第511話 終局
<古野白楓季視点>
高威力の炎弾が背中に命中したはずなのに?
炎は一瞬で消失し、吾妻は武上君から距離を取り。
そして……。
何事もなかったかのように、悠然と立っている!
「てめえ、効いてねえのか!」
「ふっ」
またあの表情。
余裕だと語っているよう……。
「ちっ! 理由は分からねえが、異能の炎は使えねえってことかよ」
「……」
これまで吾妻に放った炎弾は効いていた。
確かな効果があった。
だったら、どうして?
この24時間で何があったの?
「吾妻さん、遊びはもういいでしょ」
「……」
「あいつらからは、もう何も出てきませんって」
「……」
「決めちゃってください。外でもやることあるんですから、ね!」
「……そうだな」
空気が変わった?
吾妻が本気を出してくる!
それなのに、私の炎は効果がない。
シミュレーションしていなかった状況。
どうしたら?
「古野白ぉ、大丈夫だ! オレが何とかしてやらぁ」
「……」
「だいたいよぉ、こっちは、やるしかねえんだぞ」
「……ええ」
武上君の言う通り。
水も食料もない現状で長くここに留まることはできない。
だから、吾妻を倒すしか道はない。
「背中が効かねえなら正面から顔にぶちかましてやれ!」
そうだ!
顔や急所なら効くかもしれない。
「ってことで、いくぞ!」
「了解!」
武上君が吾妻に再突進。
私も吾妻の顔を狙えるように位置を変えて……。
「おらぁ!」
武上君の猛攻が始まった!
対する本気の吾妻は、後退?
武上君の一撃目だけを躱し、後ろに跳躍。
そのまま離れていく。
「逃げんじゃねえ!」
もちろん、武上君も追走を始めている。
強化した体で駆ける様は異常なほど。
異能なしで付いていける者などいない速さだ。
だというのに、吾妻との距離が縮まらない。
「このヤロウ!」
「……」
そんな速度に私の脚が敵うはずもなく、僅かの間に炎弾の射程距離以上の差を開けられてしまった。
しかし、吾妻のこの逃走ぶりは……。
「武上君、くるわ!」
「おう!」
「……The force is sense」
やっぱり!
あの詠唱が!
「The sense dominates Life……」
「させるかよぉ!」
私たちにとっては好機でもあり、危機でもある吾妻の詠唱。
「The sennse presides over Death……」
吾妻に近づけさえすれば!
「The sennse creates beyond infinite time……」
でも……。
「てめえ、いつまでも逃げやがってぇ!」
吾妻の脚に衰えは見えない。
近寄れない。
私はもちろん、武上君も間合いに入れない。
「No exception!」
「っ!」
これ以上は無謀だ。
「武上君、戻るわよ!」
「……ちっ!」
「武志君、準備は?」
「大丈夫です」
武志君と幸奈さんがいるのは、私たちのはるか後方。
武志君の準備ができていても、私たちが間に合わないと意味がない。
「Known to every……」
「急いで、武上君!」
既に駆け出した私に武上君は遅れている。
彼の速度でもギリギリ。
「Known to no……」
武志君まであと20メートル。
武上君はまだ後方。
「I am the flesh of senses……」
あと5メートル。
武上君はまだ私の後ろ!
さらに、その後方には吾妻が詠唱しながら迫っている。
「古野白さん、こっちに!」
よし、私は間に合った。
武上君は?
「……loss of five senses!」
詠唱完成と同時に武上君が飛び込んでくる!
「結界!」
そこに武志君の結界発動。
どうなの!?
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「これでお別れ、なんだ」
「……まだ、戻れると決まったわけじゃない」
「でも、上手く世界を渡ることができれば、功己さんはもう……」
「……」
「この世界に戻って来ることもないんですね」
ここに戻って来ることはない。
おそらくは、そうなるだろう。
ただ、俺が元の世界に戻れるということは、二界間の渡界法を身に付けたということ。
それなら……。
「もう二度と、功己さんに会うことができない」
「……」
「分かっていたけど……」
「これまで何度も考えたし、功己さんから話も聞いたし、理解してるけど、5年後に会えるけど、でも、でも……」
「……」
「功己さん!」
今にも溢れそうな涙を瞳に閉じ込めて、幸奈が俺の胸に飛び込んできた。
時間とれれば、明日も更新いたします。





