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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
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第503話  老人


<古野白楓季視点>




「何も起こらねえな」


「……」

「……」

「……」


「もう24時間経つってのによ」


 有馬君が消え、吾妻たちが姿を消してから約24時間。

 相変わらず私たちはこの異空間に閉じ込められたままでいる。


「吾妻たち、もう来ねえとか……なわけねえか?」


「……ないと思うけど」


 でも……。


 まさか、私たちの消耗を待つ作戦?

 吾妻たちが?


「だよな。兵糧攻めなんて、くだらねえことする奴じゃねえわ」


 私もそう思う。

 ただ、異能戦ではどんなことでも起こり得る。

 数々の戦闘での経験から、私はそれを知っているから。


「武上君、覚悟だけはしておくべきね」


「……」


「油断、軽視、浅慮、これらが導く散々な結末を、あなたは重々理解してるでしょ」


 甚大な損害を被った邪狼狗戦から小さな失敗まで。

 数えきれない失態を経験してきた私と武上君。

 油断も浅慮も、もっての外なの。


「まあな。で、古野白には何か考えがあんのか?」


「……自力で脱出するしかないわ」


「結局、そうなんのかよ」


「ええ」


 難しいのは分かっている。


「ちっ、やるしかねえな」


 この24時間、試し続けても叶うことのなかった脱出。

 いまだ脱出方法の手掛かりすら掴めていない。


 それでも、生き残るためにはやるしかないの!


「食料も水もねえ状況だ。力のあるうちに脱出口を見つけんぞ」


「わたしと武志も探します!」


「おう、頼むぜ!」


「はい! でも……。もし見つからなかったとしても……」


「幸奈さん、何かしら?」


「その、功己が必ず戻って来ますから!」


「……」


「だから、きっと何とかなります!」


「……そうね」


 彼なら何とかしてくれる。


「そう思いたいわね」


 ふふ。

 私も有馬君のことを相当信用しているのかも。

 もちろん、幸奈さん程ではないけれど。


「オレも有馬なら戻って来ると思うんだけどよ。ただ、もう24時間だぜ。あいつ、外で何かあったんじゃねえのか?」


「例えば?」


「外で、吾妻や壬生の連中とやりあっているとか?」


 その可能性は充分考えられる。


「で、怪我したとか。あいつらに……負けたとか?」


「っ! 功己は負けません!」


「……」


「絶対に負けません!!」


「姉さん、興奮しすぎだって」


「興奮なんかしてないわ」


「してるだろ」


「してない……」


 幸奈さんの有馬君への想いが痛いほど伝わってくる。

 でも、状況は冷静に判断しないといけないのよ。


「外のことなど分かるわけないわ。だから私たちは最良から最悪まで、あらゆる事態に備えて動かなくちゃいけない」


「……」


「……」


「そうよね、武上君」


「んん? ああ、そうだな」


「古野白さん……ごめんなさい」


「謝る必要はないわね」


「……」


「まあ、あれだ。今はやれることだけやっとこうぜ」


 吾妻たちが戻って来ないことも有馬君が現れないことも、全てのことを想定して。

 今は脱出方法を探るのみ。


「みんな、探すわよ」


「おう……って、ちょっと待て!」


「武上君?」


「あそこ、見てみろ!」


 武上君が指さした空間。

 そこに小さい歪み?

 これは?


 吾妻が現れる!?





*******************************





「坊城さん、何か御用でしょうか?」


 駐車場の前に現れたのは坊城老人とふたりの男性。会談にも同席していた異能者ふたりだ。


「用と言えば、そうなのかもしれん」


「会談は終了したはずですが?」


「和見の家についてではない。そも、決定事項に口を出すつもりはないな」


 それは助かる。

 壬生少年と同じ異能を持つ坊城老人と争うとなると、面倒なことになるだろうから。


 しかし、そうなると、何の話を?


「そこな者についてだ」


「……」


 坊城老人の眼は鷹郷さんから、こちらへ……?

 俺に用がある?


「彼がどうかしましたか?」


「ふむ……。君は異能操者かな?」


 操者?

 異能者のことか?


「私は異能を使えません」


「使えぬ?」


「……はい」


「ならば、会談中にこちらを見た君の眼は? あれは何であろう?」


 俺の眼?

 まさか鑑定?

 鑑定しているのを見抜かれた?


「眼と言われましても、私には分かりませんが……」


「尋常一様ではない光をともした眼を自覚していない。異能によるものではないと?」


「……」


「坊城さん、彼は異能者ではありません。研究所内の訓練施設でも異能発動を検知できませんでしたので」


「その際に使わなかっただけ、ではないのかな?」


「……異形戦においても、発動は確認できませんでした」


「ふむ。では、あの眼とその身に流れる異様な力は? 何の力でもないとは到底思えないのだが?」


 この坊城老人、魔力を感知している!?


「……」


 日本では誰も気付くことができなかった俺の魔力。

 壬生少年も魔力の流れには気づけなかった。

 それを初見の老人が!


 壬生少年よりも優れた能力を持っているのか?


「未知の力かな?」


「それは……」


 話すことなんてできるわけもない。


「気ではないでしょうか? 以前、少し学んだことがありますので」


「わざわざ気を眼に集めて、こちらを眺めたと?」


「……」


「ふむ。気を込めた目で何が見えるのか……面白い!」


「……」


「君、教えてもらえないかな?」


「……」


 言葉に窮してしまう。


 まずいぞ。

 これでは露見が!





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[良い点]  まさかの露見ピンチ!?  やはり、奴の目は欺けないのか……
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