表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
521/701

第517話  解除


<古野白楓季視点>




「……five senses!!」


「功己ぃ!」


「有馬君!」


 吾妻の詠唱完了に、幸奈さんと私が叫んでしまう。

 けど……。


 有馬君は間に合わなかった。

 吾妻の異能をまともに受けてしまった。


 あと少しだったのに!


「ちっ、何してんだ、有馬はよぉ」


 渋い表情で吐き捨てる武上君。

 その気持ちは、よく分かる。

 でも、今回は想定外のことが起こったのよ。


 空間異能者が、あんなことできるなんて……。



「で、古野白は平気か?」


「えっ?」


「五感は問題ねえのか?」


 そうだった!


 結界に守られていたとはいえ、吾妻の異能が有効範囲内で発動したのだから、五感に異常をきたしても不思議じゃない。

 もちろん、五感を失っても結界の中にいれば安全に回復できるという計算のもとで、私たちはここに隠れたのだけれど……。


「どうなんだ?」


「……少し目がかすんで、手足の感覚もちょっとおかしいわね」


 ただし、言われて初めて気付く程度のもの。


「でも、これなら問題なく動けると思う」


「そうか、オレもだ」


 武上君も同じ。

 だったら。


「幸奈さん、武志君は?」


「わたしは平気です」


「変な感じはするけど、僕も大丈夫です」


 4人ともに問題なし。

 つまり、武志君の結界が吾妻の異能を防いだってこと。


 これは嬉しい誤算だ。


「武志の結界は凄えな」


「でも、兄さんが!」


「そうよ! 功己が五感を失って、ひとりで!」


「……」


「……」


 もちろん、分かっている。

 だからといって、どうすれば?

 結界を解除して私たちが外に出る?


 ただ、そうすると結界を再構築するまで時間がかかる。

 吾妻が異能を連続で発動した時の保障がなくなってしまう。


「古野白、出るぞ!」


「……全滅の可能性があるわよ」


「やる前から、何言ってる!」


「戦う前だから言えるんでしょ」


「ちっ! 全滅の危険なんてなぁ、いつでもあんだ!」


「……」


「オレたちを助けに来た有馬を見捨てろってか」


「それは……」


 結界の外では、有馬君が呆然と立ち尽くしている。

 吾妻が近づこうとしている。


「大丈夫だ! オレたちと有馬がいりゃ、何とかなる!」


「古野白さん!」


「……」


 ここで出ることが最善だとは思えない。

 最善なのは……。


「古野白ぉ!」


 武上君、そんな顔やめて。

 私は冷静でいなくちゃだめなの。


 私は……。


 それでも、今は……。


 はぁぁ。


「……分かったわよ」


「よし、消すんだ、武志!」


「はい! 結界解除!」


 一声で結界が消失。

 と同時に武上君が走り出す。


「武志君、時間はかかるだろうけど、結界再構築の準備をお願い」


「了解です」


 後ろはこうするしかない。

 あとは、っと!


「幸奈さん、待って!」


 駆け出そうとする幸奈さんの腕を押さえ。


「私と武上君で何とかするから」


「でも」


「幸奈さんは、もしもの時よ。その時は頼むわね」


「……」


「頼りにしてるわよ」


「……はい」


 これでいい。

 さあ、私も腹をくくって戦うわよ。


 って、吾妻が有馬君に!


「武上君!」


「任せろ!」


 武上君より吾妻の方が早い。

 一撃もらってしまう!


「なっ!?」


「えっ!?」


「はぁ!!」


「……」


 嘘でしょ!


 有馬君が吾妻の一撃を躱したの?


「おまえ、見えてんのかよ、有馬ぁ!」


 簡単に避けてしまった。

 まるで目が見えているように、軽快なステップで!


「おい、有馬!」


「……」


 でも、武上君の問いかけには反応しない。


「有馬君、見えてるの?」


「……」


「私の声、聞こえてる?」


「……」


 やっぱり、聞こえてない。

 目も、多分見えていない。


 だとしたら、さっきのは偶然?


「あっ!」


 吾妻が再び攻撃を!


「武上君!」


 助けに入って!


「必要ねえみたいだぜ」


「……」


 私たちの目の前で繰り広げられたのは。


「なっ」


「……」


 驚愕の光景。

 吾妻が放つ腕を足を手を、すべて軽々と躱し続けていく有馬君。


「……信じられない」


「ホント、どうなってんだ、あいつ?」





*************************





 吾妻の詠唱の終了と共に襲ってくる未知の感覚。

 背骨に沿って這い上がる不快な冷気のようなものを感じた時には、既に視界は閉ざされ、目の前には暗闇が広がっていた。


 さらに、音も消え、匂いも消え。

 足の裏に感じていた地面すらおぼつかないものに。


「……」


 何も見えず、聞こえず、感じず。

 自分が立っているのか倒れているのか?

 それさえ分からない。


 ただ、1歩前に足を踏み出してみると、足裏には何の感触もないのに足が止まってしまう。

 つまり、足下には地面があるということなのだろう。


「……」


 確かに存在しているのに、肉体としての存在をまったく実感できない。

 外界から完全に切り離され、精神だけが虚無の空間に漂っているかのように感じてしまう。


 これが五感喪失か。

 話に聞いていた通り、恐ろしいものだな。


「……」


 人の自我とは他者との比較によって形成、確立される。

 よく耳にする一般論だが、それは内面的で精神的なものに限られると思っていた。


 はは。


 どうやら、考え違いをしていたようだ。


 肉体も他の何らかの存在を必要としているじゃないか。

 何かを見て触れて感じてこそ、自分の身体を感じ取ることができる。

 肉体が実在していると知ることができる。


 裏を返せば。

 もし他の物体を知覚できないなら、己の肉体としての存在も実感できない。

 存在を確信できないんだよ。


 それが、今の俺。

 すなわち、五感喪失の状態。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ここをクリックして、異世界に行こう!! 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[良い点]  むむむ……なのに何故かわせたのかは次回に続くというやつですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ