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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
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第527話  現在地


<ヴァーンベック視点>




「わたし、邪魔かな」


 シアっ!


「何言ってんだ!」


「でも……」


 視力を失ったあの日。

 シアが初めて見せた弱気な姿。


 あれ以降見せることがなかった、その姿を今また……。


 そうだよな。

 平気なわけないよな。


 これまでずっと平気な顔を見せていたけれど、そんなわけないんだ。


「……」


 ディアナの裏切りと、自死。

 視力の喪失。

 セレス様との別れ。


 そして、毎日の不自由な生活。


 こんな経験をしながら、俺の前ではいつも笑顔でいてくれたけど。


「わたしなんて、いない方がいいでしょ」


 なっ!


「バカ言ってんじゃねえぞ!」


 シアにそんなこと言わせた自分に腹が立つ。


「俺はお前と離れる気なんて、これっぽっちもねえよ」


「……夢があるのに?」


「シアも夢も諦める気はねえ!」


「……」


「安心して側にいりゃいいんだ! シアの目は絶対治してやる! 夢だって叶えてやる!」


「……」


「だからな」


 今はシアのことだけを考える時。


「お前が平気だってんなら、白都でも黒都でも」


 正直、無理はさせたくない。

 けど、それがシアの望みなら。


「天でも地でも、どこでも一緒に行ってやらぁ!」


「ヴァーン……」


 地獄でも付き合ってやるぜ。


「……ありがと」


「礼なんて要らねえ」


「……ごめん」


 悪いのは、こっちだ。

 シアのことちゃんと見てなかったんだからよ。

 いや、見ようとしなかっただけか。


 ちっ!

 カッコわりいぜ。


「ごめん、ヴァーン」


「シアは悪かねえよ」


「そんなことない。わたし、ヴァーンの気持ち分かってたのに、こんなこと……」


「……」


「試すようなこと言って、ごめんなさい」


「……気にすんな」


「ヴァーン?」


「気持ちを確認したくなんのはあたりめえだ! 誰だってな、同じなんだよ。だから、気にすんな」


「……」


 こんな状況なのに、不安にさせた俺に問題があるんだ。

 シアは何も悪くねえ。


「ほら、出発すんだろ。いつまでも、しけた顔すんじゃねえぞ」


「……いいの?」


「シアが平気ならな」


 俺が傍にいりゃいい。

 それでいいなら、問題なんてねえ。


「……うん」


 それに、視力の回復は早い方がいいに決まってる。


「さっさと王都に行って、視力戻そうぜ」


「うん、うん!」


「セレス様とコーキには、書き置きでも残しゃいいか」


「うん、手紙書かないと」


「書いたら、キュベルリアに出発だな」





****************************


<セレスティーヌ視点>




「セレスティーヌ様、御決断を」


 テポレン山の地下広場。

 ワディン騎士とエンノアの民が集まったこの広場で、決断を迫られている私。


 傍にいるのはユーフィリアとアルだけ。

 ディアナはもちろん、シアもヴァーンさんもいない。

 そして、コーキさんも……。


 ワディナートを脱出して、オルドウに落ち延びて以降、ずっと支えてくれた皆がいない。


「……」


 これは私が選んだこと。

 シアとヴァーンさんが視力回復を目指して旅立つと告げてきた時も、コーキさんがあちらの世界への一時帰還を口にした時も。

 私が了解したんだ。


 それは分かっている。

 分かっているし、正しいことをしたとも思っている。


 それでも、気持ちは……。

 思うようには扱えない。

 抑えられない。


 私は神娘なのに。

 ワディンの代表でもあるのに。


 こんな状態で、重大な決定を下してもいいのだろうか?



「セレスティーヌ様」


「セレス様」


「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」


 ユーフィリアとアルが心配そうに見つめている。

 騎士やエンノアの民も。


 皆が私の言葉を待っている。

 私に運命をゆだねている。


「……」


 そうね。

 そうなんだわ。


 私は私。

 迷っている場合じゃない。


 だから今は。

 せめてこの場では、公人としての立場をわきまえて。

 決断を。

 今の私にできる最善の決断を下すべき。


「……ワディナートに向かいましょう」





****************************


<ギリオン視点>




「ちっ! キリがねえぜ」


「この状況だ。愚痴を言ってもしょうがないぞ」


「分かってっけどよぉ、愚痴くらい言いたくなるってもんだろ」


 ただでさえレザンジュからの刺客が多かったってえのに、玉璽を持った幻影がやって来てからというもの、ひっきりねえじゃねえか。


 剣士の刺客だけじゃねえ。

 魔法使いに、魔道具使い。

 正体不明の奴らまでやって来る。


 そんな客、招いた覚えはねえってんだ。


「ギリオン、喋ってないで手を動かせ。すぐに、新手が来るぞ」


 またかよ。

 これで、今日は何人目だ?


 っとに、やってらんねえぜ。


「こんな奴ら、あんた1人で十分だろ」


 俺の手なんか必要ねえ。

 幻影ヴァルターの実力がありゃ、軽いもんだ。


「ということは、おまえ1人でもやれるな」


「……」


「エリシティア様のためだ。しっかり働け」


「あんたはエリシティアのためじゃねえだろうがよ」


「ああ、こっちはウィル様のためだな」


 オレはレザンジュ王女エリシティアのため。

 ヴァルターはウィルのため。


 お互いの利益が一致している共闘状態。

 つっても、面倒なことに変わりはねえ。


 こんなこと毎日やってられっかよ。





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― 新着の感想 ―
[良い点]  ヴァーン、よく言った!  今回は男性陣の頑張りが光りますね! ギリオンは面倒くさそうですが(笑)
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