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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
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第521話  変貌




 位相空間に皆を閉じ込めたのは、あの空間異能者。

 俺を過去へと送ったのも彼だ。


 だというのに……。


 どういうわけか、そんな彼を放置して吾妻にかかりっきりになっていた。

 吾妻とは戦闘状態に陥っていたのだから、やむを得ない部分は確かにあるだろう。


 それでも、空間異能者にまったく手を出さないというのは?

 俺だけじゃない、武上も古野白さんもだ。

 なぜ、あいつを先に倒そうとしなかった?


 成否は別にして、そうする時間はこれまでにもあったはず。

 機会があっても、それに着手せず疑問にすら思わない。


「……」


 皆が一様に空間異能者のことを軽視していた。


 どうなっている?

 何かが起こっているのか?


「有馬君?」


「どうかしたかよ?」


「……奇妙だと思わないか?」


「何がだ?」


「それは……」


 この違和感をどう説明したらいい?

 ふたりが空間異能者を軽視していたのはおかしいと話せばいいのか?


「有馬君、どうしたの? 何か問題でもあるの?」


 問題というか、ちょっとした違和感なんだ。

 簡単に説明できるもんじゃない。


 ただ、それを……っ!?


 これは?

 この気配は?


「……」


 間違いない。

 あいつが現れる!


「有馬?」


「くるぞ!」


「また現れんのか?」


「ああ」


 次は……そこか!


「って、どこだよ?」


 駆け出した俺の後ろからついて来る武上。


「あそこだ」


 俺の指さした前方に、吾妻を背負った空間異能者が現れた!


「ちっ、遠いじゃねえか」


 今回はこれまでと異なり、50メートル以上は離れているだろう。

 かなり距離がある。


「あんなとこに現れて、あいつ、どうする気だ?」


 分からない。

 が、何か企んでいるのなら、その前に叩きつぶすだけ。


「先に行くぞ」


 並走する武上の走力は大したもの。

 ただし、今は一緒に走る余裕はない。


「おまっ、ちょっと待てって」


 一気に加速して、空間異能者のもとへ。

 残る距離は20メートル。

 空間異能者は動かない。


 あと10メートル。

 まだ動かない。


 あいつ、何を考えている?

 ここで、また消えるつもりか?


 なら、その前に一撃を!


 5メートル。

 次の一歩で間合いに入る。


 よし!


「!?」


 気が変わった?

 冴え冴えと重みを増した大気が俺の前に!


 そして……。


 質感を持った空気が体に纏わりつき。


「……」


 動きを止められてしまった。


「どうした、有馬?」


 何がどうなっているのか理解できない。

 ただ、それでも、前に進めないことだけは確か。

 すぐ目の前にあいつがいるのに、近づくことができないんだ。


 障壁?

 結界?


 俺の知るそれらとも違う。


 物理的な壁があるわけじゃない。

 透明な結界でもない。

 精神的な障壁でもない。


 腕は前に出せるし、脚も前方に運べる。

 それなのに、体全体では前に進めない。

 纏わりつく空気が弾力をもって体を押し留めてくる。


「なんで止まってんだ?」


 背後から問いかけてくるのは、俺に追いついた武上。


「何かに阻まれている」


「結界か?」


「……分からない」


「何だそれ?」


 訝しげな顔で武上が前に出るも、やはり食い止められてしまう。


「……気持ちわりいな」


「ああ」


 不思議な弾力をもつ透明な空間。

 これも空間異能者の能力なのだろうか?

 今も余裕の表情で立っているのは、この力があるからなのか?


「空間異能以外にこんなこともできるたぁ、あいつダブルかよ」


 ダブル?

 鑑定では空間異能だけしか認識できないけれど、隠された力を持っていると?


「どうする? 迂回すっか?」


「迂回しても、またこれを使われるだけだろうな」


「じゃあ、このまま待つってか」


 待っても意味がない。

 あいつが何かを仕掛けてくる可能性も高いんだ。

 それなら。


「正面から突破しよう」


「できんのかよ?」


「……試すだけだ」


「そうか、おめえは武志の結界も破ったんだよな」


 あの時と同じ結果が得られるとは限らない。

 が、やる価値はある。


 謎空間の前に両の手のひらをかざし、魔力を集め、集め……。

 凝集させた魔力を一挙に解放!

 その腕で空間を叩き斬る!


 パシィーーーン!


 奇妙な振動にも似た音が耳朶を打つ。


「なにっ!?」


 前方の空間異能者は驚愕に染まっている。

 ということは、成功?


「よっしゃー! 行けるぞ!」


 武上の言う通り。

 体を前に運んでも抵抗を感じない。

 謎の弾力を排除できたんだ。


「くっ!」


 顔を歪める空間異能者に向かって、俺と武上が足を進める。

 そんな俺たちを前にしても、あいつは姿を消さない。


 異能はもう使えないってことか?

 使えないなら、ここで終わりだぞ!


 武上と揃って振り上げた拳。

 そいつを叩きつけようと最後の一歩を踏み出した刹那。


「ががが、ガガァァァァァ!!」


 空間異能者の全身から、これまでにない闘気が?


「ちっ!」


 真正面から闘気を受け、武上がたたらを踏む。


「……」


 俺に大した影響はないものの、思わず拳が止まってしまった。


「アアァァァァ!」


「こいつぁ、何なんだ?」


「……」


 空間異能者の闘気の迸りが止まらない。

 獣の咆哮にも似た叫びとともに、次から次へと溢れ出てくる。

 とんでもない量だ。


 しかし、この闘気。

 覚えがあるような……。


「アァァァァ」


「ァァァァ……」


「……」


 咆哮がおさまり、ようやく終わりを告げる闘気の噴出。

 ただ、そのあとには。


「野郎、姿が変わってんじゃねえか」


「……」


 黒々としていた髪が銀白に、瞳は深紅へと変貌を遂げていた。





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― 新着の感想 ―
[良い点]  なんと!  まだまだ先が見通せませんね!
[一言] ここでまさかあの……!?
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