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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
532/701

第528話  到着


<ヴァルター視点>




「で、どうすんだ?」


「どうするとは?」


「このままずっと刺客の相手をすんのかってこった?」


「……」


 お嬢と共に黒都カーンゴルムを脱出しキュベルリアに帰還するまでは上手くいった。

 想像以上にスムーズに事を運ぶことができたんだ。

 ただ、そこからが……。


 どうにも、よろしくない。


「いつまでもこんなこと、意味ねえだろ」


 当初の計画では、レザンジュの正当後継者の証である玉璽をエリシティア様に引き渡し、その後は争いが落ち着くまで大人しく様子を見るつもりだった。


「埒が明かねえぞ」


「……やむを得ない状況だ。しばらくは我慢しろ」


「けっ! 明日も明後日も、その後もかよ」


「……」


 先代レザンジュ王の次女であるウィル様。

 今は亡き父王から娘であることを直接認められたとはいえ、それを知る者はほんの僅か。

 ならば、我らは後継者争いから距離を取り、傍観すれば良いだけ。

 国璽をエリシティア様に手渡し、そのまま白都を離れれば問題などないはずだった。


 だというのに、お嬢の素性が知られていたのだ。


 いや、違うか。

 おそらくは、ヒュッセだ。

 我らと共に黒都を出した侍従ヒュッセがエリシティア様に事を伝えたのだろう。


「……」


 エリシティア様が事実を知る現状。

 簒奪者アイスタージウスも同様ではないのか。


 厄介な状況になってしまった。

 お嬢が政争の外に出ることが難しくなってしまった。


 我らの思惑など関係ない。

 アイスタージウスの魔の手は、どこまでも伸びてくるだろう。


 こうなると、もうどうしようもない。

 国家権力に個人が抗う術などない。


 お嬢がエリシティア様の屋敷に留まる他に手はないのだ。




 そして今。

 ギリオンや他の騎士たちとともに、昼夜問わず屋敷の外で警備にあたっている。



「こっちから仕掛けらんねえのか?」


「上も、それを考えているはずだ」


 エリシティア様が受け身のままでいるとは思えない。

 早晩、何らかの行動に出る。

 今はその計画を立てている最中だろう。


「現状、我らは耐えるしかあるまい」


「ちっ」


「とりあえず、身体を休めておけよ」


「分かってらぁ」


 ギリオンとふたり、屋敷の裏にある休憩所の椅子に腰かける。

 数人の騎士たちも近くで休憩を取っているが、ここにいるのはふたりだけ。


「……」


「……」


 こうして待機していると戦闘で火照った体が冷えてくる。

 キュベルリアも、もうそんな季節か。


 ウィル様と再会し、黒都に向かって旅に出たあの日。

 あの時間を遥か昔のように感じてしまう。





「白都は長いのか?」


「いんや、最近出て来たばっかだ」


「それまではオルドウで?」


「ああ、そうだぜ」


 ギリオンがお嬢と同じ地に暮らしていたことは聞いている。


「オルドウも大変そうだな」


「ん? 何がだ?」


「テポレンでの騒動を知らないのか?」


「騒動?」


「ダブルヘッド討伐に続いて、ワディンとレザンジュ王軍の紛争があったらしいぞ」


「はあ、紛争だぁ?」


「ああ。激しい戦闘だったと聞いている」


「紛争に激しい戦闘……まさか、アルとシア! っ、話を聞かせてくれ!」


 ギリオンが焦った顔を?

 珍しい。


「……悪いが、詳しいことは知らないんだ」


「勝敗くらい分かんだろ。どっちが勝った?」


「ワディンだと聞いたな」


「そうか、ワディンか! なら……」


「気になることでも?」


「ん? ああ、まあ……ちっと知り合いがいるもんでな」


 ワディン、レザンジュ紛争に参戦した知人がいると?

 テポレン山にほど近いオルドウ出身なのだから、おかしなことでもない、か


「無事だといいな」


「ああ……」





****************************





「城門が見えてきたぜ」


 グラスブルを出発した乗合馬車が白都キュベルリアに着くのは夕刻の予定。

 もちろん、何のトラブルもなければの話だが……。


「今回は賊も出なかったし、楽な旅だったなぁ」


 幸いなことに、今回は盗賊に襲われることもなく無事キュベルリアに到着できそうだ。

 前回のウィルさんとの王都行とは大違いだな。


「そう思うだろ?」


「……」


 ただ、ひとつ。

 前回と同じ状況がたったひとつだけ。


「兄さん、なに黙ってんだ?」


 どういうわけか、またこの男と同じ馬車に乗ってしまったんだ。


「……疲れたんですよ。こっちはジンクさんほど体力ありませんので」


「冗談キツイぜ、兄さん! あんたのことは、前回でよーく分かってんだぜ」


「……」


 王都の料理人であり冒険者でもあるジンク。

 前回の旅で知り合い、協力して盗賊の襲撃を防ぎ、王都まで同行した奇妙な男。

 そのジンクと今回も同じ馬車に乗り合わすなんて、どんな確率だ。


「それと、さんは止めてくれよな。兄さんとオレの仲なんだからよぉ」


「分かりましたよ、ジンクさん」


「だから、照れるなって」


「……」


 今回、俺に許された時間は20日程度。

 それを過ぎると、セレス様率いるワディン軍の領都進攻作戦に遅れる可能性が高いだろう。


 20日という時間だけ見ると余裕に思える今回の王都滞在。

 実際は、そう甘いものじゃない。

 解決すべき問題の難しさを考えると余裕なんて持てたもんじゃない。


 第一に、シアの視力を取り戻すための方法を見つけ出すこと。

 次に、夕連亭ベリルさんからの依頼。ウィルさんの安否を確認すること。

 最後は、リーナとオズ。剣姫に会ってふたりのもとに案内してもらおうと思っている。


 やはり、余裕なんてない。


「おっ、到着するぜ」


「……」


 悪いが、ジンクと遊んでいる暇なんて、これっぽっちもないんだよ。







 第10章  完





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― 新着の感想 ―
[良い点]  こ、ここで第十章が完結ですか! 色んな方面が大変なことになってますね……
[一言] 第10章完結おめでとうございます! 相変わらずコーキさん、やることいっぱい(^▽^;)
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