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第549話  元凶



 意識を手放す直前。

 耳に入ってきた不快な嗤い声。


 あれが、俺の朦朧とした意識の作り出した幻でないなら!

 今回のことを仕組んだ黒幕?


 あの声の男が……。


「……」


 ただ、声の主が誰だかが分からない。

 どこかで聞いた声。

 そんな気がするんだが……。


 あいつ。

 この近くにいるのか?


 と、それ以前に、この石牢の位置は?

 また地下空間?

 どこかの建物の地階にあるのか、それとも?


「……」


 気配感知では、建造物の構造を知ることはできない。

 この感知は人や魔物の動向を知るためのものだから。

 それでも上手く感知を活用すれば、それなりに分かることもある。


 よし。

 感知で色々と調査だ。


 まずは、薄く広く意識を拡散して、広範囲の感知を……。


 ……。


 ……。


 ……。


 どうやら、ここは大きな建造物の中のようだ。

 その中の下部に、石牢は存在している。


 なら、次は。

 広く拡散していた意識を狭い範囲に集中し、深く深く溶かして……。


 ……。


 ……。


 ……。


 石牢の下には、人も魔物も存在しない。

 気配の名残もない。

 つまり、この下には開けた空間、部屋は存在しないということ……。


 下とは反するように、石牢の上には多くの人の気配が感じられる。

 その気配の分布から推測すると……。


 ここは3階建ての建物か。

 広さもかなりのものがある。

 貴族の屋敷と同程度の規模。


「……」


 ここがどこなのかは分からない。

 王都かどうかさえ定かじゃない。


 確かなのは、この石牢がかなり大きな建造物の地下にあるという事実だけ。

 俺とギリオンが、そこに捕らえられているってことだけだ。


「……」


 では、あの嗤い声の主。

 黒幕は、この建物内にいるのか?


 よく分からない。

 いるような、いないような……。


 そもそも、あいつの気配をしっかり把握しているわけじゃないんだ。

 この建物内にいたとしても、それと気付けるとは限らない、か。


「……」


 まっ、感知はもういいだろう。


 そんなことより、優先すべきは脱出。

 剣内部に魔力を込めることで魔力阻害を受けずに強化した剣を使えることは、すでに分かっている。

 その剣を使えば石牢の破壊も可能。

 脱出もできる。


 エビルズピークの異界で剣姫が身につけた剣の内部強化。

 あの時の俺にはできなかった強化を、ここで。

 一刻も早くこの術を完成させて脱出を!




「ん、んん……」


 すぐ横から聞こえる声に、術完成のために集中していた意識が戻って来る。


「……コーキ?」


「目が覚めたか」


「……」


「ギリオン、まずは、体のどこかに問題がないか確認してくれ」


「……問題は、ねえ、うん?」


 状況を理解したのか、ギリオンの様子が一変している。


「こいつは何だ!?」


 ジャラジャラと音を立てるそれは。


「手枷と足枷、それに拘束用の鎖だな」


「んなこたぁ、見りゃあ分かる!」


 俺とギリオンの手足には金属製の枷が嵌められている。さらに、足枷の方には壁から伸びた鎖がついており、不完全ながらも自由を奪われた状態だ。


「オレが聞いてんのは、今がどういう状況かってこった!」


 悪いが、こっちも良く分かっていない。


「こんな枷、なかっただろうが。誰かが入ってきて、枷をつけたのかよ?」


 分かってるのは。


「ここは、さっきまでいた石牢じゃないぞ」


「何だと?」


「俺たちは、意識を失った後に移送されたようだ」


「移送? ここは衛兵詰所の地下じゃねえ? って、おめえも眠らされたのか?」


「ああ、俺も意識を奪われた」


「コーキも……」


「不甲斐ないことにな」


「……」


 目覚めたら、この状況。

 驚くのも当然、か。


「けどよぉ、ふたりとも無事なんだよなぁ?」


「ああ」


「眠らされて、移送されて……また石牢?」


「……」


「同じような石牢で、けど無事ってか?」


 ギリオンの気持ち、よく分かるぞ。

 意味が分からないよな。


「いったい、こいつぁ……?」


「分からない。ただ、こうして2人ともに無事だったんだ」


「……」


「命があれば、何とかなる。いや、何とかしてやる!」


「……だな!」


 前の石牢同様、ここでも魔法は使えない。

 今すぐ鉄扉を破壊することもできない。

 枷も鎖もだ。


 ただ、それもあと少し。

 魔力阻害の影響を受けない運用法がもうすぐ完成する。

 あと半刻、いや四半刻もあればそれを使って脱出できる!


「あと少し待ってくれよ。また集中するからな」


「おう、頼んだぜ」


 再び魔力調整のために集中を……。



 コツ、コツ、コツ。


 そこに聞こえてきたのが、階段を下りるような足音。


「コーキ!」


「誰かが来るぞ」


 コツ、コツ。


 鉄扉の前で足音が止まる。

 そして。


 ギイィィィ。


 扉が開かれ。


「おや、もう目覚めてましたか?」


 耳に入ったのは、覚えのある声。


「てめぇ!」


 っと、駆け出すギリオン!


 ガシャン!


 すぐに、鎖と足枷に止められてしまう。


「くっ!」


 この鎖の長さでは、鉄扉ギリギリまでしか届かないのだから当然だ。


「おお、危ないですねぇ」


「おめえが元凶か!」


「元凶とは、嫌な言葉を使いますねぇ」


「そんなこたぁ、どうでもいい!」


「はぁ~、粗野な冒険者は嫌ですねぇ」


「うるせえ! おめえが元凶なんだろうが」


「ふふ、元の凶ということなら、そこの冒険者でしょ」


「……」


「ですよね」


 嗤いの中に残忍な光を潜ませながら、こちらを見つめてくるのは。


「オルセー……」


 夕連亭と検問所前で戦った、風根衆の魔法剣士。


「おまえ、生きていたのか?」





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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりこの人でしたか! 死んでないと思ってたんですよねw しかしただの逆恨みじゃないだろうし、 裏でなにがあったのか…
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