で身体内面の強化はできるが、表に出した途端それも消えてしまう。
もちろん、剣を魔力でコーティングすることもできない。
ただ、あと少し時間があれば、剣内部の強化安定にも成功したはずだったんだ。
それを使って、手足の枷と鎖も破壊できたはず。
石牢からの脱出も。
四半刻だけ時間があれば……。
「……アイスアロー!」
ギン!
「ファイヤーボール!」
ブン!
「剣で、アイスアローを破壊、ファイヤーボールを消し去ることができるんですね」
「……ああ」
この剣でも、何とか対応はできる。
とはいえ、魔力を纏っていない剣で攻撃魔法を切り裂き続けると、剣が長くはもたない。
「ちょっと信じがたいことですが、相手があなたですからねぇ」
「……」
「困りましたよ」
なら、一度退いてくれ。
時間をくれ。
「てめえも剣を持って、コーキと勝負しやがれ!」
「ふっ、バカバカしい。バケモノ相手に剣で勝負なんかしません」
「コーキは拘束されてんだぞ」
「……」
「この状況でも逃げんのか!」
ギリオンが、ここぞとばかりに煽っている。
いや、ただの本音か。
「てめえ、矜持はどこいった!」
「矜持? そんな無駄なもの、持ってませんねぇ」
「この野郎!」
「さて、どうしましょうか? マリスダリスの刻宝はまだ使えませんし……」
「ごちゃごちゃ言わず、こっち来い!」
「やはり、アレですかね」
今度は何をするつもりだ?
「ということで、しばしのお別れです」
「逃げんのか!」
「ほんと、うるさいゴミですねぇ」
「何だと!」
「はぁ~。では、また後ほど」
「ちっ!」
オルセーが去って行く。
本当に?
足音が消えた。
戻って来る気配もない。
「……」
時間ができたのか?
ここにきて運が回ってきたのか?





