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第544話  石牢 4


<ヴァーンベック視点>




 はぁぁ。

 この忙しい時に、あいつらときたら……。


 まっ、ギリオンはまだ分かる。

 あの野郎は、どこでも問題を起こすからな。


 けど、コーキが一緒にいてこのザマじゃあ、どうしようもねえ。


 ほんとによぉ、面倒ばかりかけやがって。

 いっぱい奢るくらいじゃ、許さねえぞ。



「さっさと、立ち去るんだ」


 しかし、この衛兵も偉そうだな。


「早く去れ!」


「……分かってる」


 こんなとこ、用がなけりゃ俺も来たかねえんだ。

 面会できねえんなら、さっさと出てってやらぁ。


 とはいえ……。


 どうしたものか?


「……」


 俺に王都の伝手はない。

 もちろん、ワディン出身のシアも。

 となると、官憲に手を回すなんて不可能なのか?


 冒険者ギルドの力を借りるのはどうだ?


 最後の手段としてはありだが、ここは王都だからな。

 顔が利かないギルドで、どこまで……。


 くそっ!

 他に手は?

 俺が使えるものは?


「……」


 あいつは?


 そうだ!

 あいつなら、王都でも力を持っているはず。

 何とかなるかもしれねえ!


 ただ……。


 こっちの話を聞いてくれるのか?

 それが問題だぞ。





******************************


<エリシティア視点>




「ギリオンはまだ帰って来ぬのか?」


「はっ」


「連絡もないのだな?」


「はい」


 もう二晩が経つというのに、連絡さえ寄こさぬとは……。


 彼奴が音信なく、この屋敷を離れるとは思えん。

 となると、間違いない。

 厄介ごとに巻き込まれているのであろう。


「して、情報は? 何か分かったことは?」


「まだしっかりと確認は取れてないのですが……」


「構わぬ、申してみよ」


「2日前にキュベルリアの衛兵に捕まった大男が、その、ギリオン殿に似ているらしく」


「衛兵に捕らえられておるのか?」


「……その可能性もあるかと」


「彼奴、何を仕出かしおった?」


「暴行とのことです。ですが、その者がギリオン殿と決まったわけではありません」


 暴行?

 らしいと言えばらしいが。


 今の状況を分かっていて、彼奴が軽挙に走る?

 考えづらいことだな。


「詳細はいつ分かるのだ?」


「おそらく、本日中には」


「ふむ。詳細が分かり次第、すぐ報告するように」


「はっ」


 平常時であれば、キュベリッツに手を回して解放させるなど容易いこと。

 ただ、時期が悪い。

 今は些細な借りすら作るべきではないのだ。


「エリシティア様、あの者のことをそこまで気にかける必要はありませぬぞ」


「この大事な時に、一冒険者に構っている場合ではございません」


「ふむ……」


「明後日にはレザンジュに発つのです」


「大事の前の小事、いや、些事です」


「……分かっておる」


 今は天を抱く時。

 我が人生で最も大事な時。


 冒険者などに構っている暇などない。


 であるが……。


 ギリオンのこととなると、どうにも気になってしまう。

 感情とは儘ならぬものよ。


「エリシティア様、ギリオンのことで悩まれる必要はありません」


「どういうことだ?」


「単なる暴行ということでしたら、長くても数日で釈放されるはずですので」


「ふむ」


「もし明後日までに戻らぬようでしたら、私がキュベルリアに残って手を回してみましょう」


「ヴァルターが残るというのか?」


「はい。まあ、明後日までには釈放されると思いますが」


「……」


「キュベルリアに残ったとしても、ギリオンが釈放され次第すぐに跡を追いますので、問題はありませんよ」


「エリシティア様、ヴァルター殿に任せておけば問題はないかと」


 ウォーライル。

 おまえもそう考えるのであれば……。





******************************





「コーキ、どうだ? 脱出方法見つかったかよ?」


「もう少しかかりそうだ」


「おう! もうすぐ出れんだな」


「……方法が見つかっても、すぐに脱出するとは言ってないぞ」


「ああ? もう2日だぞ。こんなとこ、さっさと出りゃいいだろうが」


 勾留されて既に40時間以上が経過している。

 明らかにおかしな状況だ。


 ただ、だからと言って、すぐに脱獄すべきかというと……。


 やはり、迷ってしまう。

 どうしても、今後のことが気になってしまうからな。


「悩んでも無駄だぜ。あいつら、釈放する気なんてないだろうからよ」


「……その話は、脱出方法を見つけてからにしよう」


 何と言っても、まだ完成してないんだ。


「それも、そうだな。で、魔力は上手く使えそうか?」


「あと一歩ってところだ」


 この石牢内での魔法発動は、何度試しても無理だった。

 それならばということで、違う方法を模索した結果。

 あと一歩のところまでは漕ぎつけることができた。


 ただ、ここから先がなかなか上手くいかない。


 あと少しなんだが……。





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