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第537話  証人



 上手く気配を消しているが、それじゃあ俺には通用しないな。

 ということで、出て来てもらおうか。


「ジンクさん、顔を出してください」


「ちぇっ、上出来だと思ったんだけどなぁ」


 相変わらずの力みのない声とともに木陰に気配が発生し。


「兄さんには敵わねえや」


 遅れて姿を現したのが、ジンク。


「気付かれているのは分かってたんでしょ」


「いや、それはねえって。完璧な気配消去だと思ってたんだぜ」」


 しらじらしいことを。

 バレているのではと疑ってはいただろ。


「ホント、まいっちまうぜ」


「……」


 それこそ、こっちのセリフだ。


「コーキ、こいつぁ、何もんだ?」


 うん?

 ギリオンが、不審者を見るような目でジンクを睨めつけているな。


「気配を隠して、尾けてたのか?」


「……そうみたいだな」


「何のために?」


「さあ」


 それはジンクに聞いてくれ。


「てめえ、どういう了見だ」


「おいおい、兄さん、何とかしてくれよ」


「……」


「コーキじゃねえ、オレに答えやがれ」


「ほら、この人怒ってるからさ、兄さん」


 ほんと、とぼけた奴だ。


「オレが話してんだろうが!」


「この人怖いって」


 はぁぁ。


「ギリオン、まあ、そう凄むな。ジンクさんは敵じゃない……多分な」


「ってことは、敵かもしんねぇなぁ」


「兄さん、火に油を注いでるじゃねえかよ」


「ごちゃごちゃうるせえぞ! どういう了見か、さっさと答えろや」


「はぁ~~、まいったなぁ」


 まいったなんて、これっぽっちも思ってないだろ。


「たまたま広場で騒ぎに出くわしただけだって。そこに兄さんが現れてな。そりゃ、気になるってもんだ」


「……」


「そっからは、まあ……気付けば今に至る?」


「てめえ、何言ってやがる。気配を消してたんだろうが」


「それも癖ってやつだわ。普段からよく消してっからよぉ」


「ふざけた野郎だぜ。その口、黙らせてやろうか」


「んん? もう喋んなくていいのか? そいつは助かるなぁ」


「てんめえ!」


 ギリオンの剣気が膨れ上がり、今にも飛び出しそうになっている。


「ギリオン!」


 さすがに、それはやめとけ。

 ギリオンの腕を押さえてやる。


「コーキ、はなせ!」


「ちょっと冷静になれよ。ジンクさんは尾行してただけだぞ。今のギリオンが怒りをぶつける相手は他にいるだろ」


「……」


「おまえは、後ろから斬りつけられたんだぞ。尾行なんかどうでもいいことだ」


 どうでも良くはないが、今のところ実害はないからな。


「……ああ、そうだった」


 ギリオンの剣気が薄れていく。

 それでいい。


「兄さん、助かったぜ。もう少しで筋肉くんにやられるところだったわ」


 筋肉くん?

 おい、それはマズいだろ。

 いや、その通りなんだけど、ここでそれは。


「筋肉くんたぁ、誰のことだ!」


「答えるまでもないんじゃねえか」


「てっめえ!」


 ジンク、お前が油を注いでどうすんだよ。


「おほん、おほん!!」


「……」

「……」


「その茶番、いつまで付き合えばいいのかな?」


「……」

「……」


「まだ続けるというなら、他所でやってくれ。ここじゃあ、迷惑だ」


 確かに……。


 道場の中からは騒ぎを聞きつけた門弟たちが姿を現し始めている。

 このまま続ければ、夕闇のこの時間でも人が溢れてしまいそうだ。


「我らは道場に戻るとしよう」


 とはいえ、それはないだろ。


「レイリュークさん、待ってください」


「その必要を感じないのだが」


「……道場裏で騒いだことは謝罪します。ですが、今問題にしているのはそれじゃないでしょ」


「……」


「ジンクさんが、見てたんですよ。そちらの剣士がギリオンを背後から斬りつけるところを。これで証拠、証人が揃いましたよね」


「……ジンクとやら、君は現場を見たのか?」


「まあ、そうだなぁ」


「ということです。ですので、そちらの剣士を引き渡してください」


 本来なら、再び彼のあとを尾けて黒幕の有無を確認するつもりだったが、こうなったからには仕方がない。


 直接、尋問するとしよう。


「それは、できないな」


「何だと、証拠は揃ってっだろ。さっさと渡しやがれ」


「証拠? 君たちの友人が見たものを証拠というのかな?」


「オレはこいつの友じゃねえ」


「だが、そちらのふたりは親しいようだ」


「そいつぁ……」


「レイリュークさん、確かに私たちは顔見知りです。ですが、それで証拠能力がなくなるとは思えません」


 この世界の法がどんなものかは知らないが、ここは断言させてもらう。


「それでも証拠不足だというなら、後日あらためて証人を連れてきますよ」


「……」


「ですので、彼の身柄を引き渡してください」


「ふむ……。では、後日、その証人とやらを連れてきたまえ。その証言次第で、引き渡しも考えよう」


「何言ってやがる!」


「ギリオン、いい加減うるさいぞ。おまえは、ここで飯を食ったこともあるんだ。少しは弁えろ」


「それは、労働の対価だ。それに、おめえに言われる筋合いはねえ」


「これだから、おまえは……」


「とにかく、渡しやがれ!」


「話にならんな」


「何だと!」


「レイリュークさん」


「今日はここまでだ。まだ話があるなら、後日、正当な証人を連れて来ればいい。ああ、君たちではなく、官憲の手でな」


「……」


「では、我らは屋敷に戻るとしよう。もちろん、君たちとはここでお別れだ」


 その剣士は裏口から逃げるつもりだったんだろ。

 都合が悪くなったから、屋敷に戻ると?


「まだ、話は終わってねえぞ」


「ギリオン、おまえとは話にならない。君、君なら話も通じるようだから、ひとつ言っておこう」


 何だ?


「今後屋敷に入ってくるようなら、不法侵入とみなすことになる。君なら理解できるな」


「……」





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