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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
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第509話  不審者



「待ってくれ!」


 後ろから声を掛ける俺に目もくれず疾走する有馬少年。

 もちろん、引き離されることはない。

 とはいえ……。


 15歳の俺が、年長者に対してこんな態度をとるのか?

 本当に?

 ちょっと信じられないぞ。


「……」


 やはり、目の前を走る有馬少年は5年前の俺じゃない。

 つまり、ここは単なる過去ではなく位相の世界。

 もう何度も感じているそれを、改めて痛感してしまう。




「っ!?」


 背後に俺の存在を確認した有馬少年。

 このままでは振り切れないと感じたのか、速度を上げてきたぞ。

 異常な速さだ。

 強化か?


 まっ、強化したところで結果は変わらない。


「……」


「……」


 強化による追走劇が続くこと数秒。

 公園の端で有馬少年の足が止まった。


 この公園はかなりの広さがあるものの、俺たちが本気で走ればあっという間に公園の外に出てしまう。

 有馬少年は、まだ公園を去る気はなかったのだろう。



「ちっ!」


 地面を蹴るようにして振り返った有馬少年。

 苛立った様子を隠そうともせず、こちらに視線を送ってくる。


「……」


「話を聞いてくれるかな?」


「……あんた、何なんだ?」


「君と少し話がしたいだけだよ」


「……」


「あやしいものじゃない」


「その格好で?」


 帽子、サングラスにマスク。

 やっぱり、あやしいのか……。


「この暑いのにニット帽にマスクなんて、不審者にしか見えないんだけど」


「……」


「僕を襲うつもりなら、やめた方がいい」


「そんなことはしないさ」


「……」


「さっきから言ってるように、君と話がしたいだけだ」


「……信じられないな」


 信じられなくても、ここは話を聞いてもらうしかないんだよ。


「そもそも、見ず知らずの他人の話なんて聞きたくない」


「他人じゃない」


 他人どころか……。


「なら、誰なんだ?」


 君自身。

 なんて、言えるわけない、か。


 いや……。


 話しても?


「……」


 いや、いや。

 やっぱり、正体は明かせないよな。


「顔を隠して、名前も名乗らず、僕を追いかけてくる相手を信じろって? そんなこと無理に決まってる」


「……」


「それに、僕の全力疾走について来るなんて……。はぁ~、今日はもういいか」


 溜息と共に公園から足を踏み出そうとしている。

 先程とは違いゆっくりとした足取りだが、その全身からは拒絶の意志が溢れ出ているかのよう。

 それでも……。


 このまま帰すわけにはいかない。


「君!」


 一歩近づき右腕を掴もうとした俺に対して、腕を振るようにして避けた有馬少年。

 体を横に回転させ、そして!


「!?」


 殴りかかってきた!


「……」


 突然の蛮行に驚きはしたものの、回避には成功。

 一歩だけ距離を取る。


 だというのに、後退した俺に有馬少年の脚と拳が飛びかかって。


「っ!」


 こいつ、血の気が多すぎる。


「おい!」


 位相世界とはいえ、ホントに俺なのかよ。


「よすんだ!」


「……」


 制止の言葉を無視して、連続で攻撃を仕掛けてくる有馬少年。

 15歳とは思えぬ鋭い正拳にキレのある蹴技だ。

 が、今の俺にとっては何事でもない。





 一呼吸終えるまで続いた連撃もようやく終了。


「はあ、はあ、はあ……」


 有馬少年は距離を取って呼吸を整えている。


「はあ、はあ……。僕の攻撃が、はあ……すべて防がれた」


 まあな。

 15歳の自分に負けるはずないだろ。


「くそっ!」


 それより。


「こっちは君に害意などない。何度も言っているように、話がしたいだけなんだ」


「……」


 おっ!

 やっと聞く耳を持ってくれたか?


「顔を隠した相手の言葉なんか、聞く気はない!」


 まだなのかよ!


「はぁ……」


 強情なやつだ。

 もう、仕方ない。


「これを聞いても同じことが言えるかな?」


「これって何だ?」


「……オルドウ」


「えっ! なっ! どうして??」





*****************************


<古野白楓季視点>




「止まれぇ! 止まって!!」


 幸奈さんの叫びが異空間に響き渡る。

 異能発動、そのはずなのに……。


 吾妻は嗤っている。

 動いている。

 少し動きが鈍いような気もするけど、静止してはいない。


「……」


 僅かな時間、対象者の動きを止める幸奈さんの異能が不発?

 いえ、そうじゃない。

 不完全な発動なんだわ。


「古野白さん、武上君……ごめんなさい」


「幸奈さん……いいのよ」


 異能に目覚めたばかりの彼女。

 発動が安定しないのも当然のこと。

 責めることなんてできない。


「問題ねえぜ。初心者の力に頼るつもりはねえよ」


 そうよね、武上君。


 これは想定内。

 問題ないのよ。


「ごめんなさい……」


「姉さん、体内の異能力を感じるんだ。それを掴めれば、ちゃんと発動できるから」


「……」


「何度か試してみて」


「……うん、分かった」


「古野白さん、武上さん、姉さんが異能を発動するまでお願いします」


「ああ、任せとけ。つうか、オレたちだけで倒してやらぁ。なあ、古野白」


「……ええ」


 簡単に勝てる相手じゃないことは、よく分かっている。

 それでも、この24時間で何度もシミュレーションしてきたのよ。

 他のやり方だってあるわ。


「幸奈さんのことは武志君にお願いしてもいいかしら」


「はい!」


「それと、例の結界もお願いね」


「もちろんです!」


「頼もしいわ」


 今回は前回と違う。

 必ず勝つのよ!


「古野白、いくぜぇ!」


「了解!」





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[良い点]  未来の自分に会う……SFならヤバい奴ですが、どうなるか!?
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