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第529話  探しもの



「兄さん、王都には何の用事なんだい?」


 キュベルリア到着後、乗合馬車を降りた俺に話しかけてくるジンク。

 当然のように、傍らを歩いている。


「探しものですね」


「ほう、ほう、兄さんが探し物!」


 キュベルリアの美しい街並みを、大通りの先に白く輝く壮麗な白亜宮を、眺めさせてもくれない。


「そいつぁ、気になるねぇ」


「……」


 白都キュベルリアにやって来た理由は3つ。

 シアの視力を取り戻す方法を見つけ出し、リーナとオズを探し出し、ウィルさんの安否を確認する。


 すべて探しものと言ってもいい案件だ。


「良かったらオレも手伝うぜ」


「……」


 キュベルリアの料理人でもあり、腕利きの冒険者でもあるジンク。

 その言動から、かなり顔の広い人物だということが窺い知れる。


 そんなジンクの手を借りるのは悪手ではない。

 むしろ、好手だと思う。


 ただ、気持ちの方が……。


 ジンクとは一緒に動きたくないんだよなぁ。


「探しものは得意だからよ」


 決して悪い男じゃない。

 実際、彼の力に助けられたこともある。


 それでも、このノリがどうにも……。


「で、何を探してんだ?」


「簡単に見つかるものじゃないですよ」


 リーナとオズに関しては、剣姫の力添えがあれば問題はないだろう。

 ウィルさんの安否確認も、ヴァルターさんが教官を務める王都冒険者ギルドで調べれば何とかなる可能性が高い。それで確認できないなら、黒都カーンゴルムまで足を運ばなきゃいけないが、さすがに今回その余裕はない、かな。


 とはいえだ。

 この2つについては目処がついている。

 後回しでもいい。


 問題はシアの視力を取り戻す方法なんだよ。

 神技にも近いその方法を簡単に見つけられるわけがないからな。


 どう考えても、苦労する未来しか見えない。


「そう聞くと、俄然やる気が出ちまうなぁ」


「……」


 とりあえず、見つけ出すために俺ができることは。

 キュベルリアの大神殿の神官の奇跡に頼ってみる。

 最高級の魔法薬を手に入れる。

 それでも無理なら……。


 トトメリウス様から聞いた神薬の素材を集め、自ら神薬を調合する。

 これしかない。


 ただし。

 この素材ってのがまた、厄介極まりない代物なんだけど……。


「どうだい、兄さん?」


「……」


「使えるものは使った方がいいと思うぜ」


「そう、ですねぇ」


 ジンクの言う通り、か。

 俺の気持ちなんか、ここでは無視すべきだよなぁ……。


 ああ、そうすべきだ。


「では、近い内に連絡してもいいですか?」


「もちろん!」


「ところで、ジンクさん、しばらくはキュベルリアに?」


 あちこちと飛び回っている男だ。

 ずっとキュベルリアに留まっているとも限らない。


 力を借りるにしても、王都にいないんじゃあ話にならないからな。


「ああ、しばらくは店で料理作ってるよ」


「そうですか。では、また煉瓦と煙亭に伺います」


「おう、そん時は御馳走するぜ」


「いえ、代金は支払いますから」


「相変わらず、かってぇなぁ。兄さんとオレの仲なんだ、気にしなくていいんだぜ」


「そういうわけにはいきません。前回もご馳走になりましたし」


「そうかい、そうかい。まっ、とりあえず顔出してくれや」


「分かりました」


 2、3日王都を駆けずり回っても手掛かりひとつ見つからなかったら、煉瓦と煙亭にジンクを訪ねるとしよう。





****************************


<ヴァーンベック視点>




「よし、これからはこの宿が拠点だな」


「ヴァーン、ここでいいの?」


 シア……。


「ああ」


「高そうだけど?」


 目が見えないというのに、良く分かるな。

 旅の間も今も、シアには驚かされたばかりだ。


「大丈夫、大丈夫。ダブルヘッド討伐の報奨金がまだたっぷり残ってるからよ」


「でも……」


「気にすんなって」


 こんな状態のシアを安宿に泊まらせるなんて、できるわけないだろ。

 実際、持ち金にも余裕はある。

 問題なんかない。


「……」


「そんなことより、明日からは王都中を回るんだぜ。良い宿でゆっくり休んでくれりゃあ、それでいい」


「ヴァーン……ありがと」


「礼なんて要らねえって」


「……ありがと」


「だから、もうやめてくれ。旅の間中、シアはありがとうしか言ってねえんだからよ」


「ふふ、そうね」


「そうそう。シアは笑ってりゃいい。で、俺に任せておけばいいんだ」


「……」


「ほら、また笑顔が消えちまったぞ」


 今のシアが心から笑うのは無理がある。

 俺が無理をさせている。

 そんなことは分かっているさ。


 けど、だからといって、ずっと暗い気持ちでいてもしょうがないだろ。

 無理にでも笑って。

 まずは、それからだ。


「うん……うん、分かった!」


「よ―し、晩飯にしようぜ」





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