第54話 エンノア 7
※ 少し入り組んでいますので、時系列を整理したいと思います。
病で亡くなったアデリナさんを救うためリセット
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薬草採取のためテポレン山に入った初日に戻る
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エンノア到着前に、ユーリアさんの姿を見て記憶が戻る
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戻った記憶を時系列で簡単に並べると
1 フォルディさんとユーリアさんを助ける
2 2頭目のブラッドウルフにユーリアさんが殺される
3 フォルディさん救出を皆に感謝されるが、心は晴れない
4 コーキの気分を変えようと通路内を案内される
5 宴でも気分は晴れず、宴に欠席したフォルデイさんが気になってしまう
6 就寝前、ゼミアさん、スペリスさんの会話の中に記憶操作を疑うような発言
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記憶操作を疑い考え込んでいる目の前でフォルデイさん、ユーリアさんがブラッドウルフに襲われる
↓
助けに向かう……今はここです。
くっ!
やってしまった。
今の状況は?
すぐに、立ち上がり前方を確認する。
「フォルディ兄さま、逃げて、早く逃げて!」
「ユーリア、何を言ってるんだ。ボクがなんとかしてやる」
そこか!
なら、間に合う。
大丈夫だ。
「だめ、ブラッドウルフになんか、もう」
「いいから、ボクが引きつけている間に、ユーリアは逃げるんだぞ」
魔力を身体に循環させながら駆ける。
ふたりのもとへ。
もう見知らぬふたりじゃない、彼らのもとへ。
「いや、兄さま、やめて!」
「このままだと、ふたり共危ないんだ。ユーリア、分かるだろ」
気配を消して静かに走る。
「いや、分からない」
引き抜いた剣に魔力をまとわせる。
「……今から走ってあいつを引きつける。その隙に地下に逃げ込むんだ」
「いやよ」
ブラッドウルフまでは20メートル。
よし!
充分間に合う。
「じゃあ、いくよ」
拳大の石が数個浮き上がる。
が、その必要はない。
「ふたりとも、そのまま動かないで!」
叫びながら跳ぶように駆ける俺に気付いたふたり。
必然、ブラッドウルフもこちらを振り返ろうとする。
が、もう遅い!
最後の一歩を跳躍!
ブラッドウルフとの距離がなくなる。
と同時にやつの首に剣を落とす。
強力な魔力をまとった一撃が、その毛並みに沈みこむ。
前回とは違う。
冷静で冷酷な一撃。
……。
驚愕に見開かれたブラッドウルフの眼。
その身体は完全に動きを止め……。
ドスン。
その眼を閉じることなく、凶悪な顔が地面に転がった。
「なっ!?」
「えっ!?」
振り抜いた剣を右に払い、血を飛ばす。
そして……。
ドオォォン!
その巨体がエンノアの地に沈んだ。
「何が? えっ?」
「どうして? だれ?」
「……」
まともに言葉も出ないふたり。
呆然と立ちつくしているが、その身体には傷ひとつない。
良かった……。
安堵に胸をなでおろす。
だが、まだ終わりじゃない。
もう一頭、ブラッドウルフがいる。
もうすぐここに現れるはずだ。
「あ、あの、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「……まだです。話は後で」
「え?」
「まだ?」
「そこに隠れていてください」
俺の後ろにある大きな岩。
そこに隠れていてほしい。
「まだ何か?」
「静かに!」
前回の状況を思い出す、というか、さっき見たばかりの記憶だ。
鮮明に覚えている。
あの時、ユーリアさんがいたのはあの辺り。
ということは、ブラッドウルフはあちらから現れるのか。
……。
ブラッドウルフが現れるであろうその場所に歩を進める。
まだ、姿が見えない。
が、おそらく……。
この茂みの奥から襲ってくるんだろう。
……。
間違いない。
気配を感じる。
……。
ああ、来たな。
茂みをかき分ける音が聞こえると思った次の瞬間。
予定通り2頭目のブラッドウルフが現れた。
茂みから跳び出した勢いのまま、俺に襲いかかろうとする。
望むところだ。
かかってこい!
俺に向かって跳躍したブラッドウルフに。
「雷撃!」
「ギャァァ」
雷撃をまともに食らった衝撃で着地に失敗し、俺の前に無防備な頭をさらしている。
これで終わりだ。
剣を一閃!
……。
ドオォォン。
2頭目のブラッドウルフの頭が身体を離れ、その巨体が地に落ちた。
「また一撃で?」
「すごい……」
終わったな。
これで、ようやく終了だ。
ここまで長かったような短かったような……。
でも、ふたりとも無事で本当に良かった。
「ひとりでブラッドウルフを2頭も倒すなんて」
「信じられない!」
ブラッドウルフとの決着はあっさりしたものだった。
けれど、その後が想像以上にこってりとしていたと言うか何と言うか……。
「命を救っていただき、ありがとうございました」
「あなたの助けがなければどうなっていたことか」
「本当にありがとうございました」
「あなたは私たちの命の恩人です」
「なんとお礼を言ったらいいか」
「どうして2頭目のブラッドウルフが襲ってくるのが分かったのですか? 凄いです。ありがとうございました」
「素晴らしい剣捌きでした。ありがとうございました」
「見たこともない魔法です。ありがとうございました」
「すごい動きでした。ありがとうございました」
「ありがとうございました。ありがとうございました」
「……」
このふたり、ありがとうと言わなければならない呪いにでもかかっているんじゃないのか。
そう思ってしまうほど、とにかく感謝の言葉ばかり。
まいってしまう。
最初は返事を返していたけど。
途中からはただ聞くだけになってしまった。
こちらがもういいと言っても聞かないのだから……。
ここまで感謝の言葉を繰り返されると、返答に窮してしまう。
とまあ、しばらくはそんな感じで時間が過ぎ。
その後、落ち着いたフォルディさんとユーリアさんを、なんとか上手く言いくるめて地下に入ることを許してもらった。
「コーキさん、こちらです。どうぞ」
また訪れることになったエンノアの地下都市。
今回は犠牲者を出すことなく、無事に入ることができた。
ここまでは上手くいっている。
けれど、今日という1日はまだ終わっていない。
これからだ。
失っていた記憶を取り戻し、気持ちを整理する前に状況に急かされるようにしてフォルディさんとユーリアさんを助け、そして今。
安堵と弛緩に疑心と焦り。
……。
自分でもよく分からないくらい、心の中には多くの感情が入り乱れている。
ゆっくりと心を落ち着かせる時間が欲しい。
でも、今はまだそんな余裕はない。
ここに来た当初の目的を達成していないのだから。
本当に色々あって忘れそうになるが、俺の今の目的はエンノアの病人を救うこと。
これを忘れちゃいけない。
他のことは、ひとまず保留だ。
記憶改竄について考えだしたら、治療に集中なんてできないからな。
それは後回しにして。
今は患者を救うこと!
そこだけに注力したい。
だから、一刻も早く病人のもとに駆けつけたいんだ。





