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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
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第515話  異常



 過去世界とこの空間の往来に4時間の遡行。

 正直なところ、全てが上手くいくかどうかはあやしいものだった。

 これが最も確度の高い選択だったとしても、成功するかどうかは賭けだったのだから。


 けど、俺は賭けに勝った。

 みんなを助けることができたんだ!



「有馬君、戻って来れたのね」


 古野白さん……。

 何も問題はないのか?

 大きな怪我なんて、負ってないよな。


「有馬ぁ、遅えぞ」


 武上は……元気なもの。

 負傷しているようには見えない。


「兄さん!」


 武志も怪我はない、か?


「功己!」


 幸奈が無事に!


「……」


 間に合ってよかった!


「助けに来てくれて、ありがと、功己」


「ああ……。幸奈、怪我はないか? みんなも外傷や内傷は?」


「わたしは全然平気」


「オレたちも問題ねえぞ」


「私たちは丸一日ここで休んでいただけだから、体に異常なんてないわ。有馬君の方こそ大丈夫? 外で何かあったんじゃないの?」


「いえ……」


 丸一日休んでいた?

 ということは、吾妻は現れていないんだな。


「もう22時間も経ってんだぜ。外で壬生の連中とやりあってたのかよ」


「そういうわけじゃない」


「なら、何してたんだ?」


「……この空間に戻るのに手間取ってな」


 過去世界を訪れていたという事実。

 今は話さない方がいいだろう。


「手間取った?」


「ああ」


「昨日は、すぐにやって来たじゃねえか」


「……」


「そもそも、どうして兄さんはこの空間に入って来れるんだ?」


 魔力で探知して、流れを辿って……。

 なんて説明はできるわけもない。


「異能者の創り出した空間に侵入するって、至難の業だろ」


 まあな。


 ただ、ここは異能者が創り出した空間じゃないぞ。

 武志たちは、元から存在する位相空間に連れて来られたんだ。


「有馬、どうやった?」


「……たまたま、かな」


「なわけねえだろうが」


「そうだよ、兄さん」


「……」


 明らかにおかしいよな。

 異能者でもない俺が位相空間に二度も入って来たのだから。


 とはいえ、これは喋れることじゃないんだ。

 ただでさえ露見の点滅が大変なことになっている現状、これ以上は避けないと。



「武上君、武志、功己にも話せないことがあるのよ」


「侵入方法を話せないって、おかしいだろ。姉さんは不思議に思わないのか?」


「わたしは……」


 俺の能力を知っている幸奈にとっては、それほど不思議なことでもない。

 ただ、だからといって……。


「有馬が普通じゃねえのは分かってっけどよ、さすがにこれは異常だぜ」


「そう、そう」


「……」


「ふたり共、もういいでしょ。有馬君は私たちを助けに来てくれたのよ。話したくないことを無理やり聞くなんて失礼なことやめなさい」


「でもよぉ」


「でもじゃない! 有馬君は普通人。素手で異能者を圧倒するし、異空間に出入りもできる。ほんと、超常の力を持っているけど、ただの普通人。本人がそう言ってるのだから、普通人なのよ」


「それ、無理があんだろ……」


「いいえ、有馬君は異常な普通人なの」


「……」


 いや、まあ……。

 庇ってくれてるんだよな、古野白さん?


「納得しなさい」


「……」

「……」


「それに、今は質問攻めしてる場合じゃないわ。吾妻たちの来襲に備えないと駄目でしょ」


「……だな」


 そう。

 問題はこれから。

 4人が倒されていたあの惨事を回避することが何より重要なんだ。


 ただし厄介なのは、この後に何が起こるのかは分かっていないということ。

 恐らく、吾妻との戦いになるとは思うが。


 吾妻か……。


 前回、俺が駆けつけた時、この空間に存在していたのは4人だけだった。

 吾妻も他の異能者の姿もなかった。


 そんな中、幸奈が意識朦朧としながらも伝えてくれた言葉。


『あい、つ……バケ、モ……が……』


 このバケモノという一語が、どうしても引っかかってしまう。


 実際のところ、吾妻は強力な異能持ちではある。

 それでも、吾妻との対戦経験があり、あいつの力をよく知る武上と古野白さんが簡単にやられるとは思えないんだ。


 なら、切り札でも隠し持っていたと?

 それとも……。



「ところでよぉ、食べ物か飲み物持ってねえか?」


 ん?


「こっちは20時間以上、腹にまともな物いれてねえんだ。有馬なら、何か持ってんだろ?」


 ずっと位相空間に閉じ込められていた4人。

 空腹なのも当然か。


「こんなものでいいなら」


 鞄から出すと見せかけてアイテム収納から携帯食と水を取り出すと。


「おお! さすがだぜ」


「ありがと、功己」


「いや……」


 気が回らなくて悪かった。

 大したものじゃないけど、遠慮なく食べてくれ。





「兄さんのおかげで生き返ったよ」


「ほんと、有馬君のおかげで助かったわ」


「体力もバッチリ。作戦も完璧。何の問題もねえ。あとは、奴らが現れんのを待つだけってな」


 携帯食と水を補給した後。

 対吾妻の作戦を立て終えた皆の顔には余裕が見える。

 さっきまでとは大違いだ。


 この姿を見ていると、前回はエネルギー不足のせいで敗れたのではと思えてくるな。


「そろそろ吾妻たちが姿を現す頃ね」


「おう、今度こそ倒してやろうぜ。まっ、有馬もいることだし楽勝だろ」


「異常な普通人が味方だからって、油断しないで!」


「おいおい、お前が一番根に持ってんじゃねえか」


「そんなことないわ。ただ、私は有馬君の異常性をよーく知っているだけよ」


 古野白さん……。


「そうかよ、って……おいでなすったぜ」


「ええ」


 数メートル先の空間が歪んで見える!


「武志君、幸奈さんは一度下がって、それでもしもの場合はお願い」


「「はい!」」


「私たちは、最初は待機。武上君、分かってるわよね」


「ああ、最初だけ有馬に譲ってやるよ」


 まずは俺が吾妻と戦う。

 何が起こるか分からない今回の戦いでは、それが4人を守る最善手だろう。


「有馬君、いいかしら」


「もちろんです」


「現れたぞ!」


 空間の歪みが消え、吾妻と空間異能者のふたりが姿を現した。


「!?」


「なっ、どうして?」


 俺を視認して、驚愕の表情を見せている。


「吾妻さん、退いてアレを!」


「ああ」


 一呼吸も置かず後ろに跳躍、後退していくふたり。


「有馬ぁ!」


「分かってる」


 逃すわけがない。

 こちらも、追走だ。


 っと!


「……The force is sense」


 さっそく使ってくるか。





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[良い点]  いきなり来た! 吾妻の詠唱!
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