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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
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第499話  神秘


<古野白楓季視点>




「あいつ、戻って来ねえな」


「……」


「もう12時間だぜ」


「……有馬君にも事情があるのよ」


「この状況以上の事情なんて、あったもんじゃねえだろ」


「それは……」


 そうかもしれない。

 有馬君の性格なら、すぐにでもこの空間に戻って来そうなものだから。

 なのに、もう12時間……。


「向こうで何かあったのかも」


「何かって、何だよ?」


「そんなの分かるわけないでしょ」


「……まあな」


「……」


 有馬君の不在は私たちにとって歓迎できることじゃない。

 けど、それ以上にまずいのは皆が彼を頼りきっているという事実。

 精神的に依存しているとさえ思える現状。


「……」


 この空間に来た当初は、私たちだけで何とかするという気概に満ちていたのに、今は武上君も私も……。


「吾妻との再々戦は有馬抜きってことも考えられるな」


「……」


「ちっ、厄介な戦いになりそうだぜ」


「……そうね」


「ほんとによぉ。邪狼狗戦に匹敵すんじゃねえのか」


「……」


 一度依存してしまった心を立て直すのは難しい。

 いつも能天気な武上君ですら、この調子なのだから。

 武志君も幸奈さんも……。


 そう思い、ふたりの方に視線を向けてみると。

 幸奈さんが私に笑顔を見せ、そして。


「大丈夫です。コーキは戻って来ます!」


「幸奈さん」


 ずっと黙っていた幸奈さんが、いきなり強い口調で断言を。


「必ず戻って来ます」


 依存ゆえの盲信なの?


「心配要りません」


「……」


 穏やかでありながら有無を言わさぬ確信の表情。

 盲信じゃない?


「どうして断言できるんだ、姉さん?」


「これまでも、そうだったから」


「これまでって何だよ? こんなこと初めてのはずなのに」


「そうだけど……」


「やっぱり、何か隠してるだろ?」


「……」


 堪えるように口をつぐむ幸奈さん。

 過去に何かあったの?

 だから、断言を?





***********************





 トトメリウス様のお言葉を拝聴し戻って来たオルドウ。

 夜の帳が下り始めた大通りには魔道具の光が灯り、家路を急ぐ人々の足も速くなっている。


「あと2時間」


 オルドウに移動後、約10時間が経過。

 もうすぐ帰還するわけだが……。


 余った時間をどう使うべきか?


「……」


 特にすることも思いつかない。


 こうなると感じ始めるのが空腹感。

 こちらに来てからオルドウ、テポレン山、魔落と駆けずり回るだけで、その間は何も口にしていない。

 当然だな。


 ならば、帰還前に腹ごしらえを。

 ということで足を向けた先は夕連亭。

 食事はもちろん、確認しておきたいことがあるからだ。


 ウィルさん……。


 正直、黒都カーンゴルムで別れて以降は、慌ただしい日々の中で彼女のことを考える余裕もなかった。


 幻影と呼ばれる凄腕のヴァルターさんが傍にいるのだから問題はない。

 そんな思いもあって、彼女のことを気にすることなく長い時間を過ごしてしまった。


 けれど、こうしてオルドウにいる今。

 時間があるなら、現状を確認しておくべきだよな。

 黒都カーンゴルムに滞在していたウィルさんも、オルドウに戻っているだろうし。


「……」


 20歳の俺がこの世界で最初に深く関わりを持ったのが夕連亭。

 良い思い出と苦い思い出が、今もしっかりと心に残っている。


 セーブとリセットでやり直した、あの時。

 一歩間違えば、全てがあの時点で終わっていた。

 本当に運が良かった。


 しかし……。


 不思議なものだな。


 リセットと時間遡行を通して感じ始めた時間という神秘。

 それに加え、今は位相というものまで……。


 位相、異界、神域。

 時も空間も、世界は超常の謎に溢れている。


 自分は何も知らなかったんだと痛感してしまう。


 それなのに、ほんと……。


 俺は恵まれているよ。

 あり得ない程の幸運だと思う。

 こんなことを身をもって体験でき、さらには助言を与えてくださる方までいるのだから。


 トトメリウス様。

 心の底から、感謝しております。


「……」


 これまでも自分なりに色々と考えることがあった時間と空間の謎。

 さっきのトトメリウス様のお言葉で、なんとなく見えてきたものがある。


 そう……。


 トトメリウス様の言葉は多くない。

 詳細を語ってくださるわけでもない。

 人の身に対して語るには、限度があるだろうから。


 今回も一言、二言、暗示的な言葉をくださっただけ。

 それでも、含蓄に満ちた言の葉は、こちらの目を大きく開かせてくれるものだった。


 これで、何とかなる。

 元の世界に戻ることができる。

 そう思えるくらいに。


 本当にありがたいことだ。


 そんなことを考えながら通りを歩き続け、気付けば夕連亭に到着していた。





「お久しぶりです」


 夕連亭の入り口には、懐かしい顔。

 宿の主人ベリルさんだ。


「コーキさん! オルドウに戻っていたのですね?」


「はい。何とか無事にオルドウに戻ることができました」


「重畳ですな」


「ありがとうございます。ベリルさんは、お元気でしたか?」


「はは、私は何も変わってませんよ」


「変わりがないのは何よりですね。それで、ウィルさんは?」


「ウィルですか……まだ戻ってませんが」


「えっ?」


 カーンゴルムでウィルさんと別れてから相当な日数が経過しているのに、まだ帰ってない?


「何かあったのでしょうか?」


「詳しいことは私にも分かりません。ですが、元気ではいるみたいです」


「というと?」


「ウィルから手紙を貰ったんですよ。そこに、黒都での近況が少し書いてあったものですから」


「ああ、なるほど」


「どうも黒都滞在が長引いているようでして。まあ、そのうち元気に帰ってくるでしょう」


 それなら、一安心だ。


「コーキさんは、今日はお食事で?」


「はい。席はあります?」


「大丈夫ですよ。では、奥の席でお待ちください」





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― 新着の感想 ―
[良い点] トトメリウス様のお言葉が気になる〜! [一言] 更新お疲れ様です!
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