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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
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第496話  邪狼狗 5



 これまでと変わらず拳撃も蹴撃も邪狼狗の体をとらえているのに、手応えがない。

 何度攻撃しても、手足に残る感触は同じ。


 ただ、これは……。

 手応えがないというより、軽い感じか?


『効かぬなぁ』


 やはり、ダメージはほとんどないようだ。


『クククッ』


「……」


 困った。


 邪狼狗の攻撃は恐るるに足りないとはいえ、こちらの拳が通らないのでは倒しようがない。

 (らち)があかない。

 あと数撃で倒せる状態だというのに……。


 このまま急所を狙って少しずつでも削っていくか?

 それとも……。


「おそらく、あれは透過だろう」


 次の手に迷い、距離を取った俺に届いたのは鷹郷さんの声。


「とうか、ですか?」


「ああ、異形の持つ特殊技能だ」


「透過は、力を持った異形が使える異能みたいなものよ」


 なるほど。

 さっき鑑定できなかった邪狼狗のスキルがこの透過か。


「……」


 念のため、もう一度鑑定だな。



<スキル>


威圧、透過、隠形



「!?」


 見えた!

 一度目は見抜けなかった邪狼狗のスキルが、どういうわけか認識できる!


 威圧と透過に気づいたから?

 だから、鑑定が反応したと……。



「透過中の異形には、異能攻撃しか効果がないの」


「こうなった以上、あんたの攻撃は効かねえ。あとはオレたちがやるから、下がってくれ」


「距離を取るだけじゃない。退くんだ!」


「……」


「普通人の君が戦う必要はない!」


「有馬さん!」


 古野白さんも武上少年も鷹郷さんも、まだ戦える状態じゃないのに俺の心配を。


「……」


「早く後退するんだ!」


 しかし、後退は……。


 どう考えても、それはないな。

 3人を残して退くという選択肢なんて選べるわけがない。


「鷹郷さんたちは自身の回復に専念してください、こちらは平気ですので」


「君!」


「有馬さん!」


 大丈夫。

 鑑定によると、透過状態に効く攻撃は異能だけじゃないようだからな。

 ある意味、異世界の化け物と同じだ。


 ただし、それを使うと手の内を見せることになる。

 露見のリスクも増してしまう。


「……」


 まっ、事ここに至っては、ある程度は仕方ない。

 点滅で済ませれば問題ないだろ。




『考えても無駄だ』


 視線を邪狼狗に戻してみれば。

 俺の攻撃が通らないと確信し、余裕の表情を見せている邪狼狗。


『ククッ、さっきまでの勢いはどうした?』


「こっちは何も変わってないぞ」


『下らぬ虚勢を! 痴れ者が!』


 虚勢でも強がりでもない。

 攻撃を通す自信があるんだよ。


「そっちこそ、口だけか? 仕掛けてこないのか?」


『下等種風情が生意気な!』


 大異形がこんな安い挑発に乗るとは。

 相当頭にきているようだ。


 おっと、この動き?

 満身創痍だというのに速度が上がっている。


『◇&%!!』


 端麗な顔を鬼のような形相に変え、飛び込んでくる邪狼狗。


 確かに速いが、今の俺の敵じゃない。


『△$#!』


 軽くステップを踏むように突撃を躱し。


『&*@!』


 振るわれる腕も避けていく。


『●@¥!!』


 こいつ、興奮すると何を言ってるか分からない。

 ただ耳障りなだけ。


「……」


 もう、いいだろう。


『△%#!』


 自身には攻撃が効かないと油断して放つ防御無視の大振り攻撃。

 そんなもの、当然のように隙だらけだ。


 これまでは使っていなかった魔力を右の拳に纏わせ、強化した正拳をその隙に叩き込んでやる!


 ドン!!


 よし、手応えあり。

 魔力を纏う前の、軽い感触とは全く違う。

 鑑定の指摘通り、魔力を含んだ攻撃は効果ありってことだな。


 さて、邪狼狗はというと。


『!?』


 予期せぬ痛みに、声も出ない様子。

 目を見開き、動きも止まっている。


 無防備極まりない体勢だ。

 なら、次は腹部に左拳を一発。


 ドスッ!!


『グウッ!!』


 鈍い感触がしっかりと伝わってきた。


『ウゥゥ……』


 邪狼狗は痛みに身を屈め、蹲ろうとしている。


 これで終わりだな。

 足裏に魔力を集め、右足を上げようとした瞬間。


『……オオオォォォォォォ!!!』


 今にも倒れ込みそうだった邪狼狗から咆哮が!


『オオォォォォォォォ!!!』


 屈んだ状態で顔だけを上に向け、叫声を上げている!


「……」


 至近距離で放たれた威圧の咆哮。

 耐性のある俺でも、これはキツイものがある。


 とはいえ……。

 動けないことはないんだよ!


 魔力充填済みの右足を上げ。


『ォォォォォ……』


 咆哮を終え、力を使い果たした邪狼狗に向け。

 真正面から、右足の蹴りを……。


 ドゴン!!


 叩き込んだ!!


『!?』


 驚愕に歪んだ顔で吹き飛ぶ邪狼狗。

 数メートル先の地面に沈……。


 立ち上がった!?


 まだ動けると?


「……」


 さすが大異形。

 とてつもなく頑丈な体だな。


『&#◇……』


 ただ……。

 立ったと言っても、もはや死に体。

 足を引きずりながら、後退して行く。


『……』


 向かう先は、里村や幸奈がいる後方。

 あいつらを人質に取るつもりか?


『△*$……』


 いや、3つ目のスキルで身を隠すつもりかもしれないな。


 スキル隠形。

 これは単に姿を消すスキルじゃない。

 生物の中にその身を隠すという自己封印スキルだ。


 鑑定によると、数百年に渡る封印の中で体得した新スキルらしい。


『@&¥……』


 もちろん、そんなことはさせないが。


 足を引きずる敵に詰め寄るのは容易いこと。

 今度こそ決めさせてもらうぞ。


 邪狼狗に向け足を踏み出したところで。


「行かせないわ!」


 古野白さん……もう回復を?


「炎弾!!」


「……」


 清冽な気合と共に放たれた豪炎が、邪狼狗を追う俺を越えていき……着弾!!


『ギャアァァァ!!』


 獄炎が邪狼狗を覆い尽くす!


『◇#●# ァァァ……』


 燃え盛る炎の中、悲鳴が消え……。


 炎が消え……。


 そして……。


 邪狼狗が消滅した!!





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― 新着の感想 ―
[良い点]  やった!  露見もないのかな?(露見が怖い笑)
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