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第532話  薄暮の剣戟



「きゃあぁぁぁ!!」


 この先にある広場から聞こえてきた絶叫。

 明らかに普通じゃない。


「……」


 今回の王都滞在中はやるべきことに専念して、それ以外には関わらない。

 時間がないのだから、優先順位をしっかり見極める。


 そう心に決めていたのに。


 響き渡る悲鳴、騒然とした気配に、気付けば足が反応していた。

 意志に反するように身体が動いていた。


「……」


 今日はもう宿に戻るだけ。

 時間を使っても問題はない、か?


 そうだな。

 問題ない。


 言い訳に近い自己弁護を頭の中に浮かべながら、大通りを駆け、広場に足を踏み入れる。

 ここは剣姫と出会った広場、屋台の娘ファミノと一緒に踊ったあの広場だ。


「きゃあぁ!」


「うわぁぁ!」


「危ない!」


 と、騒動は広場の中央。

 人だかりができている、あそこだ。


 どよめく市民に悲鳴を上げる女性。

 その先に見えてきたのは、2人の剣士。

 血に濡れた剣を片手に笑みを浮かべる長身の男と、背中から血を流し地面に片膝をついている骨太の男だ。


 って、あれは!?


 背中しか見えない、顔は確認できない。

 が、あの筋肉に覆われた背中。

 短い赤髪。


「ちっ、やりやがったな」


「……」


「てめえ、何者だ」


「……」


「だんまりかよ」


「……」


 2人の男を中心に、円形にできあがった人だかり。

 その円を回るように移動し、とらえた男の顔は……。


 やっぱり、お前かよ。


「黙ってても、どこの手の者かは分かってんだぜ」


「……うるさいやつだ。その上、しぶとい」


「はっ、こんなもんじゃあな、オレはやられねえんだよ」


 立ち上がる赤髪。

 そこに近づく長身。


 ともに剣を抜き、殺気を放ちながら対峙している2人。


 お互いの剣は冷たく熱く、周りの気をその剣身に集めたかのように冴えた光をたたえている。

その清冽な剣身。

 精妙優雅な佇まいには、おのずと畏敬の念を覚えてしまう。


「なら、次の一撃で倒してやろう」


「できるわけねえだろ」


「ふっ」


「さっきの不意打ちでも、オレを倒せなかったんだぜ」


 背中から血を流しながらも、余裕があるように見える。

 まだ、やれるってことだよな?


「おめえにオレは倒せねえ」


「それは、どうかな」


「どうでもねえ!」


「では、味わうがいい」


 その言葉とともに地面をけり、滑るように接近。

 上段から剣を叩きつける長身。

 速い!


「誰が味わうかよぉ」


 振り上げる剛剣で迎え撃つ赤髪。

 こっちは強く重い。


 ガキーン!


 火花を散らす剣の激突。


「どりゃあ!」


 激しい剣戟が始まった!


 キン!

 カキーン!


 薄暮に閃く稲妻の白刃。

 静と剛の剣の激突。


 キン!


 キン!


 カキーン!


 攻める赤髪の剛剣に、長身の柔らかなさばき。

 両者の剣が踊り続ける。


 美しい舞踊のように剣が交差していく。


 その剣の冴えに声を忘れ、ひたすらに見入る人々。

 俺は攻防を注視しながら、時を待つ。


 キン!


 カキン!


 空を舞う剣身が時を忘れさせてくれるほどの見事な剣戟。


 カキン!


 ガキーン!


「……」


 俺の知っているあいつの剣じゃない。

 剣風が随分と変わったようだ。


「「「「「「おお!」」」」」」


「「「「「「ほう!」」」」」」


 観衆と化した人々から感嘆の声が漏れ始めた。


 が、これは良くないな。


 一見では見落としそうになるが、赤髪の動きが鈍ってきた。

 背中に傷を負いながらの剛剣の連続に、限界が近いのかもしれない。


 キン!


 キン!


「「「「「「っ!?」」」」」」


 バランスを崩した赤髪に、観衆から吐息のような悲鳴が。


「終わりだぁ!」


 そこに長身の剣が叩き込まれ!


「ぐっ!」


 やられる。

 皆がそう思う中。


 長身の剣の前に躍り出たのが。


 ガキーン!


 俺の剣。


「なっ、誰だ!」


 声をあげ、咄嗟の判断で距離を取る長身。

 対する赤髪は。


「ちっ、おめえかよ!」


「助けてもらって、それはないだろ」


「んなもん、頼んでねえ」


「はは、お前らしいな、ギリオン」




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