表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
524/701

第520話  軽視


<古野白楓季視点>




 空間異能者がいない。

 完全に姿を消している。


 つまり。


「有馬君、転移を使われるわ」


 吾妻と共に距離を取られてしまう。

 場合によっては、また元の世界に逃げ帰る可能性も。


 そんなこと、させない!


「その前に仕留めるのよ!」


「……」


「有馬には聞こえてねえぞ」


 そうだった。


 私が焦ってどうするの。

 もっと冷静にならないと。


「……武上君、転移に備えて」


「ん? さっきのは転移なのか?」


「多分、その類でしょ。それより、今は!」


「おう」


 武上君が吾妻の後ろに回り込んでいく。

 私の炎弾の準備もできている。


 そして、有馬君は。

 片膝をついた吾妻に手刀を放った!


 吾妻の首元に吸い寄せられるように伸びる手刀。

 微かな音だけを空間に響かせ……。


「っ!」


 吾妻がついに。

 ついに、地に墜ちた!


「……」


 それなのに、空間異能者は消えたまま。

 吾妻の前に姿を見せない。


 まさか、見捨てて逃げたの?

 自分ひとりだけで?


 空間異能者の不可解な行動に、つい考え込んでしまう。



「やったぞ、有馬ぁ!」


 そんな私とは違い、武上君は喜びを爆発させている。

 有馬君のもとに駆け寄って、何度も肩を叩いている。


「倒したぞぉ!」


「……吾妻はな」


「んん? オレの声、聞こえんのか?」


「ああ」


「五感が戻ったんだな?」


「ああ」


「そいつぁ、最高だ。完璧だ!」


 早い。

 もう回復するなんて、さすが有馬君。

 普通じゃないわ。


「怖いものなしだぜ」


「分かったから、肩を叩くなって」


「いいじゃねえかよぉ。こんなの、お前が痛いわけねえだろ」


「いや、普通に痛いからな」


「よく言うぜ」


「ほんとに痛いんだよ」


 有馬君の言葉は軽やかで明るいものだけれど、眼光は鋭いまま。

 空間異能者を警戒している目つきだ。


 もちろん、私も集中を切らしていない。

 炎弾も発動手前で待機状態を保っている。


 武上君はというと……。

 かなり緩んでいるわね。


「それに、終わったとは限らないんだぞ、武上」


「……空間異能者かよ?」


「そうだ」


「吾妻を助けられなかったんだぜ。今さらじゃねえのか?」


「かもしれないが、油断はできない」


「油断ねぇ……。あいつはもう逃げたと思うけどな」


 確かに、逃げた可能性もある。

 けれど。


「倒れた吾妻と一緒に元の世界に戻ろうとするかもしれないでしょ」


「吾妻を縛ってオレたちの傍で拘束すればいいだけだろ」


「縛るものがないわ」


「だったら、オレがずっとついててやるよ」


 今はそれしかない、か。


「武上、これを使ってくれ」


 えっ?

 有馬君、ロープを持ってたの?


「おいおい、縄なんか持ってたのかよ」


「ああ。ここに戻って来る前に準備しておいた」


「有馬は用意がいいぜ」


 ほんと、有馬君は……。


「はやく縛った方がいいぞ」


「おう、了解だ」


 吾妻を縄で拘束しておけば、どうとでも対処できるはず。

 そのまま空間異能者を捕らえることも……。


 そうよ。

 吾妻を助けるために空間異能者が姿を現せば、そこで決着がつく。

 長かった戦いも、ようやく終わりを迎えることができる。


 姿を現さなかった場合は……。

 それはそれで、またひとつの決着かな。


 武上君の手に握られたロープが、吾妻の体に……!?


「っ!」


 空間異能者だ。

 彼が吾妻の後ろに現れた!


「させっかよ、この野郎!」


 ロープを投げ捨てた武上君が躊躇なく殴りかかる。

 有馬君も接近している。


 私は横に数歩ずれて異能経路を確保、そして。


「炎弾!」


 空間異能者に向けて発射。

 武上君、有馬君、私の攻撃が一斉に放たれた!


 それなのに。


「……」


 また消えてしまった。


「くそっ!」


 逃げられてしまった。

 空間異能者だけじゃなく、意識を失っていた吾妻にまで。


 分かっていたのに。

 警戒していたのに。


「……」


「……」


「まだだ! まだ、ふたりともこの中にいる」


 えっ?

 現実世界に戻ったんじゃ?


「ホントか?」


「ああ」


 ふたりの姿は消えているのに、どうして分かるの?


「そこだ!」


 駆け出した有馬君の先。

 空間が裂け、ふたりが!





*************************





 独特の空気の流れ、空間の歪み。

 間違いない。

 あの空間異能者だ。


 登場する地点を見極め、突進。

 勢いのままに攻撃を仕掛けてやる。


 が……。


「ちっ、また消えたぞ!」


「嘘でしょ」


 現れた次の瞬間に消えるなんて芸当を。


「こんなことまで……」


 空間能力の連続使用が可能。

 だとすると、厄介なことになる。


「今度こそ、逃げちまったんじゃねえのか?」


「……分からないな」


 今はまだ、はっきりと気配を掴めないんだよ。


 ただ、おそらくは……ここにいる。

 そう思えてしまう。



「……」


 あの空間異能者。

 これまでの言動や力関係からか、軽視してしまった。

 なぜか、そうしてしまった。


 今回の件の鍵を握っている人物なんだぞ。

 どうして軽く見ていたんだ?


 先に倒すべき敵なのに?


「……」


 おかしい。

 何かがおかしい。


 それに、あいつの名前は?


「……」


 いったい、どういうことなんだ?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ここをクリックして、異世界に行こう!! 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[良い点]  吾妻にしろこの空間異能者にしろ、厄介な敵がたくさんいますね…… [一言] 更新ありがとうございます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ