第507話 集団戦 3
俺の足下には、うつ伏せに横たわる和見家秘書。
完全に意識を失っている。
「……」
彼は高ステータスでもなければ、異能を持っているわけでもない。
ただ銃を所持しているだけの一般人。
そんな相手に今の俺が苦戦するはずもない、か。
ほんと、素人で助かったよ。
さあ、残る敵は……。
ダン!
ダン!
後方では、ふたりの射撃手が幸奈たちに向け銃弾を放ち続けているが、全て防壁に阻まれている。
異能攻撃には耐えられない防御壁も、拳銃の前では万全の防御力を誇るようだ。
ダン!
ダン!
防壁を追加し四方を固めた3人は鉄壁の守り。
防壁を乗り越えられるおそれもない。
心配は無用だな。
では、鷹郷さんは?
「アイスアロー!」
「ウォーターボール!」
氷系異能者、水系異能者と異能戦を展開している。
「ウインド!」
ステータスも異能の熟練度も鷹郷さんが上。
2人の異能者相手でも問題はないはず。
となると、俺は……。
ダン!
ダン!
「駄目だ。銃じゃ崩せない!」
「どうする?」
射撃手2人がなす術なく防壁の前で立ち尽くしている。
「後ろに加勢するか? それとも……」
「退く?」
「……」
逃げるつもりだな。
なら、こっちか。
「なっ、お前!」
退路に立ち塞がった俺に、2人が足を止め。
「う、撃て!」
ダン、ダン!
ダン、ダン!
さすがに、近距離からの四連銃撃は厳しいものがある。
とはいえ、今回は正面からの真正直なもの。
引き金にかかる指と銃口を強化した眼で注視していれば、避けるのも不可能じゃない。
「この!」
ガチン!
ガチン!
カチッ、カチッ!
「弾切れか?」
「くっ!」
「ちくしょう!」
あれだけ派手に銃撃を続けたんだ。
弾切れするのも当然だろ。
「……うわぁぁ!!」
自棄になっての捨て身の攻撃?
逃げないのは立派だが、もちろん通用するわけがない。
「ぐっ!」
殴りかかってきた相手を昏倒させ、後ろにいる自失状態の男も一撃で征圧。
これで、拳銃を所持していた6人全員が地に伏したと。
戦闘不能状態ってことだ。
ということで……。
残すは、鷹郷さんが対峙する2人だけ。
「ウインド!」
「っ! アイスアロー!」
「ウォーターボール!」
俺の目の前で繰り広げられているのは、さっきと同様の異能戦。
3人の異能が宙を飛び交っている。
しかし、これだけ異能を使ってもスタミナ切れしないとは。
ステータスというより、運用効率の問題かもしれないな。
やはり、魔法とは共通点が多い。
異能と魔法か……。
「有馬君、今の状況は?」
「鷹郷さんは?」
おっ!
壁の中で守りに徹していた3人が外に出て来たようだ。
「……御覧の通りですよ」
異能者相手に鷹郷さんが戦闘を優位に進めているものの、倒しきれてはいない。
「っ! 加勢するわよ!」
「了解!」
状況確認後、即断で参戦を決定。
2人が颯爽と駆けていく。
後ろ姿が頼もしいな。
「功己さん、拳銃は大丈夫でしたか?」
この場に留まった俺の隣には15歳の幸奈が佇んで……。
心配そうに、潤んだ目で見上げている。
「功己さん?」
この世界に来てから、もう何度も見た光景だ。
もちろん、元の世界でも。
なのに……。
「どこか、痛むんですか?」
「……いや、まったく問題ない」
「よかったぁ」
「……」
これは?
胸の奥に湧きだすこの感情は?
幸奈の現実を知って、何か変化が?
「ほんとに大丈夫なんですよね?」
「ああ……。そっちはどうだ? 怪我はないか?」
「わたしは壁の中にいましたから、何ともないですよ」
「そうか……」
非現実な現実の前で、少しばかりおかしくなってしまった?
「……」
そういうこと、なのだろう。
「鷹郷さんたちは大丈夫かな?」
そうだ。
俺のことより、異能戦。
戦闘の行方は?
「ストーンバレット!」
「ウォーターボール!」
「ウインド!」
部下2人の異能を風で操る鷹郷さん。
相変わらず見事な連携を見せてくれる。
対する敵は防戦一方。
反撃もままならない。
「……大丈夫みたいですね」
まあ。
3対2となった時点で、決まったようなものか。
実際、今にも勝敗が決しそうに見える。
「あっ、やりましたよ!」
「父の件も解決しましたし……。功己さん?」
「うん?」
「元の世界に戻っちゃうんですね」
「……ああ」
「……」
「……」
駐車場での襲撃事件後。
和見家に戻った鷹郷さんたちは幸奈の父を捕らえ研究所に連行することになった。
俺と幸奈も研究所には同行したものの、取り調べに関与することはなく詳細も知らされずということで。
いったん屋敷に戻ることになったというわけだ。
まっ、幸奈の今後については鷹郷さんから太鼓判をもらったので、とりあえず安心していいとは思っている。
もちろん、まだまだ不安は消えてくれない。
完全に払拭するなんて無理というもの。
とはいえ、いつまでもこの世界に留まるわけにはいかないのだから。
期限の24時間が迫った今が潮時だろう。
「……戻っちゃうんだ」
和見家の地下で位相間の移動を行う予定に変更はない。
変更はないが……。
「こればかりは試してみないと分からない」
「難しいんですか?」
「簡単ではないな」
「なら、失敗したら、しばらくはここにいるんですよね?」
「まあ、そういうことになる」
「そっかぁ……」
「失敗した方がいいかな?」
「えっ! そんな、違いますよ。思ってませんから、そんなこと」
慌てる幸奈の目が笑っている。
つまり、そういうことだ。





