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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第10章  位相編
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第495話  邪狼狗 4



『惨めなものよ』


 古野白さんの髪を右手で掴み、宙に吊り上げる邪狼狗。

 身体の自由が利かない古野白さんはされるがまま。


「うっ!」


『ククッ、ハハハ!』


 苦痛に歪む顔に、残忍な嗤いを浴びせかけている。


『さて、この娘にも炎で同じ苦痛を与えてやらねばの』


「ううぅぅ……」


『フフ、餓鬼共の慰み者にするのも悪くないのう』


「放せ!!」


『泣き叫ぶ姿を見るのが愉しみじゃ』


「てめえ!!」


『いや、餓鬼にやるのは惜しいな。このまま喰らうてやるか』


「放しやがれ!!」


 憤怒の表情で叫ぶ武上少年が、足を引きずりながら古野白さんの傍らへと近寄っていく。

 その後ろには、こちらも不自由な身体で続く鷹郷さん。


 ふたりとも、ダメージが残った体では動くのも辛いはずなのに。

 許せない気持ちでいっぱいなんだろう。


 もちろん、俺も同じ思いだ。



『放す? @%&□』


「このクソ狗っ!」


『汚い口を △#&*!』


「っ!」


 まずい!

 必死に詰め寄ろうとする武上少年に、邪狼狗の方から接近している。


 古野白さんを右手に持った状態で眼前に迫って。

 強烈な蹴りを顔面に!


「!!」


 させるわけないだろ!!


 一呼吸で邪狼狗との距離を消し去り。

 側方から右腕を掴み、無理やり引き寄せる。

 力任せの粗い動きだ。


『@#¥!?』


 それでも、武上少年に向けられた邪狼狗の脚は宙を蹴り、バランスを崩した体はこちらのもとへ。

 その体勢のまま、右腕を握る手にさらなる力を加え捩じ上げてやる。


『グガッ!』


 すると、邪狼狗は髪からあっさり手を放し古野白さんを解放。


「!?」


「!?」


 ここまでに要した時間はほんの僅か。


「えっ?」


 その身は自由になったものの、あまりに短い時間での状況激変に古野白さんの理解が追いついていない。

 当惑の表情で地面に座り込んでしまった。


「……」


 少し休ませてあげたいところだが、今は。


「鷹郷さん、武上君と一緒に離れるんだ」


「……有馬さん?」


「早く」


 威圧から脱していない彼女を戦闘に巻き込むわけにはいかない。


「っ、はい!」


 こちらの意図を汲み取ってくれたのか。

 困惑を残しつつも素直に頷き、下がっていく。



『ギギッ……放せ』


「それは無理な相談だな」


 よし。

 後ろのふたりに合流した古野白さんが、十分な距離を取ってくれた。

 これで、少し安心できる。



「古野白、大丈夫か?」


「はい。動きづらいだけで、外傷などはないです」


「そうか……」


「鷹郷さんは? それに、武上君の怪我は?」


「私も身体が重いだけで問題はない。武上は……」


「大丈夫ですよ」


「防御できたのね」


「当然!」


「古野白も武上も無事で何よりだ。ところで、あの彼は? 邪狼狗相手に戦える、と?」


「戦える腕があるのかどうか、正直私には分かりません。ですが、今も凄かったですし、それに……」


「どうした?」


「訓練室で、武上君に勝ったんです」


「武上に……」


「はい。それも、子ども扱いで」


「おまっ、それ違えだろ」


「違わないでしょ」


「惜敗だってぇの。鷹郷さんが勘違いすんじゃねえか」


「どこが惜敗なのよ」


「どう考えても惜敗だ」


「あなたねぇ、何度も同じこと言わせないで」


「……」



 ふたりとも……。

 随分と元気じゃないか。


 それに、このやり取り。

 5年後のふたりを見ているようだ。



「古野白、彼の名は? どんな異能を使う?」


「名前は、有馬さんです」


「有馬……」


「鷹郷さん、知らないんですか? 彼、鷹郷さんに会うために研究所に来たと言ってましたよ」


「私に会いにわざわざ研究所まで?」


「そうです」


「……」


「鷹郷さんが知らねえって、あいつ誰なんだ?」


「今は思い出せない。が……過去にどこかで会っているのかもしれないな。それで、彼の異能は?」


「……」


「何か問題でも?」


「その……持ってないそうです」


「持ってない? 彼は異能を持っていないのか!」


「……本人は異能を持たない普通人だと言ってました」


「……」



 俺の話はどうでもいいんだが……。

 まっ、これだけ話ができるなら3人とも大丈夫だろ。


 ということで、こちらはと。


『◇&#!』


 俺から逃れようと暴れている。

 もちろん、逃す気はない。


 武上少年が受けた激痛、古野白さんの苦痛に対するお返しをしないといけないのだから。


『◎:%!』


 しかし、こいつ……。


『*¥●&%!』


 何言ってるんだ。


 自分が優勢な時は饒舌だったのに、今はさっぱりだぞ。

 動揺すると言語化できなくなるのかよ。


『△@%!』


 ただ、言いたいことは何となく理解できる、か。

 分かっても分からなくても、やることは一緒だけどな。


『△¥;◎!』


『$@□!!』


 そう興奮しなくても、すぐに相手してやる。

 まずはと……。

 もう少し手に力を加えて。


 メリッ、メリッ!


『◎%&$!!』


 メリッ、メリッ、メリッ……ボキッ!


『ギャアァァァ!!』


 結構、効くだろ。


『*@△……』


 次はこれなんかどうだ。

 手を放し、自由になった邪狼狗の腹に向けて。


 ドゴン!!


 武上少年が受けたのと同様の蹴りだぞ!


『アアァァァ!!』


 悲鳴を上げ、吹っ飛んでいく邪狼狗。

 地面を数メートル転がり続け……。

 止まったその場で倒れ伏している。


『ウゥゥ……』


「……」


 この邪狼狗。

 どうも、さっきから動きが良くないな。

 古野白さんの炎弾で大きなダメージを受けているとはいえ……。


 いや、最初からステータス以下の動きしかしていない。

 封印が解けたばかりで、本来の力を発揮できないってところか?


『下郎がぁ ¥△@%◇!』


 まっ、そっちの事情は関係ない。

 さっさと終わらせるとしよう。


 満身創痍の邪狼狗に接近し、決着の一撃を……。


 うん?


 もう一撃……??


 なんだ?

 手応えがない。


 さらに攻撃を加えても、やはり……。


 邪狼狗をとらえたはずの拳撃も蹴撃も、まったくダメージを与えているようには見えない。


『フフ、ハハハ』


 何が起こっている?





第3章に挿絵を追加しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  まだ何か手を隠している!?  凄まじい強敵ですね!
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