第531話 魔法薬
シアの視力を取り戻すため、考えられる方策の1つ。
魔法的な奇跡による治療。
これについては、エスト大教会のトップである本山の大教主へと繋がる道を手に入れることができた。
大金を犠牲にし、不愉快な時間を過ごすことで手に入れた大教主への貴重な切符。
期待しかないな。
ただし、この切符はすぐに使えるものではない。
教会トップに会うには本山まで足を運ばないといけないからだ。
今は、それができる状況じゃない。
エスト大教会の本山はキュベルリアから遠く離れた他国に存在する。
キュベルリア国内を旅し、レザンジュ王国を越え、ようやく到着できる場所だ。
遠すぎる。
現時点で、俺に残された時間は17日間。
この時間で本山を訪れ全てを終えるなんて不可能なこと。
俺ひとりでも無理なのに、シアを連れて17日間だなんて。
できるわけないだろ。
それにだ。
シアの所在もまだ掴めていない。
ヴァーンと2人でキュベルリアに滞在していることは知っているが、宿泊している宿までは聞いていないんだよ。
その上、現在のレザンジュは政情に不安もある。
そんな国をレザンジュ王軍と戦ったばかりの俺たちが旅するなんてな。
どう考えても、今すぐ使える切符じゃないってことだ。
これを使うのは、他の手段が潰えた時。
先の話だな。
しかし……。
教会の大奇跡を行使できるのが、キュベルリアのエスト大神殿トップだったならなぁ。
それなら、今回の滞在中に解決できただろうに……。
まっ、王都滞在3日で奇跡の存在とそれを行使し得る存在を確認できたんだ。
良しと考えないといけないか。
「……」
ということで、次の目的は最高級魔法薬。
失った視力を取り戻す魔法薬を探すことになる。
これは神殿の奇跡と異なり、どこをどう探すのか良く分かっていない。
ギルドや薬屋、魔道具店なんかを片っ端からあたるしかないだろう。
ただ問題は……。
そんな薬が本当に存在するのか?
はなはだ怪しいところではある。
が、存在の怪しさなら神殿の奇跡も同じ。
大教主の行使する奇跡がシアの視力を取り戻すことができるのか、そもそも高齢の教主が最盛期と同等の奇跡を発現できるのか?
疑い出したらきりがない。
まずは、確かめる。
それしかない。
ということで、今日は一日かけて王都を回るとしよう。
可能なら、シアとヴァーンの所在とウィルさんの安否も確認したいところだ。
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<ヴァーンベック視点>
はぁぁぁ。
幸先の良かった王都滞在序盤とは打って変わって、ここ数日はまったく手掛かりらしきものが手に入っていない。
視力を取り戻す薬なんか、王都のどこにも存在しないというのだ。
それどころか、先日手に入れた神薬の情報すら疑わしいと、そんな話まで聞いちまった。
いわく、神薬など存在しない。
失くした視力を取り戻す方法など存在しない。
神殿の奇跡ですら不可能。
ってな具合だ。
「……」
はっ!
何言ってやがる。
あるんだよ!
方法は絶対に存在する!
王都の誰が何と言おうとだ。
それにな、コーキも言ってたんだぜ。
シアの視力は必ず取り戻せるってな。
だから、探し続けるしかねえ。
俺ができるのはそれだけだろ。
「……」
ところで、コーキはどうしてんだ?
あいつも王都に来るって言ってたよな?
まだ、オルドウにいるのか?
それとも、セレスさんのもとにいるのか?
「……」
「ヴァーン、どうしたの?」
まずい、不安が顔に出てたか?
「何でもねえよ」
「……」
「ちっと疲れてるだけだ」
「そう……そうね。毎日わたしのために頑張ってくれてるもんね」
「まあな」
「ありがと、ヴァーン」
「それは全て終わってからだって言ってんだろ」
「うん。でもね、わたし言葉にしたいの」
「……」
「いいでしょ?」
「そういうことなら……。けど、少なめにしてくれよ」
「ふふ、分かってるよ」
いい笑顔だ、シア。
「……」
その笑顔を守るためなら、俺は何でもしてやる。
何でもだ。
「今日も遅くなっちゃったね」
「ああ。そろそろ寝るか」
「……うん」
明日も朝から走り回らねえとな。
気に食わねえ場所だけど教会にも顔出して、他にも……。
そのためにも睡眠が必要だ。
シアと一緒に……。
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王都滞在6日目。
この3日間は魔法薬を求めて歩き回ったものの成果は皆無に等しい。
というか、むしろマイナスかな。
ギルドでも薬屋でも、回答は全て同じ。
そんな薬など存在しないと皆が口を揃えるばかりだから。
まっ、簡単に手に入るものじゃないとは分かっているし、王都に薬が存在しないのなら、それはそれで仕方ないこと。
存在しないという事実が分かれば十分。
ん?
ってことは、マイナスじゃないな。
次の手に移る切っ掛けをもらったということで、これもプラスだ。
「そうだな」
明日からは方針を変えるとしよう。
神薬調合のための素材調査だ。
さあ、どこから調べるか?
まずは……。
などと思索しながら歩く大通り。
夕暮れに近いとあって、家路を急ぐ人影も多い。
と?
「きゃあぁぁぁ!!」
大通りの向こう。
広場の中から悲鳴が響いてくる。
「……」
ここまでは荒事とは無縁の王都滞在だったが、これは!





