第546話 石牢 6
「うぅ!」
「ギリオン!!」
何が起こってる?
空気か?
空気が問題なのか?
「コーキ……駄目だ、動けねえ」
「動けないって、どういうことだ?」
「し、痺れだ」
身体が痺れている!
なら、治癒魔法……は使えない!
だったら、回復薬しか。
収納から素早く取り出した、回復薬をギリオンの口へ。
「くっ、うぐっ……」
よし、何とか嚥下しているな。
「うぅ……」
「どうだ? 少し楽になったか?」
「お、おう」
効いたのか!
良かった。
「薬のおかげで、かなり痺れも消えたぜ」
「まだ残ってるんだな?」
「ちっとな」
痺れが完全に消えてはいない。
なら、再発することも。
「コーキ、おめえは大丈夫なのか?」
「……ああ」
こっちは、痺れなんて感じない。
「ちっ! オレだけかよ」
ギリオンだけというなら、空気の問題じゃないのか?
けど、他に思い当たることもないぞ。
「何が原因だ?」
食べ物も俺が収納から出した保存食しか口にしていない。
他にも何も……。
「普通に考えりゃあ、毒ガスか魔道具だと思うけどよ。コーキが平気ってんだから……。わけ分かんねえぜ」
魔道具の可能性もあるんだな。
いや、それにしたって、俺だけ痺れが出ない理由が分からない。
「……」
ガスでも魔道具でも食べ物でもない。
だったら何なんだ?
待てよ。
耐性の差じゃないのか?
以前、能力開発研究所で睡眠ガスを受けた時も俺だけ平気だったぞ。
「コーキ……」
「どうした?」
まさか、再発?
痺れてきたのか?
「また、痺れてきたぜ」
やっぱり!
「回復薬だ。もう一度飲んでくれ」
「わりいな」
「気にしなくていいから、早く飲め」
「おう」
まだ軽い痺れのためか、今回は自力で飲むことができた。
「どうだ?」
「ましになったぜ」
「まだ痺れが残ってるんだな」
「……ああ」
ということは、何度でも再発するんじゃないか。
まずいぞ。
けど、だからといって、今すぐ打つ手なんて思いつかない。
まだ鉄格子を破壊する段階には至ってないんだ。
時間遡行も……。
吾妻たちとの戦いで使ってしまった。
「回復薬を飲めばましになんだから問題ねえ。おめえには迷惑かけっけどよ」
「薬のことは気にしなくていい」
「助かるぜ」
薬で済むなら安いもの。
問題はいつまでこの状況が続くか……。
「けどよぉ、おめえは平気なんだろ?」
「ああ」
俺は依然として痺れなど感じていない。
そうか!
なら……。
この痺れが命にかかわるものでないなら。
仮にギリオンが痺れで動けなくなっても、俺さえ無事なら対処できる。
むしろ、敵をここに誘い出せるんじゃないのか?
こんなこと仕掛けてくるのが、ただの衛兵だとは思えない。
裏に誰かがいるはず。
そいつへの足掛かりになるんじゃ。
「コーキ?」
「声を落としてくれ」
「……」
「この状況、好機かもしれない」
「どういうこった?」
「敵を誘き寄せるんだ」
「ん? 痺れて動けねえふりをするってか?」
「ああ」
ふりでも本当に動けなくても、どちらでも対応できる。
「次に痺れたら動けないふりをして倒れるぞ。もちろん、薬を飲んだ上でな」
「コーキもかよ?」
「当然、俺も動けないふりをする」
敵がこっちを監視している可能性もある。
それなら、姿を現すはず。
「悪くねえなぁ」
「災いを転じてやろうじゃないか」
「おう!」
「声落とせって」
「わりい、っと、さっそく痺れがきたぜ」
「これを飲んで横になってくれ」
「了解だ!」
さあ、俺も痺れているふりをしないとな。
「コーキ……」
ん?
「痺れはましになったけどよ、今度は……」
何が?
「目を、開けて、らんねえ」
なっ!
睡眠効果まで!
「ギリオン、もう一度飲むんだ!」
今にも意識を失いそうなギリオンの口元に回復薬を。
「っ……」
口に入ったか?
入ったよな?
「ぅぅ……」
「ギリオン?」
「……」
「おい、ふりはしないでいいから返事しろ」
「……」
「ギリオン!」
「……」
駄目だ。
完全に意識を失っている。
「!?」
息はあるんだろうな?
まさか、そんなこと!
「……」
呼吸も脈もある。
命に別条はない。
ああぁ、よかった。
……となると。
若干想定とは違ってしまったが、することは同じか。
俺がふりをして、敵を誘き寄せればいい。
問題はない!
好機は継続中だ。
とりあえず。
「うぅ!!」
声を出して。
痺れたふりをして横になる。
このまま、しばらくは待機。
敵を待つ。
「……」
「……」
「……」
ん?
ちょっと待て。
指先がおかしいぞ。
これは……痺れてる!?





