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第534話  静の攻防



「話は、おめえを倒してから」


 そうだな。

 ジルクール流、レイリュークという名には興味を惹かれてしまうが、すべては決着をつけてからだ。


「あとで、じっくり聞いてやるからよぉ」


「……」


 距離を取り、剣を手にしたまま動きが止まる。


「……」


 ギリオンが発する剛の気に変化はない。

 長身剣士の静の気配にも変わりはない。


 静と剛の気が、宙でぶつかる音が聞こえるようだ。

 ただ、実際は。


「……」


「……」


 無音。

 ギリオンも、長身剣士も観衆も。

 ピクリとも動かない。


 静の剣を操る長身剣士はまだしも、剛剣のギリオンが静の対峙を選ぶとは珍しい。

 相手に合わせているのか、それとも俺の知らない手があるのか?


「……」


「……」


 静寂と緊張が広場を支配する中。

 時間だけが過ぎていく。



 うん?

 ギリオンの構えがおかしいぞ。

 何が違うんだ?


 そうか、重心か。

 地に根が生えたようにどっしりとしたギリオンの構えが、変化しているんだ。

 ギリオンがこんな剣構えをするとは驚きだな。


「……」


「……」


 軽い。

 浮いているように軽い。


「……」


「……」


 宙に浮き。

 水に浮き。

 空を舞う……!?


 これは!

 これは、ヴァルターさんの剣構え。


 まさか、幻影の剣を。

 剛剣のギリオンが静の極致である幻影、無拍子の剣を!


 使えるのか?


「……」


 ギリオンから剛の気が消えている。

 殺気も消えている。


 やはり、無拍子だ。


 予備動作無しで放たれる無拍子の剣。

 必中不可避の静剣。


「……」


「……」


 対峙するふたりには、いまだ動きは見えない。

 が、ほんの微かな剣先の揺れを、強化した俺の目が捕えた刹那!


 剣気を消したギリオンの剣が、敵の胸前に!


「!?」


 驚愕の表情を浮かべる長身剣士。

 突然現れた刺突の剣を避けようと身を捻るが、間に合わない!


 直進する剣先が、斬り裂いた!


「ぐっ!」


「ちっ、浅えか」


 胸に決まったギリオンの剣先。

 ただ、寸前で相手が上半身を捻ったため、胸を斬り裂いただけ。

 倒せてはいない。


「完璧には程遠いぜ」


 確かに、完璧ではない。

 微妙に無になりきれていない。

 それでも、充分に効果的な無拍子だった。

 実際、相手に傷を負わせたんだから。


「くぅぅ……」


 傷を受けた長身剣士は苦悶の表情で距離を取っている。


「浅えが、これで勝負はついただろ」


 ああ、そういうことだ。

 だからな。


「ギリオン!」


「心配いらねえぜ。殺しゃあ、しねえよ」


「……」


「裏を調べねえとなぁ」


 なっ?

 あの、ギリオンが冷静に判断を?

 まだ戦闘中なのに、先を見ている?


「ってことで、もう一撃食らうか、今ここで降参するか選ばせてやるぜ」


「……降参など、しない」


 傷を負い、顔を歪めながらも戦意は衰えず、か。

 なら、もう一撃与えるしかない。


「その闘志、嫌いじゃねえなぁ」


 ギリオンの剣気が膨れ上がっていく。

 無拍子じゃない。

 いつもの剛剣。


 決まりだな。

 あとは尋問をどうするか。

 どうやって、口を割らせるか。


 それが問題になってくる。



「お前ら、何をしている!」


「散れ、散れ!」


 ギリオンと長身剣士を囲む観衆の外から、怒号が!

 何だ?


「衛兵が来たぞ!」


「ちっ、いいとこだったのによ」


「これで終わりかよぉ」


「どけ、どけ、そこを退け!」


「痛え、何すんだ!」


「邪魔だぁ!」


 観衆をかき分けて向かって来るのは王都巡回の衛兵たち。


「お前たち、私闘か?」


 遠目で状況を確認した衛兵が問いかけてくる。


「……」


 これはもう、衛兵に任せた方がいいか。

 戦いも終わりだな。


「ギリオン、ここは……」


「あいつ、逃げやがった。コーキ、追うぞ!」


「っ!」


 喧騒に紛れて、長身剣士が逃げ出している!



「止まれ、止まるんだ!」


 大声で叫びながら観衆の中を向かって来る衛兵たち。


「あのヤロォ!」


 長身剣士を追うギリオン。


「「「「「うわぁぁぁ!!」」」」」


 衛兵たちの進行を遮るように騒ぐ観衆。


「……」


 俺は……俺も追うしかないか。







「ちっ、ここかよ」


 広場の喧騒から離脱し、衛兵からも逃れた俺たちが到着したのは、立派な門を持つ大きな建物。


「あの剣士が逃げ込む後姿が見えたな」


「ああ……」


 建物の中からは、剣の音が響いてくる。


「分かっちゃいたけどよ、レイリュークの道場とはなぁ」


「……」


「気分わりぃぜ」




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― 新着の感想 ―
[良い点]  ギリオンの成長度合いが半端ないですね!   裏をかいた攻防がかっこいい!
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