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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
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第504話  反故



 この老人、魔力の流れを感知できるのか?

 それとも、単なる推測?

 鎌をかけているだけ?


「……」


 興味津々といった様子でこちらを見つめている坊城老人。

 その眼の奥に隠された考えは?


 だめだ、読み取れない。


「どうかな?」


 返答に困ってしまうが、このまま黙っているわけにも。


「……特別なものは何も見てません」


「あの眼で何も見ていない?」


「その通りです」


「では、君の身躯、臓腑を流れる異様な力は? それが気の流れだとして、何のために気を巡らしていたのかな?」


「常に気を循環させているだけです」


「力の流れに特段の意図はないと?」


「はい」


「眼への力の集中も常態だと?」


「……はい」


 苦しい釈明だということは重々承知している。

 けれど、上手い回答が思いつかないんだ。

 見逃してくれ。


「……」


 明らかに納得していない表情。


「今、君の眼には力が集まっていないようだが……」


 見えているのか?

 やはり、坊城老人は魔力を感知できる!


「どうなっているのかな?」


「……」


「眼への集中が常態では?」


 それは……。


「……集中が切れただけです」


 我ながら、酷い言い訳だ。


「ほう、集中が切れたか」


「……」


 これはもう、完全に見透かされていると考えた方がいいだろう。


「なるほど」


 それでも、魔力の存在だけは知られるわけにはいかない。


「坊城さん、彼は異能者ではなく普通人です」


「ふむ」


「それくらいで勘弁してもらえると?」


「……ちとやり過ぎたか」


「……」


「興が乗ると、どうもいかん」


「……」


「君、老人の好奇心を許してくれるかな?」


 これは、見逃してくれる?

 そうだよな。


「……許すも許さないもありません」


「そうか」


「はい」


「ふっ、ふふふ」


「……」


「ふふ、今日は好いものを見ることができたわ」


 口も目も笑っているのに、まったく笑っている感じがしない。

 その妖しくも不気味な声色に鳥肌が立ちそうになる。


「気乗りせなんだ和見の依頼だったが、あやつにも感謝せんとなぁ」


「坊城さん、では、私たちはこれで」


「ふむ。迷惑をかけた詫びに、ひとつ忠告しておこう」


「……何でしょう?」


「和見は執念深い男だ。この後も気をつけた方がいい」


「幸奈さんに、またあのような行為を強いると?」


「可能性は高いであろうな」


 まだ諦めがつかないのか。


「そのために、まず狙うは誓約書」


「これを奪いに?」


 鷹郷さんが手にしているのは、会談で作成した公式文書。

 虐待行為を二度と行わないと誓約した文書だ。

 それを奪いに来る?


「無論、行動に移さない可能性もあるが、用心に越したことはなかろう」


「……ご忠告、痛み入ります」


「ただの迷惑料だ。気にすることはない」


「いえ、それは」


「よい、よい。君、また会える日を楽しみにしておるぞ」


 あの奇妙な笑みを浮かべ去って行く坊城老人。


「……」


 孤高の異能者、か……。


 身に纏う並ではない空気、矍鑠(かくしゃく)とした佇まい、世故にたけた物言いに、妖し気な様子。

 掴みどころがない不思議な人だったな。


 この老人が壬生伊織と同じ人物。

 だとしたら。


「……」




 さて、一難去ってまた一難。

 坊城老人が去るのを見計らったように近づいて来る8名の気配。


「ふたりとも、そのまま幸奈さんを守って車の後ろに隠れるんだ」


「「はい!」」


「有馬君、君も車の後ろへ下がりなさい」


「私は残ります」


 近づいて来る8名の内、異能者は2人だけ。

 それぞれが使える力は氷と水。

 異能界ではよく見かける能力だ。

 特別注意が必要な異能じゃない。


 対するこちらの戦力は3人の異能者と俺。

 問題なく戦える態勢と考えていい。

 ただ、今回は……。


「普通人の君を危険にさらすわけにはいかん」


「今さらですよ。邪狼狗とも戦いましたし」


「今回は対人戦になる。しかも、相手は飛び道具を使ってくるんだぞ」


 そう。

 異能者以外の普通人が手にしている物が厄介なんだ。


「飛び道具の相手を、鷹郷さんひとりに任せるわけにはいきませんから」


「後ろのふたりの異能援護がある。私ひとりじゃない」


「なら、私も安心して戦えますね」


「……怖くないのか?」


「もちろん、拳銃は怖いですよ。ただ、この状況で逃げる気にはなれません」


「自信があるんだな?」


「どうでしょう」


「ふっ、とんでもない普通人だよ、君は。いや、もう普通人とは呼べないか」


 どこからどう見ても、俺は普通人ですよ。


「来たぞ!」


 歩み寄って来る8人の男たち。

 先頭を歩くのはふたりの異能者とひとりの普通人。


 この普通人だけは見覚えがある。

 さっきの会談に同席していた普通人だな。


「鷹郷君」


「何でしょう?」


「分かってるだろ。書類を渡してもらおうか」


「書類とは?」


「とぼけなくていい。社長がサインした公文書だよ」


「既に話し合いは終わっています。和見さんの秘書である貴方に文書を渡す必要はありませんね」


「ふっ、これを目にしても同じことが言えるかな?」


 男の号令で後ろの5人が拳銃を構えた!


「その行動の意味が分かっているのですか? ただではすみませんよ」


「関係ないな」


「和見の家がどうなってもいいのですね?」


「どうにもならんさ」





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― 新着の感想 ―
[良い点]  うーむ、やはり点滅は確定か……  いや、点滅では済まなかったりして(笑)
[一言] 坊城老人は一体何者だったのか…… しかも今度は拳銃! でもコーキさんなら避けるか弾くか出来そうですよねww しかし和見父、やっぱり嫌なやつだぁ(`-д-;)
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