第506話 集団戦 2
<古野白楓季視点>
空中の歪みの中から現れた吾妻が、こちらに気付いた!
「吾妻さん!」
「ああ」
今頃気付いても、もう遅いわ。
強化した脚で猛然と駆ける武上君が目前にいるのよ。
避けられないでしょ。
「うおぉぉ!」
私の放った炎弾にも劣らぬ速度で吾妻に接近した武上君の右拳、そして炎の塊が炸裂!
バアァァン!
やった!!
……と思ったのに!?
炎弾は空間異能者が持つ大きな盾で防がれ。
武上君の拳は吾妻が左腕でいなしている。
「危なかったですねぇ、吾妻さん」
「……」
初撃は失敗。
けど、これも想定していたこと。
「幸奈さん、お願い!」
「はい!」
「武上君、次の手よ」
「おう!」
異空間に24時間も閉じ込められていた私たちの今の身体は万全じゃない。
だから、ここは短期決戦を。
武志君でも幸奈さんでも、利用できるものは何でも使わせてもらうわ。
最初から全力でね!
大きく息を吸った幸奈さん。
その息を吐き出すように。
「止まれぇ!」
「……!?」
僅かな時間、対象者の動きを止めるという幸奈さんの力。
まだ能力に目覚めたばかりで、発動も安定しない幸奈さんの異能。
その特殊な異能が!
「……」
「……」
「……」
静まりかえる異空間。
「やったか、姉さん?」
「……分からない」
微妙な手応えみたいだけれど、吾妻は止まっている。
成功、したのよね?
「動けねえ敵なんてなぁ、倒しても嬉しかねえが」
「……」
「そうも言ってられねえんでな。眠ってもらうぜ!」
吾妻に武上君が襲い掛かる。
いくら凄腕の異能者でも、身動きが取れないなら敵じゃない。
これで決着よ。
「なにぃ!?」
えっ!?
動いた!
武上君の一撃を吾妻が躱した!
動けないはずの吾妻が後ろに跳んで武上君の拳を!
「てめえ、動けんのかよ?」
「……」
「ってことは、失敗したのか」
発動したように見えたのに?
「幸奈さん?」
「……ごめんなさい」
異能は不発。
吾妻は自分で動きを止めていただけ?
「……」
「姉さん、もう一度だ!」
「ええ!」
そうよ。
何度でも試せばいい。
大きく頷いた幸奈さんが深呼吸。
そして!
「止まれぇぇ!!」
一度目以上の音量。
発動は?
「……吾妻さん?」
「……大丈夫だ。問題ない」
だめ。
今回も効いていない!
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ドン!
ドカン!!
敵異能者の放ったウォーターボールとアイスアローが防御壁に激突。
「……」
2撃目も何とか持ち堪えたようだ。
ただ、これじゃあ、次の攻撃は防げそうにない。
正面を守る水壁は消滅寸前、土壁にも無数のひびが入っているのだから。
とはいえ、左右の防御壁は万全。
銃弾を完璧に防いでくれている。
その射撃者たちに向けられた鷹郷さんの操風の異能も……。
「うわぁ!」
「ああぁ!」
敵ふたりの無力化に成功。
「ウインド!」
「ぎゃあ!」
さらなる追撃で3人目も撃破!
素晴らしい精度だな。
それでも、射撃手2人を逃してしまったか。
「先にそいつらを始末するんだ!」
和見家秘書の命令で2人が向かうのは俺たちの後方。
狙いは幸奈たち!
「鷹郷さん?」
「こっちは気にしなくていい。お前たちは幸奈さんを守れ!」
「了解!」
幸奈の守りに入った土系異能者と水系異能者。
「サンドウォール!」
「ウォーターウォール!」
ダン!
ダン!
即座に防御壁を展開して、銃弾から身を守っている。
ダン!
ダン!
防壁はびくともしない。
問題なさそうだな。
さて、現状は……。
鷹郷さんと俺は防御壁内に留まったまま。
後方では、車と新たに構築した防御壁の間に身を隠す幸奈たち3人。
全員が無傷で継戦可能。
対する敵方は、射撃手3人が戦闘不能状態。
残る2人が幸奈たちと対峙している。
俺たちの目の前には、和見家秘書と2人の異能者。
こうなると。
「有馬君、出るぞ!」
当然、鷹郷さんも分かっている。
「了解です」
「君は残ってもいいんだぞ」
「だから、今さらですよ」
「ふっ、そうだな」
「アイスアロー!」
「ウォーターボール!」
「今だ!」
敵の異能攻撃が正面の防御壁にぶつかる直前。
鷹郷さんと俺は左右の壁を飛び越えて、防御壁から出撃。
氷矢と水弾によって崩壊する防御壁を尻目に前へ駆ける。
「鷹郷さんは異能者をお願いします」
拳銃を持つ和見家秘書の相手は俺だ。
「くそっ!」
ダン!
ダン!
秘書が放った銃弾を右に跳躍して回避。
ダン!
3撃目の銃弾も上半身を捻って避ける。
「く、くるな!」
ダン!
ダン!
至近距離から放たれた連弾。
以前なら避けられなかったかもしれないが、今の俺なら回避可能だ。
まっ、ギリギリだけどな。
「このバケモノめ!」
ダン!
最後の銃撃を躱し、手刀を秘書にプレゼント。
「うっ!」
簡単に意識を手放してくれた。





