第547話 嘲笑
指が、手が痺れている?
「……」
足も!?
間違いない!
確かに、痺れている!
まずい。
俺まで動けなくなったら!
まずいぞ!
早く回復薬を!
「……」
よし!
ましになった。
回復薬は、やはり効果があるようだ。
ただ、痺れが完全に消えたわけじゃない。
僅かに残っている。
「……」
これはギリオンと同じ。
ギリオンとまったく同じ状況。
つまり……。
このままだと俺も意識を失う可能性が!
駄目だ!
それだけは避けないと!
なら、どうすればいい?
魔法は使えない。
脱出もまだできない。
時間遡行も使えない。
この状況で頼れるのは回復薬と。
そして……。
異世界間移動。
「……」
異世界間移動を使えば、日本に帰ることができる。
一時退避できる。
その後、完全に回復してから、こちらに戻れば。
ギリオンを助けることもできるはず。
けど……。
それでいいのか?
本当に後悔しないのか?
こっちに戻った時に、ギリオンが無事じゃなかったら?
命がなかったら……。
もう時間遡行は使えない。
一度失くしたら取り戻すことはできない。
それでも、日本に退避すべき?
「……」
くそっ!
分からない。
正解なんて見つからない。
けど、時間がないんだ。
すぐにでも決断しないと。
「っ!」
また痺れてきた。
回復薬を!
「……」
一度目に比べ、効きが悪い。
やはり、長くはもたないのか。
くっ!
どうすればいいんだ!
「……」
最悪を避け、安全策をとる。
最高の結果を求め、危険を冒す。
ただの二択なのに……。
正解が分からない!
「!?」
眠気?
痺れではなく、眠気だ。
しかも、ただの眠気じゃないぞ!
抗えないほどの睡魔!
「……」
回復薬も駄目だ!
効果がない!
「うぅ」
体が鉛のように重くなり、思考が曖昧になっていく。
このままじゃ、倒れてしまう。
決断だ!
今すぐに決断!
「……異世界間移動」
選んでしまった。
安全策を。
「……」
「……」
それなのに!?
発動しない!
まさか、異世界間移動も使えないのか!?
異世界間移動にも魔力は関係している。
だから、使えない?
そんな……
「……」
眠い。
抵抗できない。
まずい。
まずい。
朦朧とする。
「……」
もう……。
「……」
「ふふ」
「……」
「はははは」
薄れいく意識の中。
俺の耳に届いたのは、不快な嗤い声。
どこかで聞いたような嗤い声……。
「待ちましたよ」
「……」
「ええ、ずっと耐え忍んで、この時を待っていました」
「……」
「ですが、これで! これで、借りも返せそうです」
「……」
「検問所での借りをね」
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<ヴァルター視点>
「ここだな」
ギリオンが消えて5日。
まだ戻って来ない。
ただの暴行で、この長期拘束。
考えられないことだ。
何かが裏で動いていると考えざるを得ないだろう。
それが何か?
俺の手に負えるものなのか?
分からない。
分からないが、動くことはできる。
そのために使える力、伝手は……。
風根衆の力じゃない。
今のウィル様の状況では、風根と深く関わることなどできないからだ。
頼るのは、冒険者ギルドの力。
長年この身を置いてきた冒険者としての伝手と力しかない。
「……」
その伝手を使って辿り着いたのが、南にある衛兵詰所。
詰所地下の石牢に、ギリオンが勾留されているらしい。
さあ。
ここまで来れば、何とかなる。
いや、何とかしてやる。
もう少し我慢しろよ、ギリオン。





