第540話 石牢
<ジンク視点>
「ふっ、仕事ができなければ、そもそもボスの目に留まっていないだろ」
そりゃ、そうか。
「ジンク、おまえもイリアルも私も、使えると判断されたからボスの目に留まった。その点では同じだ」
「3人とも全く似てねえけどなぁ」
性格も、能力も、まったく違っている。
「それに、やり方も違う」
「異なる能力を持つ者が異なる方法で仕事を進める。何もおかしいことじゃない」
「まあな」
異なるモノを持つからこそ、適材適所がいきてくる。
ボスの見る目は確かだよ。
「さっきも話したように、南ではイリアルがよく働いてくれた。特に、ローンドルヌ河、トゥレイズ城塞、テポレン山と。素晴らしい活躍だったぞ」
「その話、いまだに信じられねえんだよな」
もちろん、事実だと理解はしている。
メルビンが嘘をつくわけがないからな。
ただ、あのイリアルが長期の厄介な仕事を真面目にこなしただなんて、簡単に信じられることじゃない。
「間違いなく事実だ。危地も死地も切り抜けたぞ、あいつは」
「……」
「しかも、娯楽のない場所でだ」
「それがまた、信じられねえわ」
街では1日たりとも夜遊びを欠かさないあいつが、娯楽もなく長期の仕事をってのがな。
「私も正直驚いている。が、それが事実だ」
「そんだけ南が切迫してたってことか」
「そうだな」
「メルビンも危なかったんだろ」
「ああ……。エビルズピークでは、一歩間違えば命を落としていた」
「例のとんでもないバケモンか」
「あれは、恐ろしいという言葉で表現できるものじゃない」
「それほどかよ」
「間違いなくおまえの想像以上だ。あの時は剣姫とあいつがいたから何とかなったが……」
「……」
「我々だけなら全滅していただろうからな」
「メルビン率いる冒険者集団が全滅か……」
「それほどのバケモノだったってことだ」
「けどよ、それを剣姫と兄さんが倒したんだろ」
「ああ」
「なら、剣姫と兄さんはそれ以上のバケモノってことだよな」
「……そういうことになる」
「勘弁してくれよ。オレはそんなバケモノ相手にして、これからも仕事すんのかよ」
「……」
「兄さん、いい奴なんだけどなぁ」
「……」
「保証するぜ。あいつは、いい奴だよ。けど、バケモンかぁ。あの兄さんが……」
「そのバケモノが今は勾留中なんだな?」
「ああ、石牢の中だろうぜ」
「やはり、罠なのか?」
「確かなことは言えねえが、その可能性が高いんじゃねえか」
「レイリュークが、なぜそのようなことを?」
「違うな。レイリュークの狙いは兄さんじゃねえ。一緒にいた剣士の方だぜ」
「今回は巻き込まれただけだと?」
「だろうな」
「偶然か……」
偶然とは怖えな。
「まさか、抱えていた2つの仕事がここで重なるなんてよ。ホント、厄介なことだぜ」
「……」
「つっても、あれだろ。エビルズピークやローンドルヌ河に比べりゃ、楽なもんなんだろ」
「種類が違えば、また違う難しさがある」
「まあな」
「だが、おまえ向きの仕事だ。任せたぞ、ジンク」
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「ふわあぁぁぁ~~~」
でかい口をいっそう大きく開けて、体中の空気を吐き出すかのような大あくび。
ギリオンらしい。
「よく眠れたか?」
「こんなとこで眠れっかよ」
嘘つけ。
熟睡だっただろ。
「おめえは眠れたのか?」
「それなりにな」
「なら、安心だぜ」
「安心?」
「ああ、今日は何があるか分からねえ。最後に物を言うのは体力だからよ」
「昨日はギリオンが一発殴っただけだ。最後も何もない」
「まあ、そうだけどな」
「おそらく、今日釈放されるだろ」
「分っかんねえぞ」
「……」
「コーキも昨日言ってたじゃねえか。簡単には解放されないかもしれねえってよ」
「それは、あくまでも可能性の話だ。どう考えても釈放される可能性の方が高い」
「いいや、昨夜解放されなかった時点で怪しいぞ。このまま放免とはいかねえ可能性も低くねえぜ」
考えたくないことだが、あり得ない話じゃない。
ここは異世界。
しっかりと法が整備されているとは限らない。
官憲も信用できるか分からない。
つまり、すぐには釈放されない可能性も……。
「で、その場合どうすっよ?」
「どうするとは?」
「力づくで逃げるかってこった」
「……それはないな」
仮に今日釈放されなくても、まだ2日目だ。
逃げるという手段を取る場面じゃない。
「どうして?」
「逃げるなら、昨日逃げていた」
「昨日も今日も同じじゃねえか」
同じじゃないな。
さすがに、脱獄はまずいだろ。
「そもそも、どうやって石牢を脱出するんだ? 剣も没収されてるんだぞ」
「はっ、何言ってやがる。おめえには魔法があるじゃねえか。何とでもなんだろ」
「……」
「でなけりゃあ、オレもよ、大人しく捕まってねえぜ」
「……そうか」
確かに、俺の魔法を使えば難しくない。
最後の手段としては、考えておく必要があるか。
「いずれにしても、今は様子を見るしかない」
まだ、朝が始まったばかり。
釈放される可能性は高いのだから。
「ところでよぉ、脱出するにはどんな魔法使うんだ?」
「そうだなぁ」
石牢の鉄格子を破壊すればいいのだから、風刃か水刃か。
どっちがいい?
試しに刃を作り出してみるか。
「……」
ん?
「……」
「コーキ?」
これは!?
「どうした、コーキ?」
「……魔法が発動しない」





