第527話 現在地
<ヴァーンベック視点>
「わたし、邪魔かな」
シアっ!
「何言ってんだ!」
「でも……」
視力を失ったあの日。
シアが初めて見せた弱気な姿。
あれ以降見せることがなかった、その姿を今また……。
そうだよな。
平気なわけないよな。
これまでずっと平気な顔を見せていたけれど、そんなわけないんだ。
「……」
ディアナの裏切りと、自死。
視力の喪失。
セレス様との別れ。
そして、毎日の不自由な生活。
こんな経験をしながら、俺の前ではいつも笑顔でいてくれたけど。
「わたしなんて、いない方がいいでしょ」
なっ!
「バカ言ってんじゃねえぞ!」
シアにそんなこと言わせた自分に腹が立つ。
「俺はお前と離れる気なんて、これっぽっちもねえよ」
「……夢があるのに?」
「シアも夢も諦める気はねえ!」
「……」
「安心して側にいりゃいいんだ! シアの目は絶対治してやる! 夢だって叶えてやる!」
「……」
「だからな」
今はシアのことだけを考える時。
「お前が平気だってんなら、白都でも黒都でも」
正直、無理はさせたくない。
けど、それがシアの望みなら。
「天でも地でも、どこでも一緒に行ってやらぁ!」
「ヴァーン……」
地獄でも付き合ってやるぜ。
「……ありがと」
「礼なんて要らねえ」
「……ごめん」
悪いのは、こっちだ。
シアのことちゃんと見てなかったんだからよ。
いや、見ようとしなかっただけか。
ちっ!
カッコわりいぜ。
「ごめん、ヴァーン」
「シアは悪かねえよ」
「そんなことない。わたし、ヴァーンの気持ち分かってたのに、こんなこと……」
「……」
「試すようなこと言って、ごめんなさい」
「……気にすんな」
「ヴァーン?」
「気持ちを確認したくなんのはあたりめえだ! 誰だってな、同じなんだよ。だから、気にすんな」
「……」
こんな状況なのに、不安にさせた俺に問題があるんだ。
シアは何も悪くねえ。
「ほら、出発すんだろ。いつまでも、しけた顔すんじゃねえぞ」
「……いいの?」
「シアが平気ならな」
俺が傍にいりゃいい。
それでいいなら、問題なんてねえ。
「……うん」
それに、視力の回復は早い方がいいに決まってる。
「さっさと王都に行って、視力戻そうぜ」
「うん、うん!」
「セレス様とコーキには、書き置きでも残しゃいいか」
「うん、手紙書かないと」
「書いたら、キュベルリアに出発だな」
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<セレスティーヌ視点>
「セレスティーヌ様、御決断を」
テポレン山の地下広場。
ワディン騎士とエンノアの民が集まったこの広場で、決断を迫られている私。
傍にいるのはユーフィリアとアルだけ。
ディアナはもちろん、シアもヴァーンさんもいない。
そして、コーキさんも……。
ワディナートを脱出して、オルドウに落ち延びて以降、ずっと支えてくれた皆がいない。
「……」
これは私が選んだこと。
シアとヴァーンさんが視力回復を目指して旅立つと告げてきた時も、コーキさんがあちらの世界への一時帰還を口にした時も。
私が了解したんだ。
それは分かっている。
分かっているし、正しいことをしたとも思っている。
それでも、気持ちは……。
思うようには扱えない。
抑えられない。
私は神娘なのに。
ワディンの代表でもあるのに。
こんな状態で、重大な決定を下してもいいのだろうか?
「セレスティーヌ様」
「セレス様」
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
ユーフィリアとアルが心配そうに見つめている。
騎士やエンノアの民も。
皆が私の言葉を待っている。
私に運命をゆだねている。
「……」
そうね。
そうなんだわ。
私は私。
迷っている場合じゃない。
だから今は。
せめてこの場では、公人としての立場をわきまえて。
決断を。
今の私にできる最善の決断を下すべき。
「……ワディナートに向かいましょう」
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<ギリオン視点>
「ちっ! キリがねえぜ」
「この状況だ。愚痴を言ってもしょうがないぞ」
「分かってっけどよぉ、愚痴くらい言いたくなるってもんだろ」
ただでさえレザンジュからの刺客が多かったってえのに、玉璽を持った幻影がやって来てからというもの、ひっきりねえじゃねえか。
剣士の刺客だけじゃねえ。
魔法使いに、魔道具使い。
正体不明の奴らまでやって来る。
そんな客、招いた覚えはねえってんだ。
「ギリオン、喋ってないで手を動かせ。すぐに、新手が来るぞ」
またかよ。
これで、今日は何人目だ?
っとに、やってらんねえぜ。
「こんな奴ら、あんた1人で十分だろ」
俺の手なんか必要ねえ。
幻影ヴァルターの実力がありゃ、軽いもんだ。
「ということは、おまえ1人でもやれるな」
「……」
「エリシティア様のためだ。しっかり働け」
「あんたはエリシティアのためじゃねえだろうがよ」
「ああ、こっちはウィル様のためだな」
オレはレザンジュ王女エリシティアのため。
ヴァルターはウィルのため。
お互いの利益が一致している共闘状態。
つっても、面倒なことに変わりはねえ。
こんなこと毎日やってられっかよ。





