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第533話  剛柔の攻防



「頼んでねえ」


 広場で長身の剣士とやりあっていた赤髪の男。

 ふてぶてしく言い放つこの男。

 そう、ギリオンだ。


「が、まあ……」


「……」


「悪かねえな」


 俺の剣が間に合わなかったら、致命的な一撃を食らっていただろうに。

 相変わらずの減らず口だよ。

 ほんと、変わっていない。


「悪くない援護だったぜ」


「それは、どうも」


 しかし、ギリオンには何を言われても嫌な気分にならないんだから不思議だ。

 これも人徳ってやつか。

 いや、相性かもな。


 まっ、それはそれとして。


「背中、不意を打たれたんだろ。大丈夫か?」


「ああ、そう深くはねえ。ただ、ちっと面倒だぜ」


 聞くまでもなかった。

 それだけの出血で、平気なわけないよな。


「なら、休んどけ。あとは俺がやる」


 今は5メートルほど離れて様子を見ている長身の剣士。

 この状態のギリオンに、あいつの相手を任せるわけにはいかない。


「……必要ねえ」


「何だって?」


「必要ねえって言ったんだ!」


「……」


「一対一の戦いで尻尾を巻いて逃げるなんてなぁ、できねえんだよ」


「不意打ちから始まった戦いに、尋常の勝負を求める必要はないぞ」


「はっ! んなの関係ねえな」


「関係あるだろ」


「ねえ!」


 ギリオン理論では、そうなるのかよ。


「……」


「コーキ、離れてろ」


 困ったぞ。

 こいつ、言い出したら聞かないからな。


「こっから、もうひと勝負だ」


「そうかよ。ただ、その前に」


 仕方ない。


「んん?」


「これで、少しは楽になるはずだ」


 背中に手を当て、治癒魔法を発動。

 当初は低レベルだった治癒魔法も、これまで散々使ってきたおかげで、それなりのモノになっている。

 この程度の傷の応急手当なら、時間もかからないだろう。


 ああ、もちろん、治癒中も敵からは目を離していない。


「……」


 あっという間に治療完了だ。


「ほら、戦うんだろ」


「たす、かったぜ」


「……はあ?」


 ギリオンが口に出したとは思えない程の小声。

 聞いたことのないギリオンの小声と、その内容に少々戸惑ってしまう。


「助かったって、言ってんだろうが。頼んでねえけどよ」


 珍しいこともあるもんだ。


「そうか、そうか。なら、存分にやってこい」


「はん、言われるまでもねえぜ」


 颯爽と足を踏み出すギリオン。

 長身の剣士は沈黙のまま待ち構えている。


 不意打ちをするような奴が、この状況でただ待っているだけとは意外だな。


「こっからが本番だ。かかってきやがれ!」


「……」


 再び対峙するギリオンと長身剣士。


 俺は後方で観戦かな。

 で、周りは……。


「やってやれ、赤髪!」


「卑怯者に負けんなよ!」


「そうだ、そうだ!」


 さっきまでは目の前で繰り広げられる鮮烈な戦闘に言葉を失っていた多くの観衆が、口々に声をあげている。

 しかも、その多くがギリオンの応援だ。


 これは、下手な戦いはできないぞ。

 なあ、ギリオン。


 そんな周囲の反応を全く気にする様子も見せず、ギリオンが踏み込んだ。


「だぁぁ!」


 上段からの強烈な剣撃。

 ギリオンらしい真っすぐで、けれんみのない一撃だ。


 が、敵もそれに合わせてくる。

 力で受けるのではなく、柔らかく受け流して……。


「っ!」


 上段からの一撃をいなされたギリオン。

 右に流れた剣を返すように反転。


「おりゃあ!」


 次は横手からの薙ぎ払いだ。


「……」


 これまた申し分ない迫力の剣撃。

 受けるのもいなすのも容易じゃない。


 が、敵もさるもの。

 無理に剣を合わせることはせず、バックステップで後ろに回避。

 紙一重でギリオンの剛剣を避けきった。


「ちぃ!」


 大振りの横薙ぎを躱され、体勢を崩すギリオン。

 剣も体も左に流れている。


 そこに敵の反撃。

 彼特有の静かな動作で素早く迫り、左横に崩れたギリオンの右肩に剣を振り下ろしてくる。


「っ!」


 左に腕が伸び切ったこの体勢からじゃあ、すぐに剣は返せない。

 やられる!

 肩を斬られる。


 観衆の誰もが被撃を覚悟した次の瞬間。


 ギリオンが、伸びきった腕はそのままに、肘を折り、手首を返し。

 剣身だけを戻した!


 ギィィン!


 普通は戻せない。

 戻せたとしても、肘が曲がり手首も返っている状態で剣を受けきるなんて、不可能事だ。


 だが、目の前に広がる光景は。

 ギリオンがしっかりと相手の剣を受け止めている。

 右肩ギリギリのところで防いでいる。


「……」


 これこそ、ギリオンならではの力技。

 その膂力あってこそのもの。


「「「「「……」」」」」


「「「「「……」」」」」


 鬼気迫る攻防に、静寂が広場を覆い尽くす。

 が、一転。


「「「「「おおぉぉぉ!!」」」」」


「「「「「うわぁぁぁ!!」」」」」


 観衆が爆発した。


「すげえぞ!」


「ああ、こんなの見たことねえ」


「何者だ、あの剣士たちは?」


 広場はもう、興奮のるつぼと化している。


「俺は知らねえ」


「ああ、知らない剣士だ」


「けど、凄いことに変わりはねえぞ」


 興奮はおさまりそうにない。


 そんな中。


 キーン!


 剣を交わし去り再び距離を取るふたり。



「おめえ、やるなぁ」


「……そちらこそ」


「その腕があんのに、なんで不意打ちしたんだ?」


「……」


「ジルクール流が泣くぜ」


「っ!」


「レザンジュの刺客かどうかは知んねえけどよぉ。おめえがジルクール流でレイリュークと同じ流れだってえのは、分かってんだ」


 ジルクール流?

 レイリューク?


 それって、オルドウでも剣の指導をしていた達人。

 俺がギリオンと出会ったあの道場に指導に訪れていた剣士だよな。


 その名前が、ここで……。


「……」


「今は黙ってりゃいい。あとでゆっくり聞いてやらぁ」





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― 新着の感想 ―
[良い点]  まさかギリオンは相手の正体に目星がついている……!?
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