第544話 石牢 4
<ヴァーンベック視点>
はぁぁ。
この忙しい時に、あいつらときたら……。
まっ、ギリオンはまだ分かる。
あの野郎は、どこでも問題を起こすからな。
けど、コーキが一緒にいてこのザマじゃあ、どうしようもねえ。
ほんとによぉ、面倒ばかりかけやがって。
いっぱい奢るくらいじゃ、許さねえぞ。
「さっさと、立ち去るんだ」
しかし、この衛兵も偉そうだな。
「早く去れ!」
「……分かってる」
こんなとこ、用がなけりゃ俺も来たかねえんだ。
面会できねえんなら、さっさと出てってやらぁ。
とはいえ……。
どうしたものか?
「……」
俺に王都の伝手はない。
もちろん、ワディン出身のシアも。
となると、官憲に手を回すなんて不可能なのか?
冒険者ギルドの力を借りるのはどうだ?
最後の手段としてはありだが、ここは王都だからな。
顔が利かないギルドで、どこまで……。
くそっ!
他に手は?
俺が使えるものは?
「……」
あいつは?
そうだ!
あいつなら、王都でも力を持っているはず。
何とかなるかもしれねえ!
ただ……。
こっちの話を聞いてくれるのか?
それが問題だぞ。
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<エリシティア視点>
「ギリオンはまだ帰って来ぬのか?」
「はっ」
「連絡もないのだな?」
「はい」
もう二晩が経つというのに、連絡さえ寄こさぬとは……。
彼奴が音信なく、この屋敷を離れるとは思えん。
となると、間違いない。
厄介ごとに巻き込まれているのであろう。
「して、情報は? 何か分かったことは?」
「まだしっかりと確認は取れてないのですが……」
「構わぬ、申してみよ」
「2日前にキュベルリアの衛兵に捕まった大男が、その、ギリオン殿に似ているらしく」
「衛兵に捕らえられておるのか?」
「……その可能性もあるかと」
「彼奴、何を仕出かしおった?」
「暴行とのことです。ですが、その者がギリオン殿と決まったわけではありません」
暴行?
らしいと言えばらしいが。
今の状況を分かっていて、彼奴が軽挙に走る?
考えづらいことだな。
「詳細はいつ分かるのだ?」
「おそらく、本日中には」
「ふむ。詳細が分かり次第、すぐ報告するように」
「はっ」
平常時であれば、キュベリッツに手を回して解放させるなど容易いこと。
ただ、時期が悪い。
今は些細な借りすら作るべきではないのだ。
「エリシティア様、あの者のことをそこまで気にかける必要はありませぬぞ」
「この大事な時に、一冒険者に構っている場合ではございません」
「ふむ……」
「明後日にはレザンジュに発つのです」
「大事の前の小事、いや、些事です」
「……分かっておる」
今は天を抱く時。
我が人生で最も大事な時。
冒険者などに構っている暇などない。
であるが……。
ギリオンのこととなると、どうにも気になってしまう。
感情とは儘ならぬものよ。
「エリシティア様、ギリオンのことで悩まれる必要はありません」
「どういうことだ?」
「単なる暴行ということでしたら、長くても数日で釈放されるはずですので」
「ふむ」
「もし明後日までに戻らぬようでしたら、私がキュベルリアに残って手を回してみましょう」
「ヴァルターが残るというのか?」
「はい。まあ、明後日までには釈放されると思いますが」
「……」
「キュベルリアに残ったとしても、ギリオンが釈放され次第すぐに跡を追いますので、問題はありませんよ」
「エリシティア様、ヴァルター殿に任せておけば問題はないかと」
ウォーライル。
おまえもそう考えるのであれば……。
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「コーキ、どうだ? 脱出方法見つかったかよ?」
「もう少しかかりそうだ」
「おう! もうすぐ出れんだな」
「……方法が見つかっても、すぐに脱出するとは言ってないぞ」
「ああ? もう2日だぞ。こんなとこ、さっさと出りゃいいだろうが」
勾留されて既に40時間以上が経過している。
明らかにおかしな状況だ。
ただ、だからと言って、すぐに脱獄すべきかというと……。
やはり、迷ってしまう。
どうしても、今後のことが気になってしまうからな。
「悩んでも無駄だぜ。あいつら、釈放する気なんてないだろうからよ」
「……その話は、脱出方法を見つけてからにしよう」
何と言っても、まだ完成してないんだ。
「それも、そうだな。で、魔力は上手く使えそうか?」
「あと一歩ってところだ」
この石牢内での魔法発動は、何度試しても無理だった。
それならばということで、違う方法を模索した結果。
あと一歩のところまでは漕ぎつけることができた。
ただ、ここから先がなかなか上手くいかない。
あと少しなんだが……。





