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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
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第502話  会談



<異能>

 揺魂、魂移、念動力


 3つの異能を持つこの男性……。


「……」


 もちろん、この老異能者は壬生伊織ではない。

 鑑定でも違う名前が明示されている。


 ただし、それは肉体が異なるというだけ。

 なら……。

 器の中に入っているのは、俺の知る壬生伊織じゃないのか?


 それとも、全く同じ異能を持つ異能者?

 そんな人物が存在すると?


「……」


 ひとつの異能ならあり得る話だと思う。

 けれど、こいつは壬生少年と同じ3つの異能を所持している。


 ダブルでさえ希少とされる異能の世界において、トリプルの異能者で、その全ての異能が一致しているという事実は……。


 やはり、中身は壬生伊織。

 5年後の壬生少年である可能性は高い。


 いや、待てよ。

 ここはただの過去ではなく位相世界。

 ということは……。


 ……。


 ……。



「異能発現のためと称した虐待行為は今後二度と行わない。この約定を破った場合は、即座に我々が幸奈さんを保護する。これでよろしいですか?」


「そんなもの飲めるわけがない」


「……」


「そもそも、称してなどおらん! 正真正銘、異能発現こそが目的だ!!」


 和見父の怒声で、老異能者についての考察が中断。


 ……交渉の行方は、どうなっている?


「仮に異能発現のためだとしても、未成年の虐待など認めることはできません」


「あれのどこが虐待なのだ!」


「すべてが虐待に相当します」


「何だと! 異能培養液に娘を入れて何が悪い。娘の幸せの為なんだぞ!」


「おぞましい液体に入ることを強要する。充分に虐待と言える行為です」


 俺が考え込んでいる間に、会談はかなり進んだように見える。

 とはいえ、結論には至っていない。


「娘が望んだことだ」


「幸奈さんはそのようなこと望んでいません。ですよね、幸奈さん」


「……はい」


「幸奈、お前!」


「それに加え、他者の異能を何度も浴びせるという蛮行。これを虐待と言わずして何と言うのです」


「……」



「理解してもらえたようですね」


「……」


「それでは、決着ということで! 虐待行為は二度と行わない。約定違反を確認した時点で幸奈さんは我々が保護。こちら、異能全家門に効力のある公式文書に記させてもらいます」


「ちょっと待て! 文書は必要ないだろ」


「いいえ、必要です」


「っ! あんたらは、いつも横暴すぎる!」


「……」


「先生、何とかしてください」


「……」


坊城(ぼうじょう)先生!」


 壬生少年ならぬ坊城老人が閉じていた目を開いた。


「……今日は同席するだけ。そう伝えたはずだ」


「ですが!」


 顔を真っ赤に染めた幸奈の父親はいきり立っているが、坊城老人や他の3人は悠然としたもの。

 無関心と言っても過言ではないような態度だ。


「これは、非常識な越権行為ですよ!」


「……」


「もはや異能家に対する侵略行為です。これを認めれば、今後はどうなることか!」


「……」


「先生!!」


「ふむ……」


 坊城老人が鷹郷さんに初めて視線を。


「……研究所員の皆さん、少々過ぎたる行為ではないのかな?」


「いえ、こちらとしてはかなり譲歩したと思っております。これまでの和見氏の行為に対しては実質不問にしていますし、今後も行動を慎めば我々が介入することはありませんから」


「……」


「かなり穏当な処置かと」


「この先の研究所の有り(よう)に変化は?」


「我々の行動が変わることはありません。今回はあくまで未成年に対する特例措置です」


「なるほど」


「坊城さん、ご理解いただけましたか?」


「……ふむ」


 坊城老人は納得してくれたようだ。

 残る3名も変わりはない。

 ただ、幸奈の父親は。


「先生!」


「和見君、ここは受け入れなさい」


「そんな!!」


「そもそも、君の娘に異能発現の予兆はないのだ。培養液など無駄というもの」


「……」


「では、今度こそ決着ということで。和見さん、よろしいですかな?」


「……」


 もちろん、幸奈の父親は承諾などしたくないだろう。

 まったく納得していない、そんな顔をしているのだから。


 それでも坊城老人の威光は凄いもので、会談はそのまま終了してしまった。


 こちらとしては希望通りの決着に文句もない。

 坊城老人の登場という想定外はあったものの、拍子抜けするくらいの会談だったかな。


 ちなみに、その坊城老人。

 主流派からは離れているらしいが、異能界隈ではかなり有名らしい。

 孤高の凄腕異能者といったところか。







「鷹郷さん、皆さん、今日はありがとうございました」


「……力になれて良かったよ」


「これで少しは安心して過ごせるかな。まあ、僕は何もしてないけど」


「ほんと、私たち黙って座っていただけだもんね」


「とんでもないです。皆さんのお力がなければ、父は話も聞いてくれなかったと思いますから」


 その通り。

 俺と幸奈のふたりでは、相手すらしてもらえなかっただろう。

 鷹郷さんと部下のふたりがいてくれたからこその、この結果だ。


「本当に感謝しています」


「幸奈ちゃん、感謝はもういいよ。こちらも仕事なんだからさ」


「でも……」


「それより、家にいなくていいの?」


「その……居づらくて」


「まあ、そうだよね。けど、今日は戻るんでしょ?」


「……はい」


 戻りたくない気持ちは良く分かる。

 俺としても帰したくはない。

 ただ、そうもいかないのが現実……。


「何かあったら、すぐ連絡してくれればいいからね」


「ありがとうございます」


「うん、うん、幸奈ちゃんはいい娘だなぁ」


「そんなことないです」


「いい娘だよ。その上、可愛いし」


「……」



 あの父親のことだ。

 また何かやらかす可能性も低くはない。

 とはいえ、しばらくは大人しくしているはず。


 それに、幸奈の話を親身になって聞いてくれるこの女性異能者がいれば!

 彼女や鷹郷さんがいれば、俺がいなくなっても何とかなる。

 そう考えるしかない、か。



「可愛い幸奈ちゃんは、お姉さんが守ってあげるからね」


「僕もだよ」


「えっ、あっ……はい」


「しっかし、こんな娘にあの親爺は!」


「ほんとに!」


「……」


 若干弛緩した帰り道。

 このまま車に乗り込めば、あとは研究所に戻るだけ。


 駐車場もすぐそこ。

 だったのだが……。


「ふたりとも、彼女を守るんだ!」


「「えっ?」」


「すんなりとは帰れないようだぞ」


 俺たちの前に立ち塞がったのは……。






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― 新着の感想 ―
[良い点]  なぬ……まさか坊城老人!?  だとしたらどの世界でもコーキと戦う運命にあるのか……(期待)  え、違う!? 失礼しました!
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